ノーヒットノーランはどうして増えた?相次ぐ快挙達成の要因は

ノーヒットノーランはどうして増えた?相次ぐ快挙達成の要因は
今シーズンのプロ野球。前半戦は顕著な「投高打低」となりました。
ノーヒットノーランの達成者は、28年ぶり16人目の完全試合を達成したロッテの佐々木朗希投手を含めて4人。
相次ぐ快挙達成の要因について、選手やプロ野球関係者にさまざまな視点から聞きました。
(スポーツニュース部 記者 阿久根駿介)

投手の技術力向上が要因か

ノーヒットノーランが相次いだ前半戦。
▽4月10日にロッテの佐々木朗希投手が完全試合として達成して以降、
▽5月11日にソフトバンクの東浜巨投手、
▽6月7日にDeNAの今永昇太投手、
▽6月18日にオリックスの山本由伸投手の4人が達成しました。
1シーズンで4人の投手が達成したのは昭和18年以来、実に79年ぶり。2リーグ制となってからは初めてです。

先月7日に札幌ドームで行われた日本ハムとの試合でノーヒットノーランを達成したDeNAの今永投手は、記録達成の要因の1つにピッチャーを取り巻く環境の変化をあげます。
今永昇太投手
「自分の投げているボールが漠然としていたものがある程度可視化できるようになって、最短距離で追い求めているボールを習得しやすい時代になっている」
平成26年からプロ野球で導入が進んだ「トラックマン」などプレーをデータで分析する機器・ITツールの進化。
投手はボールの回転数や球の軌道のほか、投げるときの手首の角度などもデータとして見られるようになりました。
このデータを基に、フォームを改善したり、トレーニングのメニューを組んだりすることで効率的に技術の向上がはかれるようになったと言います。
今永昇太投手
「効率よく力を出すためには、どういうふうに体を使ったほうがいいのかというバイオメカニクスの視点で投球フォームを観察したり、フィードバックを行ったりすることで、同じフォームで投げ続けることができる“再現性”が高い投手が増えたと思います」
今永投手自身もITツールを駆使し続けてきた結果、ストレートの平均球速は入団2年目からの6年間で6キロ上がっています。

ITツールの活用が広がり習熟も進んだことが投手の技術を引き上げていると感じています。
今永投手のストレートの平均球速
2017年 141キロ(入団2年目)
2018年 143キロ
2019年 146キロ
2020年 146キロ
2021年 145キロ
2022年 147キロ
今永昇太投手
「ピッチャーがいろんなツールを使って上達するにつれてクオリティーの高いボールを投げられる投手がたくさん増えてきたのだと思います」

長打重視となったことが要因か

大リーグでもプレーした元日本ハムの田中賢介さんは、投手の技術力が上がったことに加え、打者を評価する基準の変化がノーヒットノーランを生み出しやすい環境にさせている可能性があるとみています。
出塁率と長打率を足し合わせた「OPS」という評価指標があります。
数値が高いバッターはよりチームの勝利に貢献しているとされ、打率より重視される傾向があると言います。
田中賢介さん
「三振してもいいから長打を打つ。それが結果的に得点につながるっていうデータがあるので、みんなOPSを求めて2本のヒットより1本の長打みたいなほうに走っていく傾向にある。これまでの打率重視の野球から今はOPS中心の野球に変わってきている」
去年と10年前のパ・リーグの打率と長打率を比較すると、打率が1分下がったうえで、長打率が2分上がっています。
【打率】
2013年 2割5分1厘
2021年 2割4分1厘
【長打率】
2013年 3割4分8厘
2021年 3割6分8厘
田中賢介さん
「昔で言う1番や2番の打者は、ゴロ、ライナーを打ちながらヒットを確実に打っていたが、今は角度をつけて長打をねらうようなスイングが増えてきている。そうすると長打は増えるがヒットが出なくなる傾向になる。ノーヒットノーランが出やすい仕組みに今なっているのかもしれない」

速球の強さと縦の変化球が要因か

投手出身で昨シーズンまで中日の監督を務めた与田剛さんは、記録を達成した投手にはある共通点があると指摘します。
与田剛さん
「まずストレートの力。速さだけではなくて空振りが取れる、基本のストレートの強さを持っている。そしてストライクゾーンの中でどちらかというと大きな横の変化というよりも縦の変化のあるボールを持っているのが特にこの4人のピッチャーにはある」
4人に共通するのはストレートの球速が150キロを超えていること。
そして鋭く縦に落ちる変化球を持っていることです。
縦に変化するボールはストレートと腕の振りが同じで、軌道も途中までほぼ一緒となるため、打者はストレートか縦の変化球か見極めることが難しく、振りに行ってしまうといいます。
与田剛さん
「しっかり振らせる、振ってもらって三振も取れる投手が共通点。現状では投手の能力が上回っていると思います」
「投高打低」となった前半戦。
プロ野球界ではシーズン始めはピッチャー優位だが、夏場になるとバッターの状態が上がり、逆にピッチャーの疲労がたまってくることから、バッターが優位になると言われています。
今後も快挙の達成は続くのか、それともバッターが意地を見せるのか。プロ野球は後半戦も目が離せません。
スポーツニュース部 記者
阿久根駿介
平成25年入局
福岡局、津局、札幌局を経て現所属
DeNA担当
大学まで野球一筋でポジションは投手