千島・日本海溝巨大地震 北海道の津波死者 最大14万9000人想定

北海道から岩手県にかけての沖合にある「千島海溝」と「日本海溝」で、巨大地震と津波が発生した場合の北海道内の被害想定が公表されました。津波による死者を最大で14万9000人、自治体別では釧路市で8万4000人などと推計していますが、早めの避難や施設の整備を進めれば被害は大幅に減らすことができるとしています。

北海道は「千島海溝」沿いと、「日本海溝」の北側にあたる領域で巨大地震と津波が発生した場合の被害について、去年12月に国が公表した想定をもとに、道内の太平洋沿岸部の38の市と町を対象に地域ごとの実態を反映させたうえで想定をまとめ、公表しました。

それによりますと、「日本海溝沿い」でマグニチュード9.1の巨大地震が発生した場合は、北海道の太平洋側に最大で16.3メートルの津波が押し寄せ、道内の死者は最大で14万9000人に上ると推計していて、国が想定した13万7000人より多くなっています。

また、「千島海溝沿い」でマグニチュード9.3の巨大地震が発生した場合、最大で26.5メートルの津波が押し寄せ、道内の死者は最大で10万6000人に上ると推計していて、国が想定した8万5000人より多くなっています。

北海道は「避難にかかる時間を実際のルートに合わせて算出したところ、逃げ遅れる人が国の想定より増えると推計した」としています。

自治体別に見ると、被害が大きくなると北海道が想定している冬の夕方の時間帯にいずれかの地震が起きた場合、津波による死者は、いずれも最大で
▽釧路市で人口の半数を超える数に相当する8万4000人、
▽苫小牧市で4万人、
▽函館市で2万9000人、
▽北斗市で1万7000人、
▽登別市で1万6000人に上ると推計しています。

一方で、早めの避難が進んだ場合、死者は
▽釧路市で3万7000人と56%減るほか、
▽苫小牧市でも1万7000人と58%減り、
▽函館市では2200人と92%減ると推計しています。

今回の最大の被害想定は、早めに避難する人の割合が低く、避難ビルなどが活用されなかった場合を想定していて、北海道は「住民の避難を軸に避難施設の整備などを進める総合的な対策により、被害を少なくすることができる」としています。

北海道は、今回の想定を踏まえて年内に被害を減らす減災目標を定める方針です。

「早期の避難」とは

北海道は、早めに避難する人の割合が高い場合と低い場合にわけて被害を想定し、早めの避難が進めば犠牲者の数を大幅に少なくすることができるとしています。

犠牲者が少ないケースとしては、避難の呼びかけなどが効率的に行われ、
▽「直ちに避難」する人が70%、
▽「用事を済ませた後に避難」する人が30%に達した場合を想定しています。

このうち「直ちに避難」とは、地震の揺れが収まってから避難を始めるまでの時間を
▽「夏の昼」で5分、
▽「冬の昼」で7分、
▽「夏の夜」では着替えの時間などを想定して10分、
▽「冬の夜」では防寒着への着替えの時間などを想定して12分としています。

北斗市「早期避難の減災効果 改めて示されている」

北海道が公表した想定で、北斗市では津波による死者が冬の深夜に最大1万8000人になると推計されています。

北斗市の楠川修総務課長は「非常に大きな人的被害が示されているが、東日本大震災を教訓に迅速な避難態勢の構築などソフト面の対策に取り組んできたので、過敏に反応するものではないと受け止めている」と話しています。

そのうえで、早期の避難の有無によって被害想定が異なることについて「早期避難の減災効果が改めて示されている。迅速な避難の構築といったソフト面の対策強化と避難路となる新たな避難道路の整備など対応を進めていきたい」と話していました。

北斗市は、避難施設の整備費用の補助率引き上げなどを盛り込んだ特別措置法の活用も視野に検討を進めるということです。

国と北海道の想定の比較

「千島海溝」沿いと、「日本海溝」の北側にあたる領域の巨大地震と津波の被害想定については、去年12月に国も想定をまとめています。

北海道を含む各地の死者数などが推計されましたが、今回の北海道の想定では多くの項目で国の想定を上回りました。

【日本海溝の巨大地震】

日本海溝の巨大地震で津波が発生した場合の津波による道内の「死者」については、
▽国が最大で13万7000人と推計したのに対し、
▽北海道が最大で14万9000人と推計しています。

「けが人」については、
▽国が最大で5900人、
▽北海道はが最大で5200人と推計しています。

屋外で寒さにさらされて「低体温症」により死亡のリスクが高まる避難者については、
▽国が1万9000人と推計したのに対し、
▽北海道は6万6000人と推計しています。

「津波で全壊」する建物については、
▽国が最大で11万8000棟、
▽北海道が最大で13万棟と推計しています。

また、「液状化で全壊」する建物については、
▽国が最大で800棟と推計したのに対し、
▽北海道は最大で3600棟と推計しています。

【千島海溝の巨大地震】

千島海溝で巨大地震が発生し、津波が発生した場合の津波による道内の「死者」については、
▽国が最大で8万5000人と推計したのに対し、
▽北海道は最大で10万6000人と推計しています。

「けが人」については、
▽国が最大で8200人、
▽北海道は最大で1万4000人と推計しています。

「低体温症」により死亡のリスクが高まる避難者については、
▽国が1万4700人と推計したのに対し、
▽北海道は1万5000人と推計しています。

「津波で全壊」する建物については、
▽国が最大で5万1000棟、
▽北海道が最大で4万2000棟と推計しています。

また、「液状化で全壊」する建物については、
▽国が最大で1600棟と推計したのに対し、
▽北海道が最大で3700棟と推計しています。

「地震の揺れで全壊」する建物については、
▽国は最大で1700棟、
▽北海道は地質調査データをもとに震度を改めて計算した結果、最大で6200棟と推計しています。

専門家「命を救うためのヒント含まれている」

今回公表された北海道の被害想定について、津波防災に詳しい北海道大学大学院の高橋浩晃教授は「大変、厳しい数字が示されたと感じているが、同時に、早めの避難を行えれば、かなり死者数を減らせるということも示されたと受け止めている」と話しています。

そのうえで高橋教授は「今回の想定には命を救うためのさまざまなヒントが含まれている。津波の被害を防ぐためには、行政は住民が逃げる場所をきちんとつくる、住民は津波警報が出たらとにかく一刻も早く避難する、という2つが重なって初めて効果が出る。住民と行政が両輪となってお互い協力しながら対策を進めていただきたい」と述べ、今回の想定を踏まえ、津波避難タワーなどハード面の整備と、避難訓練といったソフト面の対策を同時に進めるべきだと強調しました。

釧路市民「多すぎて衝撃を受けている」

北海道が公表した被害想定について、釧路市で聞きました。

60代の男性は「死者数は釧路の人口からすると多すぎて、衝撃を受けている。冬は足場が悪いので、高齢者は逃げるのが難しいと思う。厚手の服を常に身の回りに置くなど、改めて対策をしていきたい」と話していました。

70代の女性は「これまで何度か津波があったが、被害は沿岸だけで中心部は被害がなかったので、いままで考えてもみなかった。怖さを感じている」と話していました。

60代の女性は「暖房や水道、ガスが止まることを考えると、これだけの被害になるのがわかるような気がする。食べ物やポータブルストーブを用意するなど、自分で対策するしかない」と話していました。

高校1年の男子生徒は「すごい数の人が死んでしまうんだなと思った。いざという場合に備えて、持ち出し用の避難用品を常備しようと思う」と話していました。

釧路市 建設進まない避難施設などの対策急ぐ

北海道が公表した被害想定で、釧路市では最大で人口の半数を超える数に相当する8万4000人が死亡するとされ、市民の間には衝撃が広がっています。

道の想定で、釧路市には最大で20.3メートルの津波が押し寄せるとされています。

住宅地や官公庁街のほとんどが、海に近い平野部に密集し、津波の浸水域に入ります。

内閣府や自治体のホームページによりますと、南海トラフの巨大地震や首都直下地震の被害想定と比べても、1つの自治体で想定される死者数としては最も多くなっています。

沿岸部の大楽毛地区は、浸水の想定が5メートル以上で、地区の一部は周囲に高台や高い建物などがない「津波避難困難区域」に指定されています。

地区では、65歳以上の高齢者がおよそ4割を占めています。

指定の避難先は離れているため、連合町内会は避難ビルなどの建設を市に要望していますが、財政面などを理由に進んでいません。

大楽毛地区連合町内会の土岐政人会長代行は「被害が大きくなるとは思っていたが衝撃的な数字だ。地区には高い建物がないので、タワーなどの避難施設を作ってもらうことが最低限必要だと思う。行政にはスピード感を持って取り組んでもらいたい」と話していました。

市町村が避難ビルなどを整備する費用をめぐっては、ことし6月、国の補助率を2分の1から南海トラフ巨大地震並みの3分の2に引き上げる改正特別措置法が施行されました。

釧路市は今後、こうした補助も踏まえて、ハード面の整備の検討を進めることにしています。

また、現在、市内113か所を指定している一時避難場所についても見直しを行い、ほかにも高い建物の中に避難場所として使えるところがないか、リストアップを進めています。

公表された想定では、早めに避難を開始し、避難ビルなどを活用すれば、冬の夕方の場合の死者数は最大の8万4000人から3万7000人に減ると推計していて、市は対策を急ぐことにしています。

釧路市の佐々木和史防災危機管理監は「既存の避難施設でカバーできないところには、ハード整備を考えていく。市として対策を進めるとともに、発生時には自助や共助が必要になってくるので、住民の皆さんには、諦めないで早めに避難していただくことをお願いしたい」と話していました。