コロナ感染者急増 各地で医療機関・介護施設などに影響

政府は都道府県が独自に「対策強化宣言」を出し、早期のワクチン接種など感染対策を強く呼びかける仕組みの導入を決めました。

東京都内の高齢者施設では、本来は医療機関に入院が望ましい重症の高齢者を施設内で治療せざるを得ないケースが発生しています。

厚生労働省のまとめによりますと全国の高齢者施設で確認されたクラスターなどは7月24日までの6日間で前の週より41件多い337件にのぼり、専門家会合は今後、高齢者を中心に重症者や亡くなる人が増えることが懸念されるとしています。

感染の第6波では病床のひっ迫で入院できず施設内で療養せざるを得ないケースが相次いだことから、各地で施設に医師を派遣して高齢者を治療する取り組みが進められています。

東京 板橋区のクリニックの鈴木陽一医師は、区内にある高齢者施設に入所する新型コロナの患者を訪問して診察しています。

このうち今月26日に訪問した高齢者施設では酸素吸入器を使用している90代の女性の治療にあたり、ベッドに横たわった女性に声をかけながら酸素の状態を確認して抗生物質を注射していました。

医師によりますと女性は今月中旬に発症し、症状が出た日に血液中の酸素の値が79%になって危険な状態と判断され救急車を要請したといいます。

ところが、4時間以上たっても搬送先が見つからなかったため酸素吸入器を取り寄せ、施設内で治療を続けざるを得なくなったということです。

鈴木医師が往診を担当している3つの高齢者施設では、継続的に医師の診察が必要なコロナ患者があわせて15人ほどいて、この女性を含む2人が呼吸や栄養状態が悪く、入院が望ましい状態でしたが、病床のひっ迫によって入院できなかったということです。
板橋区役所前診療所の鈴木医師は「本来は入院したほうがよい高齢者も今はどこにも入れないので施設でできる治療をする状態になっている。第5波、第6波で施設のスタッフも医療者も経験を積んだことで対応力は上がっていて今は持ちこたえているが、さらに感染が拡大すれば耐えきれなくなる場面が出てくるかもしれない」と話しています。

自宅療養者の急増受け往診依頼殺到

新型コロナウイルスの感染拡大や自宅療養者の急増を受けて、往診を行う医師のもとには依頼が殺到しています。

医師のグループでは、重症リスクのある患者を見逃さないため、症状を丁寧に聞き取って対応にあたっています。

夜間や休日に救急患者の往診を行う医師グループ、「ファストドクター」には感染の拡大に伴って往診の依頼が殺到していて、多い日には200件以上、断らざるえないこともあるということです。

重症化のリスクが高い人に医療が提供できるようコールセンターでは、患者の症状や緊急性があるかどうか、自分で病院に行くことが難しいかどうかを詳しく聞きとっていました。
さらに、医師グループでは、自治体から直接診察の必要があると判断された自宅療養者の往診も行っていますが、その依頼も急増しているため、一般の受け付けを制限せざるをえないこともあるといいます。

取材で訪れた午後7時すぎにも一時的に予約を停止していました。

また、自宅療養者の中には、入院の必要があってもすぐには受け入れ先の医療機関が決まらないケースも増えてきているといいます。

このうち、都内で自宅療養中の90代の男性は、1週間以上発熱が続き、入院を希望していたものの調整がついていないということで往診した医師は、保健所に電話で患者の症状を報告した上で、入院が必要な状態だと伝えていました。
「ファストドクター」の代表、菊池亮医師は「感染者が急増していて、すべてを受け止めるのが難しいのが現状です。重症化リスクが高い人に医療を提供できるよう“トリアージ”を強化したい」と話しています。

都内 自宅療養者急増 7月1日の10倍超に

爆発的な感染拡大で、東京都内では自宅で療養する人が急増していて28日時点でおよそ17万9000人になりました。

7月1日はおよそ1万7000人だったので、7月だけで10.6倍になっています。

7月21日には10万人を超えて第6波のピークを超え、その後もたびたび最多を更新しています。

また、入院するか自宅や宿泊療養をするか調整中の人は28日時点で7万人余りで、7月1日時点の11.5倍になりました。

28日開かれたモニタリング会議で都の医療提供体制を分析している東京都医師会の猪口正孝副会長は、「療養者数が大きく増加して、現在、都民のおよそ60人に1人が検査陽性者として入院・宿泊・自宅のいずれかで療養している。全ての療養者に占める割合は自宅療養者と入院・療養などの調整中の人がおよそ96%と多数を占めている」と指摘しています。
各地でも感染急拡大による対応に追われています。

埼玉 自宅で陽性判定できる仕組み運用

埼玉県は医療機関の負担を減らすため、発熱などの症状があって医療機関での検査や診療の予約が取れないなどの場合、自宅に抗原検査キットを郵送したあとオンラインで医師の診断を受け、陽性の判定ができる仕組みを運用しています。

対象は、重症化リスクが比較的低いとされる、基礎疾患のない50歳未満の人です。

発熱などの症状があって医療機関での検査や診療の予約が取れないなどの場合、ウェブサイトで申請すると抗原検査キットが2日前後で自宅に届けられようになっています。

検査キットで陽性となった場合、県のウェブサイトを通じてオンラインで医師の診断を受けられるということです。

県によりますと、この仕組みは7月20日から運用していて配布できる上限は一日2000個ですが、毎日、上限に達しているということです。

このため埼玉県は国から配布される予定の検査キットなども含め上限数を増やす方向で検討しています。

群馬 検査キットの無料配布へ

群馬県は60歳未満で、基礎疾患が無く重症化リスクの低い人の中で発熱などの症状がある人には検査キットを郵送し、みずから検査してもらう仕組みを8月上旬から運用する方針です。

一日に用意する検査キットの数や検査後の具体的な手順などは現在、群馬県医師会などと検討を行っているということです。

群馬県は、この取り組みによって検査のために医療機関を訪れる人を減らし、負担軽減を図りたい考えです。

宮城 大規模接種会場の予約急増

宮城県などが設けているワクチンの大規模接種会場では31日の終了を前に予約が急増していて、多くの人が接種に訪れています。

宮城県と東北大学などが仙台駅東口のビルに設けているワクチンの大規模接種会場は、一日におよそ2000人の接種を受け付けてきましたが31日で終了となります。

県によりますと、県内で新型コロナの感染が急拡大していることや医療従事者や高齢者施設のスタッフなどにも4回目の接種対象が拡大したことなどから今月22日以降は事前予約が急増していて、29日午後3時の時点で、最終日の31日まで予約が埋まっているということです。

会場には多くの人が訪れていて、次々にワクチンの接種を受けていました。

4回目の接種を受けた70代の男性は「自分以外の家族は家の近くのクリニックで接種しましたが時間がない人には難しいです。ここは待ち時間が少なくていいです」と話していました。

3回目の接種を受けた30代の男性は「かかりつけ医などがないので、この会場でいつも受けています。なくなってしまうと自分で病院を探すのが大変だと思います」と話していました。

県は8月以降、各市町村の集団接種会場や医療機関での接種を呼びかけていますが、今後、接種対象がさらに拡大されるなど対応が必要になった場合は大規模接種会場の再開を検討するとしています。

静岡 薬局で抗原検査キットの在庫減少

静岡市の薬局では、新型コロナウイルスの検査キットを求める人が増えていますが、卸業者から納品が制限されていて、お盆を前に在庫がなくならないか危機感を募らせています。

静岡市葵区にある薬局では、今週から抗原検査キットを買い求める人が増え始め、先月は1か月に数個だったのが、今週だけですでに13個売れたということです。

この店で取り扱っている2つのメーカーの検査キットの在庫は10個程度に減っています。

これからお盆の時期を迎え、帰省や旅行のためにさらに買い求める人が増えると予想していますが、28日、医薬品の卸業者に追加の発注をしたところ、▽1つのメーカーのものは、5個までに制限され、▽別のメーカーのものは、納品まで2週間程度かかるといわれたということです。
「やまうち薬局」の鈴木寛薬剤師は、「これほどの検査キットの需要は、これまで見られなかった現象です。メーカーの製造が間に合うのか心配です」と話していました。

専門家「第7波のまっただ中 悪循環を断ち切る必要」

新型コロナウイルス対策にあたる政府の分科会のメンバーで、東邦大学の舘田一博教授は現在の感染状況について「爆発的な感染者数の増加が全国で見られ、まさに第7波のまっただ中にいる状況だ。ひっ迫する医療機関や介護施設から悲鳴が聞こえ、社会機能も障害が出始めている。何とかこの悪循環を断ち切らねばならない」と危機感を示しました。

そのうえで「このペースで感染拡大が続き、一日当たりの感染者が全国で30万人から40万人、東京だけで5万人から6万人に増えてしまうと、医療崩壊や大きな社会機能の障害が起きてしまうと考えている。この1、2週間のうちに減少傾向に転じなければ、強い行動制限を出さざるを得ない状況になる」と指摘しました。

そして「1人1人が感染対策を徹底することで、強い行動制限を出さずにこの第7波を乗り切れるかが試されている。これからお盆の帰省など旅行の時期を迎えるが、人の動きが増えることで感染拡大のリスクが高まるので、旅行の前に検査を受けたり、ワクチンの接種を済ませたりすることが大事だ。また、マスクを効果的に使うこと、3密を避けること、換気を頻繁に行うことなどを徹底し、少しでも体調がおかしいというときは旅行や外食は控えてほしい」と呼びかけました。

新規感染者数1週間平均 37の都道府県で過去最多

新型コロナウイルスの新規感染者数を1週間平均で比較すると、37の都道府県で過去最多になっていて、このうち6つの道府県では前の週の2倍以上になるなど、急速な増加が続いています。

NHKは各地の自治体で発表された感染者数をもとに、1週間平均での新規感染者数の傾向について前の週と比較してまとめました。

全国

▽6月30日までの1週間では前の週に比べて1.23倍、
▽7月7日は1.78倍、
▽7月14日は2.13倍と増加のペースは上がり続けていました。

▽7月21日は1.72倍、
▽28日まででは1.67倍と、ペースはやや下がったものの急速な増加は続いています。

一日当たりの平均の新規感染者数はおよそ19万1177人と、前の週に続き過去最多を更新しました。

28日の時点の1週間平均での新規感染者数は37の都道府県で過去最多になっていて、このうち、6つの道府県で前の週の2倍以上になっています。

沖縄県

▽7月14日までの1週間は前の週の1.57倍、
▽7月21日は1.38倍、
▽28日まででは1.27倍と増加が続いています。

1日当たりの新規感染者数はおよそ4717人で、過去最多となっているほか、直近1週間の人口10万人当たりの感染者数は2249.98人と全国で最も多くなっています。

1都3県

【東京都】
▽7月14日までの1週間は前の週の2.21倍、
▽7月21日は1.66倍、
▽28日まででは1.66倍と引き続き急速な増加が続いています。
1日当たりの新規感染者数はおよそ3万1318人で、過去最多となっています。

【神奈川県】
▽7月14日までの1週間は前の週の2.24倍、
▽7月21日は1.85倍、
▽28日まででは1.48倍で、
1日当たりの新規感染者数は過去最多のおよそ1万3138人となっています。

【埼玉県】
▽7月14日までの1週間は前の週の2.32倍、
▽7月21日は1.85倍、
▽28日まででは1.82倍で、
1日当たりの新規感染者数は過去最多のおよそ1万1203人となっています。

【千葉県】
▽7月14日までの1週間は前の週の2.26倍、
▽7月21日は1.79倍、
▽28日まででは1.81倍で、
1日当たりの新規感染者数は過去最多のおよそ9061人となっています。

関西

【大阪府】
▽7月14日までの1週間は前の週の2.24倍、
▽7月21日は1.80倍、
▽28日まででは1.61倍で、
1日当たりの新規感染者数は過去最多のおよそ1万9939人となっています。

【京都府】
▽7月14日までの1週間は前の週の2.32倍、
▽7月21日は1.58倍、
▽28日まででは2.01倍で、
1日当たりの新規感染者数は過去最多のおよそ4468人となっています。

【兵庫県】
▽7月14日までの1週間は前の週の2.20倍、
▽7月21日は1.82倍、
▽28日まででは1.77倍で、
1日当たりの新規感染者数は過去最多のおよそ9181人となっています。

東海

【愛知県】
▽7月14日までの1週間は前の週の2.34倍、
▽7月21日は1.84倍、
▽28日まででは1.65倍で、
1日当たりの新規感染者数は過去最多のおよそ1万2677人となっています。

【岐阜県】
▽7月14日までの1週間は前の週の2.06倍、
▽7月21日は1.72倍、
▽28日まででは1.63倍で、
1日当たりの新規感染者数は過去最多のおよそ2223人となっています。

【三重県】
▽7月14日までの1週間は前の週の2.11倍、
▽7月21日は1.56倍、
▽28日まででは1.93倍で、
1日当たりの新規感染者数は過去最多のおよそ2236人となっています。

その他の地域

【北海道】
▽7月14日までの1週間は前の週の1.56倍、
▽7月21日は2.00倍、
▽28日まででは2.18倍で、
1日当たりの新規感染者数は過去最多のおよそ4428人となっています。

【宮城県】
▽7月14日までの1週間は前の週の1.89倍、
▽7月21日は2.02倍、
▽28日まででは2.09倍で、
1日当たりの新規感染者数は過去最多のおよそ2388人となっています。

【広島県】
▽7月14日までの1週間は前の週の1.77倍、
▽7月21日は1.67倍、
▽28日まででは1.80倍で、
1日当たりの新規感染者数は過去最多のおよそ2454人となっています。

【福岡県】
▽7月14日までの1週間は前の週の2.24倍、
▽7月21日は1.76倍、
▽28日まででは1.71倍で、
1日当たりの新規感染者数は過去最多のおよそ1万1434人となっています。

このほか、
▽茨城県は28日までの1週間は前の週の2.22倍、
▽新潟県は2.39倍、
▽富山県は2.01倍、
と2倍を超えていて、いずれも過去最多の感染者数となっています。