国際宇宙ステーションのプロジェクト ロシアが撤退方針表明

日本も運用に関わるISS=国際宇宙ステーションのプロジェクトについて、ロシア国営の宇宙開発公社「ロスコスモス」は2024年以降に離脱する意向を明らかにし、今後の宇宙開発への影響が懸念されます。

ロシア国営の宇宙開発公社「ロスコスモス」のボリソフ社長は26日、プーチン大統領にロシアの宇宙開発事業について報告しました。

この中で、日本やアメリカなども運用に関わる国際宇宙ステーションについて「2024年以降、離脱することを決めた」と述べ、プーチン大統領もこれを了承しました。

そのうえで「離脱するころには、ロシア独自の宇宙ステーションの建設が始まっているのではないか」と述べました。

2011年に完成したISSの運用期間は2024年までとなっていますが、NASA=アメリカ航空宇宙局のネルソン長官は2030年まで運用を延長する方針を発表していました。

運用の延長には各国の合意が得られるかが焦点となっていましたが、今回のロシアによる離脱の意向を受け、今後の宇宙開発への影響が懸念されます。

ISSにはロシアのモジュールがあり宇宙飛行士の生活や実験に使われているほか、現在、滞在している7人の宇宙飛行士のうち3人がロスコスモスに所属するなど、ロシアはアメリカや日本、ヨーロッパなどとともにISS運営の一角を担っています。

アメリカ国務省「不幸な展開だ」

ロシアがISS=国際宇宙ステーションのプロジェクトから離脱する意向を明らかにしたことについて、アメリカ国務省のプライス報道官は26日、定例の記者会見で「ISSで科学にとって極めて重要な作業が行われてきたことを考えると、不幸な展開だ」と述べました。

そのうえで「ロシアのウクライナに対する軍事侵攻は米ロ関係を根本的に変化させたが、われわれは科学分野での共同研究など、維持したい分野はある。ロシアはそれとは反対のシグナルを送ってきている」と述べ、ロシアを批判しました。

NASA「何らかの決定があったとは知らされていない」

NASA=アメリカ航空宇宙局のネルソン長官は「NASAはいかなるパートナーからも、何らかの決定があったとは知らされていない。NASAは2030年まで、国際宇宙ステーションを安全に運用することに全力で取り組んでいて、関係各国や機関との調整を進めている」とコメントしています。

ISS 26日も通常どおりの活動

また26日、NASAは公式ブログで、ことし5月に撮影された内部の写真とともにISSに滞在中のロシア側を含む宇宙飛行士7人がこの日も通常どおり、科学実験や保守作業に取り組んだと明らかにしました。

このうちNASAに所属する宇宙飛行士4人については、チェル・リングリン宇宙飛行士が生命科学の実験に一日の大半を費やしたことなど、それぞれが行った実験の内容や、4人が宇宙船から荷物を運んだことを紹介しました。

またロスコスモスに所属する宇宙飛行士については、オレッグ・アルテミエフ宇宙飛行士ら3人が、ロシア側のモジュールの点検や空調システムの保守作業を行ったことなどを紹介しました。

木原官房副長官「諸情勢見極めつつ適切に対応」

木原官房副長官は、午前の記者会見で「ISS=国際宇宙ステーションから脱退する場合には、国際宇宙基地協力協定に基づいてアメリカに対して事前に通告を行うこととされているが、NASA=アメリカ航空宇宙局によると、脱退についてロシアから通告は受けていないということだ。現時点では、ロシアを含むISS参加5極の連携によってISSは安全に運用されている。わが国としては引き続き諸情勢を十分見極めつつ、ISSの安全運用を図るなど適切に対応したい」と述べました。

文部科学省「姿勢制御は代替案検討の可能性も」

国際宇宙ステーションは、宇宙空間での姿勢の制御をロシアが担当していて、姿勢を制御しないと数年程度で地球に落下する可能性があります。

今回の件について文部科学省は「ロシアからの正式な通知などは現時点ではないので詳細はよく分からない。姿勢制御については、ロシアが本当に離脱を表明した場合は代替の案を検討する可能性もあるだろう」と話しています。

さらに、現状や見通しとして「ロシアは現在、独自に宇宙ステーションを建設する計画があり、完成時期は未定だが、その運用が始まる前に撤退すると宇宙活動の空白期間ができるので、ロシアとして宇宙で活動ができる見通しがないまま撤退することはないのではないか。現在の国際宇宙ステーションは2030年まで運用を延長する議論が行われているので、今回の件は日本として注意深く見守っている」としています。

15の国が参加のISS “国際協力を象徴する場”

国際宇宙ステーションは、高度およそ400キロで地球を周回していて、アメリカや日本、それにロシアやカナダ、ヨーロッパの合わせて15の国が計画に参加しています。

1998年に建設が始まって2011年に完成し、サッカーのフィールドと同じくらいの広さに参加国のモジュールがあり、質量はおよそ420トンになるなど最大の人工衛星です。

参加国の宇宙飛行士が滞在していて、米ソの冷戦崩壊後の国際協力を象徴する場でもありました。

運用は2020年までとされていましたが、2024年まで延長することで決まっています。

そして、アメリカは、ことし1月に宇宙ステーションの運用をさらに2030年まで延長する方針を明らかにし、現在、日本を含むほかの参加国でも運用を延長するか議論が進められていて、文部科学省によりますと、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を行う前の段階では、ロシアも延長について前向きに検討していたということです。

その一方で、アメリカは、再び月面に宇宙飛行士を送り込むほか、月を周回する新たな宇宙ステーションの建設を盛り込んだ「アルテミス計画」を立ち上げ、国による宇宙開発の軸足を月や火星などに移そうとしています。

こうした中、中国は独自の宇宙ステーションの建設に向けて、今月、実験施設の打ち上げに成功したと発表するなど、ことし中に宇宙ステーションを完成させる計画です。

さらに、2030年代から2040年代をめどに、月面に基地を建設することも計画しています。

ロシアも独自の宇宙ステーションの建設計画を進めていて、アメリカの「アルテミス計画」への参加は表明しておらず、中国の月面基地の建設については協力していく方針を示しているということです。

宇宙ステーションが、今後も国際協力の場として存続できるのか注目されています。

アメリカ駐日大使 “ロシアは宇宙でも背を向けた”

27日午後、都内で取材に応じたアメリカのエマニュエル駐日大使は、ISSは冷戦後の国際社会における協力の象徴だったとしたうえで「ロシアは、ウクライナの国境や主権を害するだけでなく、宇宙での国際的な協力に関しても背を向けたことになる」と強く非難しました。

そのうえで「きょうは日米の宇宙協力における新たな1日目になる。アメリカは、日本を宇宙開発における重要なパートナーと考えてきたが、その重要性は、より高いものとなった」と述べ、今後、この分野での日米の協力がさらに重要になるという見方を示しました。

さらにエマニュエル大使は、NASA=アメリカ航空宇宙局のネルソン長官が、ことし10月に来日し、アメリカが主導する国際的な月探査計画「アルテミス計画」での日米の新たな協力について署名を行う予定だと明らかにし、日米の協力が具体的に、さらに進む見通しだと強調しました。

ロシアが離脱を決めた背景

ロシアでは、ISS=国際宇宙ステーションについて「維持には巨額の資金が必要になる」などとして、以前から運用期間の延長を疑問視する意見がありましたが、離脱を決めた背景には、ウクライナ侵攻を受けた欧米との対立の深まりがあるという見方が出ています。

ロシア国営の宇宙開発公社「ロスコスモス」のボリソフ社長は、今月15日まで国防や宇宙産業分野を担う副首相を務めてきました。

ボリソフ氏は26日、プーチン大統領に「パートナーに対する義務は果たす」と述べる一方、2024年以降はロシア独自の宇宙ステーションの開発に優先的に取り組む考えを強調しました。

また、ボリソフ氏の前任だったロゴジン氏は、ことし4月「国際的な共同プロジェクトでのパートナー間の関係を正常に戻すには、違法な制裁を完全かつ無条件に解除することが必要だ」と主張し、欧米に科された制裁の解除を求めていました。

ロシアのメディアは「ロシアとアメリカの協力が一変したのは、ことし2月24日以降で、これ以上、同じレベルで協力を続けるのは、ほぼ不可能であることが明らかになったためだ」として、ウクライナ侵攻がきっかけになったという見方を伝えています。

一方、ロシアの宇宙開発に携わる関係者は、独自の宇宙ステーションの開発開始は早くても2028年になるという見通しを示したほか、ロシアの専門家は、地元メディアに対して「宇宙ステーションの建設には10年以上かかるかもしれない」と述べ、時間がかかるという見方を示しました。