経済版「2プラス2」共同声明案 半導体や先端技術で日米協力

日米の外務、経済閣僚が経済分野の議論を行う新たな協議の枠組み、いわゆる経済版の「2プラス2」の初会合がまもなくワシントンで行われますが会合でとりまとめる共同声明の案が明らかになりました。
半導体などのサプライチェーンの強じん化などに日米で協力して取り組むことを強く打ち出す方向です。

日米両政府による経済版の「2プラス2」は、日本時間の29日午後10時ごろに始まる予定で▼日本からは林外務大臣と萩生田経済産業大臣が、▼アメリカからはブリンケン国務長官とレモンド商務長官が出席します。

この会合でとりまとめる共同声明の案によりますと日米は、世界やインド太平洋での自由で公平な経済ルール、持続可能な経済成長を支持し、こうしたビジョンを新たな経済連携、IPEF(アイペフ)インド太平洋経済枠組みを活用しながら推進するとしています。

また、半導体などのサプライチェーンの強じん化や先端技術の育成や保護の必要性を確認し、日米で協力して取り組むとしています。

また会合では個別の課題ごとに具体的な行動計画を示す見通しで中国やロシアを念頭に「経済的威圧への対抗」や「サプライチェーンの強じん化」など4つの柱を掲げ、日米が主導してルールにもとづく国際的な経済秩序作りを進めたいとしています。

政府はアメリカとの共同開発を視野に次世代の半導体の研究開発拠点を新たに整備する方針を表明することにしています。

このほか会合では日本が海外に依存するLNG=液化天然ガスなどの資源の確保についても話し合うことにしています。

経済版「2プラス2」とは

いわゆる経済版の「2プラス2」は、日本から外務大臣と経済産業大臣が、アメリカから国務長官と商務長官が参加して経済分野の議論を行う新たな協議の枠組みです。

ことし1月、岸田総理大臣とバイデン大統領による日米首脳会談で、協議の枠組みを設けることで合意していて、今回、初めて開催されます。

日米両政府はこれまで外務・防衛の閣僚協議を開催し、両国の外交・安全保障上の課題や協力のあり方などについて、意見を交わしてきました。

一方で近年は、AI=人工知能やドローンなど軍事転用も可能な先端技術が発達したことで、経済と軍事の線引きが難しくなっています。

加えて中国などが多額の融資を通じて途上国への影響力を強めていて、外交と経済政策が一体化しつつあります。

このため日本としても、外交政策の基軸である日米同盟の協力の範囲を経済分野に広げることで、インド太平洋地域での新たな経済秩序の構築につなげたい考えです。

焦点1 半導体の供給網

今回の会合では、世界的に供給が不足している半導体を安定的に調達するためサプライチェーン=供給網の強化についても議論が交わされる見通しです。

半導体は、家電や自動車、スマートフォンなどあらゆる電子製品に欠かせない中核部品ですが、需要が急拡大するなかで世界的に供給が不足し、自動車メーカーなどの生産に影響が広がりました。

こうした中、経済安全保障の観点から半導体の確保をめぐる国際的な競争が激しさを増していて、日本政府も、半導体の技術を「安全保障にも直結する死活的に重要な戦略技術」と位置づけ国内での産業基盤の強化に取り組んでいます。

一方、アメリカは、先端技術をめぐって中国と激しく対立する中、自国の半導体産業を資金面で支援するとともに輸出管理の強化も進めています。

半導体には多くの製造工程があり、日本は、製造装置や素材に強みがあり、アメリカは、設計技術の面で圧倒的な競争力があります。

ことし5月に行われた日米首脳会談では、重要な技術の保護・育成や、サプライチェーンの強じん性を確保するために協力していくことを確認し、
▽次世代の半導体の開発に向けた共同タスクフォースの設立や、
▽経済安全保障の強化に向けてさらに協力していくことでも一致したとしています。

日本とアメリカは同盟国として引き続き半導体のサプライチェーンの強化や重要技術の保護などに協力して取り組む方針です。

日米の半導体産業は台湾に大きく依存

半導体の製造は、いま世界的に台湾に大きく依存しています。

去年の半導体の世界市場における売り上げのシェアは、アメリカが49.8%を占めています。
しかし、実際の製造はファウンドリーと呼ばれる受託生産メーカーが多くを担っています。

ファウンドリーとして有力なのは台湾のメーカーで、世界最大手「TSMC」は、世界全体のシェアの50%以上を占めています。

このため台湾海峡でひとたび有事が起きれば、世界の半導体供給に深刻な影響が出ると懸念されています。

そこで、日本とアメリカが連携し半導体の供給網を強化することで特定の地域への依存度を下げる必要性が指摘されているのです。

日本は、世界市場での半導体の売り上げシェアが、8.8%にとどまっていますが、シリコンウエハーなど半導体の材料では56%、製造装置では32%のシェアがあります。

さらに、▼データを記録する「メモリ」や▼電気を効率よく動力に変換する「パワー半導体」などでも日本メーカーが一定の競争力を保っています。

一方、世界市場で半分近くのシェアを占めるアメリカは、高度な演算処理を行いパソコンやスマートフォンに不可欠な「ロジック半導体」の設計や開発で世界をリードしています。
ロシアによるウクライナ侵攻などで世界情勢が不透明感を増す中、日本とアメリカが連携し互いの強みを生かすことで、半導体の安定供給につなげることができるかが注目されています。

焦点2 「ビジネスと人権」

今回の会合のテーマのひとつが「ビジネスと人権」です。

アメリカのバイデン政権は、人権侵害を理由に中国への圧力を強めています。

6月には、中国の新疆ウイグル自治区で強制労働によって生産された製品の輸入を禁止する法律が施行されました。

これによって企業がアメリカに製品を輸出する場合、製品だけでなく、調達した原材料なども強制労働によって生産されていないことを示すよう求められるケースが増えるとみられます。

こうした動きを踏まえ日本企業の間では、▼アパレル大手が新疆ウイグル自治区で生産された綿製品の使用中止を決めたほか、▼ユニクロを展開するファーストリテイリングが、綿花の農家などを自社で確認する専門のチームを立ち上げるなど、対応を迫られています。

こうしたなか今回の会合では、企業の活動から強制労働などの人権侵害を排除するための具体的な枠組みづくりなど、さらに踏み込んだ対応で合意できるかも注目されます。

焦点3 「エネルギーと食料の安全保障」

今回の会合では、エネルギーや食料の安全保障についても議論が交わされる見通しです。

エネルギー

ロシアによる軍事侵攻を受けて、日本とアメリカはG7=主要7か国と足並みをそろえ、ロシアへの経済制裁を強めています。

ただ、自国で原油やLNG=液化天然ガスを生産するアメリカとは異なり、日本はエネルギー自給率が1割あまりとG7の中で最も低い水準で、ロシアを含め海外にエネルギーを依存しています。

こうした中、6月30日、ロシアのプーチン大統領が、日本企業も参加する天然ガスの開発プロジェクト、「サハリン2」について、事業主体をロシア企業に変更するよう命じる大統領令に署名したことで、日本がこれまでどおりロシアから天然ガスを調達できるかどうか、不透明になっています。

このため日本としては、エネルギー不足に陥らないよう今回の会合でアメリカとの関係をさらに強化したいというねらいがあります。

食料

一方、食料をめぐって両国は、このところの価格の上昇が経済に悪影響を及ぼすおそれがあるという見方で一致しています。

またロシアの軍事侵攻が引き起こした世界的なインフレによって中東やアフリカ諸国などで食料危機への懸念が広がっていることから会合ではこうした問題についても協議するとみられ、日米で協力して対応することを確認する見通しです。

専門家「日米で研究開発 双方にメリット」

今回の2プラス2で半導体分野における日米の連携が強化されれば、世界的に不足している半導体の安定供給や研究開発の加速につながると専門家は指摘しています。

半導体業界に詳しいイギリスの調査会社、「オムディア」の南川明シニアディレクターは、「アメリカの半導体市場における売り上げのシェアは世界でおよそ50%あるが、実際に作っているのは海外で、特に台湾に依存している。地政学リスクの高まりは非常に心配だ」と述べ、米中の対立などが深刻になれば、半導体の供給にも影響が及びかねないと指摘しました。

その上で、「アメリカからすれば、台湾に頼る一本足打法は危険を伴うので、日本がその一端を担うような存在になることは非常に重要になってくる」と述べ、地政学的なリスクを軽減するためにも、日米の連携が欠かせないという見方を示しました。

さらに先端半導体の開発に向けては日本が製造装置や材料に強みを持つことを指摘し、「半導体メーカーは設計だけすればいいというものではない。実際に半導体を作るには設計と装置、材料の3つが揃わないとできない。アメリカだけで、先端技術を開発していくことが難しくなっていて、日米の連携が強固になれば開発期間の短縮にもつながる」と述べ、日米で研究開発に取り組むことは双方にとってメリットがあると指摘しました。

「経済版2+2」アメリカの狙い

日米の外務、経済閣僚が経済分野の議論を行う新たな協議の枠組み、いわゆる経済版の「2プラス2」についてアメリカは経済安全保障の強化につなげたい狙いがあります。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響で半導体をはじめとした製品の供給網が遮断され、アメリカ経済に大きな打撃を与えるなど、経済の安全保障の問題が国家の安全保障に直結するリスクが浮かび上がっています。

特に半導体は、ハイテク分野だけでなく軍事技術でも重要性が増していますが、アメリカは世界全体に占める生産シェアが低下し、台湾などからの輸入に依存しています。

このため同盟国の日本と▼半導体や鉱物資源の安定供給に向けた対策や▼次世代の半導体の開発で協力を深めることで経済安全保障を強化する方針です。

また今回の「2プラス2」では中国の新疆ウイグル自治区の人権状況などを念頭に、企業の活動から強制労働など人権上の問題を排除するための枠組みづくりなども議題となる見通しです。

アメリカは人権侵害を理由に中国への圧力を強めていて、バイデン政権としては世界各地に多くの生産拠点を持つ日本とともに人権重視を掲げる姿勢を改めて強調したい考えです。

日米が検討「石油上限価格設定」

ロシアへの制裁の一環として検討されているのが、ロシア産の石油への上限価格の設定です。

6月のG7=主要7か国の首脳会議で、バイデン政権の高官が「G7の首脳たちは、上限価格を設定するための仕組みを作るため、関係省庁に指示を出す方向で最終調整をしている」と明らかにし、首脳声明にも「今後、模索していく」と盛り込まれました。

さらに、7月開かれた日米財務相会談のあとの共同声明でもG7が上限価格の設定に取り組んでいることを歓迎する姿勢を示しました。

バイデン政権の高官によりますと、その狙いは2つで、▼軍事侵攻を続けるロシアの資金源を断ち切ることと▼高騰するエネルギー価格の抑制です。

アメリカのメディア、ブルームバーグは今月6日、アメリカなど関係国は1バレルあたり40ドルから60ドルに設定する方向で議論していると伝えました。

また、方法については、関係国は▼設定された上限価格を超えた場合は、ロシア産の石油を運ぶ船舶への保険サービスの提供を認めず、▼上限価格を超えてロシア産の石油を輸入した輸入業者に対して制裁を科すなどの仕組みを検討しているとみられています。

ウクライナ侵攻後 ロシアからの石油輸入増やす中国とインド

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まったことし2月以降、中国とインドはロシアからの石油の輸入量を大幅に増やしています。

資源関連の調査会社「タンカー・トラッカーズ・ドット・コム」によりますと、軍事侵攻前に比べて中国はロシアからの海上輸送による石油の輸入量を3.1倍に増加させています。

また、インドはこれまで、主に中東諸国から石油を輸入していましたが、侵攻後はロシアからの輸入が48.7倍と急増しています。

中東諸国よりも安い価格でロシアから調達できるようになったことが背景にあると見られています。

アメリカの専門家 石油上限価格設定「効果的とも思えない」

ロシア産のについて、エネルギー安全保障が専門のアメリカ海軍大学院のブレンダ・シェイファー氏は「現実的とも効果的とも思えない」と述べ、懐疑的な見方を示しました。

そして「主要なすべての国々の協力が得られるか、あるいは、ロシアに制裁を科すだけでなくほかの国に対しても制裁を科すいわゆる2次制裁を科すことができれば、効果があるだろうがいずれも難しい。中国はロシアへの制裁に参加しないだろうし、2次制裁は中国やインドとのある種の闘いを始めることになり西側諸国は実行する意欲がないだろう」と分析しました。

さらに、欧米がロシア産の石油の輸入を制限する措置をとったことで、中国がロシアから安い価格で調達しているとして、「われわれは、中国が大きな恩恵を受ける石油市場を作り上げてしまった。制裁の勝利者は中国だ」と述べました。

一方、アメリカが上限価格の設定に意欲を示していることについては「ロシアに対して強硬で、何かできるのだといいたいのではないか」と述べバイデン政権の国内向けのアピールだという考えを示しました。

日米の経済関係

アメリカはGDP=国内総生産が世界第1位の経済大国で、日本にとって輸出入ともに金額ベースで中国に次ぐ2番目の貿易相手国です。

外務省によりますと、去年の日本からアメリカへの輸出額はおよそ14兆8300億円と輸出全体の18%を占め、主に自動車や自動車用部品、それに車両用エンジンなどを輸出しています。

一方、去年のアメリカからの輸入額はおよそ8兆8900億円と輸入全体の10%を占め、主に医薬品や穀物類、それに液化石油ガスを輸入しています。

また、アメリカにとっても、日本は輸出入ともに金額ベースで4番目の貿易相手国で、両国の経済は補完し合う関係にあります。

ただアメリカにとっては日本との間の貿易赤字の解消が長年の課題となっています。

このため前のトランプ政権は、日本から輸入する鉄鋼やアルミニウムに高い関税をかけるといった保護主義的な政策を進めました。

さらにトランプ政権は多国間での貿易自由化の枠組みにも否定的な立場をとり、日本が参加するTPP=環太平洋パートナーシップ協定からも離脱しました。

今のバイデン政権も国内経済を優先する方針で、TPPの復帰に否定的な立場を崩していませんが、ロシアのウクライナへの軍事侵攻などによるサプライチェーン=供給網の混乱などを受けて、各国との経済連携を模索する動きを見せています。

ことし5月には、覇権主義的な動きを強める中国を念頭に、新たな経済連携であるIPEF=インド太平洋経済枠組みの立ち上げに向けた協議を開始すると発表しました。

IPEFには、日本を含む14の国が参加を表明していて、▽デジタルを含む貿易や▽サプライチェーンなど4つの「柱」を設け、共通のルール作りを進めることにしています。

日米協調の重要性

新型コロナウイルスの感染拡大やロシアの軍事侵攻などによるサプライチェーン=供給網の混乱などを受けて、日本とアメリカが協調し、世界的な課題に対処する必要性が高まっています。

新型コロナの感染拡大では、世界的な半導体不足のほか、部品の調達が滞ったことから自動車の生産が落ち込むなど製造業を中心に大きな影響が出ました。

このため日米両政府は、5月に行った首脳会談などで半導体の生産体制や供給網を強化することなど、経済安全保障の分野で協力を進めることで一致しています。

またウクライナへの軍事侵攻を受け、日本とアメリカはロシアへの経済制裁を協調して行い、半導体などの輸出を禁止したほか、自由貿易の基本原則である最恵国待遇の撤回などに踏み切りました。

このほか両国は、中国がインフラ整備などを通じて途上国への影響力を強めていることから、インド太平洋地域での質の高いインフラの整備に向けて支援や投資を行うことにしていて、覇権主義的な行動を強める中国も念頭に、協力していく姿勢を鮮明にしています。