米利上げ加速で新興国は通貨安 世界経済の新たなリスクに

アメリカが急ピッチで利上げを加速し、ドル高傾向が強まるなか、新興国では通貨安が進んでいます。自国通貨の下落によってインフレの加速や国の債務膨張につながり、世界経済の新たなリスクとして警戒が高まっています。

アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会は27日、0.75%の利上げを決めました。ことし3月から4回連続で利上げを行い、金融引き締めを強化しています。

この結果、外国為替市場では、金利が高くより利回りが見込めるとして、ドル高の傾向が強まっています。

一方、新興国ではドルに対して通貨安が進んでいます。

このうち、インドでは通貨ルピーの相場が今月中旬に1ドル=80ルピー台まで下落し、ドルに対して過去最安値になりました。また、東南アジアのフィリピンやタイ、南米のチリなどでも通貨安が続いています。

通貨安は、輸出の増加につながるメリットが期待される一方、輸入品の価格を押し上げてインフレ圧力が高まります。また、ドル建ての債務が膨らんで返済負担が増加し、新興国の経済に打撃となるおそれがあります。

南アジアのスリランカでは、借金を重ねて債務が拡大するとともに外貨不足と通貨安も重なって経済危機に陥りました。

今月開かれたG20=主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議では、新興国経済の動向が今後のリスクになると指摘され、警戒が高まっています。

各国の通貨安の状況は 過去最安値更新も

新興国では急速に通貨安が進み、ドルに対して過去最安値となった通貨も出ています。

このうち、インドのルピーは、今月中旬の時点で、ドルに対してことしはじめと比べておよそ7%下落し、1ドル=80ルピー台をつけて過去最安値を更新しました。

タイのバーツは今月中旬には、ことしはじめと比べておよそ11%値下がりし、およそ15年ぶりの安値となりました。

さらに、フィリピンのペソも、今月中旬の時点でことしはじめと比べておよそ10%下落し、およそ17年ぶりの水準まで通貨安が進みました。

また、南米のチリでも、ペソが今月中旬にはことしはじめと比べておよそ24%値下がりし過去最安値となったと伝えられているほか、深刻な経済危機に陥っているスリランカでは、スリランカルピーが急激に値下がりし、ことし5月には年初と比べておよそ87%下落しました。

タイ 通貨安でインフレ加速 市民生活にも影響

通貨安が進む新興国の中には、輸入品が値上がりしてインフレが加速し、市民の暮らしが苦しくなっているところも出ています。

タイの首都バンコクなどに11店を展開するタイ料理の食堂は、豚肉のあげ焼き・ムートートや炒め物をかけたごはんを1皿25バーツ(日本円でおよそ90円)からという価格で提供してきました。

しかし先月、すべての料理を一律2バーツ(およそ7円)値上げしました。一律の値上げは2004年の創業以来初めてだということです。

背景には、原材料価格が高騰していることに加え、タイの通貨バーツが安値となり、輸入品の価格が押し上げられていることがあります。

タイでは料理をプラスチックの袋に直接入れて持ち帰りますが、プラスチック製品の仕入れ価格は4月以降およそ10%上昇。調理用のガスの価格は5月以降およそ10%上昇し、豚肉の価格も餌などの価格が上がっているため、5月以降、およそ5%上昇したということです。
タイの全体の消費者物価の上昇率も先月には7.6%となり、およそ14年ぶりの水準まで高まっています。

食堂のヌワンナート部長は「バーツ安は当面、続くと思っている。値上げは避けられず、最低限にとどめるのがお客さんにとって最善の策だと考えた」と話していました。

一方、利用客の女性は「輸入品はほとんどが値上げされてしまった。今の状況は通貨危機が起こった1997年と比べると同じぐらいか、それより悪いかもしれない」と話していました。

また、利用客の男性は「節約できるものは節約し、必需品ではないものは使わないようにするしかない」と話していました。

ブラジル “通貨安防ぐための利上げ”で企業苦境

一方、ブラジルは通貨安を防ごうとアメリカに先駆けて去年3月から11回連続で利上げを進めてきました。

政策金利は現在、13.25%まで上昇しました。利上げによって通貨レアルの下落は一定程度抑えることができています。

しかし、急激な金利の上昇が企業や消費者の負担になっています。
ブラジル最大の都市、サンパウロを拠点とする、宿泊場所の仲介を行うスタートアップ企業は、ビジネスパーソンや旅行客に、宿泊場所として賃貸マンションの空き部屋などを紹介しています。

しかし、利上げなどによって消費は低迷。部屋を借りたいという人の需要は減少しています。宿泊料をこれまでより10%ほど値下げせざるをえなくなりました。

このスタートアップ企業は、今後の経営プランの見直しを迫られていると言います。

トマス・グスCEOは「金利上昇によって引き起こされたのは経済活動の減速です。借り入れが難しくなり、企業は新しい技術や工場などへの投資を減らし始めています」と話しています。

専門家「新興国の景気減速は世界経済全体のリスク」

新興国経済に詳しい大和総研の増川智咲エコノミストは、「新興国にとってはようやく景気が持ち直してきたタイミング。それをアメリカの利上げによって自国での利上げを迫られた状況で、景気回復の腰を折るリスクがある」と述べるとともに、「資源の輸入額が増えているため貿易赤字が拡大したり、財政や債務の状況も悪化したりしていて、通常よりも新興国から資本流出が起こるリスクは高くなっている印象がある」と指摘しました。

そのうえで「新興国は世界経済を成長させるドライバーとしての力があるので、その景気が減速すること、さらには社会不安や政治不安が起きてそれが波及するような事態になるとそれは世界経済全体にリスクになる」と話していました。