ライフセーバーが足りない? コロナ禍の思わぬ影

ライフセーバーが足りない? コロナ禍の思わぬ影
この夏、人手不足が懸念されているのが、海水浴場の安全を守るライフセーバーです。
3年ぶりに開かれる海水浴場が多いと見られることし、海の安全を守るために海の家のスタッフから最新のAIまでが力を合わせています。
(千葉放送局 カメラマン 高橋大輔/おはよう日本 ディレクター 矢内智大)

埋まらないシフト 主力の大学生がコロナで集まらない

訪れたのは、福井県高浜町にある若狭和田海水浴場。
美しく、安全な海であることを証明する国際認証“ブルーフラッグ”を7年連続で取得しています。
白い砂浜と透き通った青い海が魅力的で、県内外から毎年多くの海水浴客が訪れる人気のスポットです。
この海水浴場の安全を守っているのが「若狭和田ライフセービングクラブ」の皆さん。
水難事故を防ぐため、声かけなどのパトロールを行うほか、溺れかけている人がいれば迅速に救助活動を行います。
メンバーの多くは、社会人や学生。仕事や学校が休みの日にライフセーバーとして活動しています。
海水浴シーズンには例年、40人ほどのライフセーバーが活動。平日で約6人、休日で約10人がシフトに入り、交代で海水浴場の安全を守ってきました。
しかし、ことしは異変が…。
若狭和田ライフセービングクラブ 細田直彦代表
「平日で3名ないしは1名という形になっていますので、人数的には非常に厳しい状況です。現時点では、8月は誰も入れない日がある状況です」
この夏、活動できるのは23名。例年の半数にとどまっています。
大勢の海水浴客でにぎわう7月の3連休、ライフセーバーは限られた人数でパトロールに当たっていました。
ライフセーバー 細田和彦さん
「非常に手薄でぜんぜん手が回らない状態です。人数が少ないと目が行き届かないので、大きな問題ですね。事故を防ぐため、波打ち際から沖へ20mまでのエリアがいちばん危険なので、そこを重点的に見るようにしています。一日に100人くらいは声をかける目標を持って活動しています」
人手不足の要因の一つが、“大学生ライフセーバー”の減少です。
日本のライフセーバーの多くは、大学でライフセービングを行う部活動やサークルに入ることが始めの一歩。部活動などで鍛錬を積みながら、資格を取得し、夏休みになると各地の海水浴場でアルバイトを兼ねて活動するのが一般的です。
しかし、コロナ禍で大学がリモート講義となったことで、部活やサークルの新入生勧誘が停滞。その影響で、海水浴場を支える大学生ライフセーバーの数が減っているのです。
若狭和田ライフセービングクラブに部員が所属してきた福井県立大学ライフセービング部でも、入部する学生数が減っています。
多い年には10人ほどが入部することもありましたが、過去2年間の新入生はそれぞれ1名ずつ。
ことしは4人に増えましたが、それでも以前の半数にとどまっています。
福井県立大学ライフセービング部 栃尾唯一部長
「やはり2020年と2021年はコロナ禍の影響で、対面での新入生歓迎会とか、直接後輩と関わる機会というのがなかったので新入生の数も減りました。去年、おととしと1名ずつしかいなかったので、本当に厳しいなと感じました。なんとか早くこのコロナ禍が終わって、日常に戻ればいいなというふうに感じています」

資格取得の講習会も… コロナ禍で閑散と

もう1つの要因が、コロナ禍で資格取得のための講習会が減ったことです。
日本ライフセービング協会が、ライフセーバーとして活動するために必要な技能を身につけた人に付与する「ベーシック・サーフライフセーバー資格」の取得者数は、2019年は612人、2020年は301人と半減。去年は657人と例年通りの水準に戻ったものの、現場で経験を積み、頼りにされる存在になる3年目のライフセーバーが少ない状態となっています。
若狭和田ライフセービングクラブでは、ことし3年ぶりに講習会を実施。しかし、受講者は例年10名ほどでしたが、ことしは2名のみでした。
若狭和田ライフセービングクラブ 細田直彦代表
「講習会を受講する人の数が減ると、おのずとライフセーバーの数が減るので不安はありますね。この2年間、海水浴場が開かなくて、ライフセーバーが浜に立つ機会もあまりなかったので、遊泳者の皆さんの目に留まる機会がなく、ライフセーバーを目指そうと思う人が減ったことも影響しているのかと思っています」
このようにライフセーバーが不足する事態が、いま全国各地の海水浴場で懸念されているのです。

“海の家”も協力 監視態勢を強化

若狭和田海水浴場では、人手不足を補おうと対策に乗り出しています。
それがこちら。
“海の家”で働く人たちに、監視活動への協力を要請したのです。
営業の合間に沖の方をチェックしてもらい、異変があればライフセーバーに連絡してもらいます。

ライフセーバーが海水浴場で活動を始める前は、海の家の人たちが監視活動を担っていたこともあり、快く要請を引き受けてくれたといいます。
海の家 山根あい子さん
「うちはボート貸しもやっているんで、責任あるんでね。これでよう見てます。あそこ大丈夫やんな思って。アルバイトの子たちがいるんですけど、その子らにも十分気をつけてよって言って、見てもらってます」
海の家 小松政春さん
「波が高い時とか、定期的に見ております。繁忙期には、ライフセーバーの方もなかなかチェックしにくいと思いますので、そういうところで私たちが一生懸命チェックして、役に立てればと思っています」
海の家の人たちのほかにも、町の住民が組織する水難救助委員会とも連携を強化し始めています。
水難救助委員会のメンバーは、日本赤十字社の水難救助訓練を受けた地元の有志です。町内の各海水浴場の沖合を小型船や水上バイクで巡回パトロールしています。

ことしは連絡を密に取り合いながら、ライフセーバーの手が届きづらい沖合の遊泳客などを中心に、パトロールや声かけを積極的に行ってもらっています。こうして浜と沖、両方から監視活動を行っているんです。
水難救助員
「本日は遊泳注意となっております。波が高く特に引き波が強いです。また、当海水浴場は、遠浅の場所もありますが、ところどころ深いところもあります。十分注意して遊ばれるようお願いします」

離岸流を見つける!海水浴場を見守るAI

さらに今、ライフセーバーが大きな期待を寄せているのが、AI=人工知能を活用した“海辺のみまもりシステム”です。
AIと連動した最新型のカメラ4台と風速計を浜辺に設置。24時間、海水浴場全体をモニタリングしています。
AIには、潮の流れを映した約300時間分の映像を学習させています。
そのため、水難事故の要因となる岸から沖へ向かう流れ“離岸流”や、沖合への強風が発生すれば、自動で検知することができます。
離岸流の中に遊泳客が入ると、AIが遊泳客を識別し、モニター上に赤い印がつきます。
すると、瞬時にライフセーバーのスマートフォンやスマートウォッチ、救護所のモニターに通知が行く仕組みです。
日本ライフセービング協会と日本財団が、中央大学の協力を得て開発しました。
この場所のほかにも、千葉県や神奈川県、宮崎県の海水浴場でも運用されていて、実際の救助や事故の防止につながっているといいます。
若狭和田ライフセービングクラブ 細田直彦代表
「かぎりある人的資源に対しては、AIの見守りとほかの団体さんと協力させていただいて、本当にことし、無事故でなんとか終えられるようにというふうに考えています。他の団体さん、海の家、それぞれ違うんですけど、水辺の事故を防ぎたいという思いは共有しているので、協力していきたいと思います。久しぶりの海水浴を楽しみにして来られている方も多いと思うので、本当に笑顔で帰ってもらいたい、それだけですね」

みんなの力で水難事故を防ごう

海水浴場の安全を守ろうと、ライフセーバーの方々は模索を続けていました。
この夏、久しぶりに海水浴に行くという方も多いと思います。くれぐれも無理をせずに、水深の深い場所で遊ばないようにしたり、ライフジャケットを着けたりするなど、ご自身での対策も大切です。
NHKでは、水難事故を防ぐために必要なことや、流された時の対処法などについてもまとめています。海水浴に行く場合は、ぜひご覧いただければと思います。
千葉放送局 カメラマン
高橋大輔
2006年入局
潜水取材班所属
これまで被災地の海などを取材
おはよう日本 ディレクター
矢内智大
2015年入局
札幌局を経て現所属
神奈川県出身