脱炭素の切り札は“アンモニア”?

脱炭素の切り札は“アンモニア”?
いま次世代のエネルギーとして「アンモニア」が注目されつつあります。「理科の実験で刺激臭がした」と記憶している方も多いかもしれませんが、二酸化炭素を出さずに燃えるんです。そして、日本はこのアンモニアの技術で世界をリードしています。脱炭素の切り札になるのか、実情に迫ります。(経済部記者 西園興起)

クアッド4か国が“アンモニア技術開発”で一致

7月13日にオーストラリアのシドニーで日米豪印の4か国の枠組み、クアッドのエネルギー担当大臣による初会合が開かれました。
ウクライナ情勢の緊迫化を受けて、LNG=液化天然ガスをいかに安定調達するかが議論されましたが、日本政府がもうひとつ力を注いだのが「アンモニア」でした。

4か国は、燃やしても二酸化炭素を出さないアンモニアなど次世代エネルギーの技術開発や普及を協力して進めていくことで一致したのです。
萩生田経済産業大臣
「アンモニアについて、去年の段階では、冷ややかに見る向きもあったが、4か国の間でしっかり使っていくという認識を共有できた。各国もわれわれが思っている以上にアンモニアの重要性を理解していて、今後の研究開発を共同で進めていくための話し合いもできた」

何がすごい“アンモニア”

アンモニアは、炭素を含んでいないことから、燃やしても二酸化炭素を排出しないのが特徴です。またすでに肥料用として使われているため、運搬や貯蔵の技術が確立していて、その分、調達コストも抑えられます。

2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指す日本は、アンモニアのこうした特徴に早くから目を付け、技術開発を着々と進めてきました。
いま力を入れているのが、石炭にアンモニアを混ぜて、既存の石炭火力発電所で燃やす「混焼技術」の開発です。

温室効果ガスの排出ゼロは、一足とびに実現できるものではありません。

太陽光や風力など再生可能エネルギーによる発電を増やそうにも、国土の狭い日本では立地に適した場所が限られています。そこで石炭にアンモニアを混ぜて発電することで、二酸化炭素の削減につなげようというのです。

アンモニア先進国のニッポン

石炭火力発電所でアンモニアを活用する取り組みは、東京電力と中部電力が出資する国内最大の発電事業者「JERA」が加速させています。
愛知県の碧南火力発電所で、来年度中にも石炭にアンモニアを2割混ぜて燃やす実証実験を始めることにしています。

また会社では去年夏に、アンモニアの調達などを行う専門の部署を設けました。2020年代の後半から最大で年間50万トン規模のアンモニアを海外から調達することにしています。
大滝室長
「アンモニアは調達先を分散できるうえ、二酸化炭素の排出量も抑えることができる。経済性も担保しながら、電力を安定供給できるようなアンモニアの供給網をつくっていきたい」
将来を見据えた研究開発も進んでいます。

大手機械メーカーの「IHI」は、ことし6月、アンモニアだけを燃料にしてガスタービンで発電することに成功したと発表しました。
資源エネルギー庁によりますと、アンモニアだけを燃料にして発電したのは世界初だということです。

化石燃料を燃やした場合と比べて、温室効果ガスの排出を99%削減できたとしていて、3年後の2025年の実用化を目指しています。

経済産業省の試算によりますと、国内の大手電力会社が持つすべての石炭火力発電所で、2割ずつアンモニアを混ぜることができれば、二酸化炭素の排出量を約4000万トン削減できるということです。
これは発電時に日本で排出する二酸化炭素の10分の1に当たるということです。

課題をどうクリアするか

ただアンモニアの普及に向けては課題もあります。

まずアンモニアは燃焼時に二酸化炭素を排出しないものの、有害物質である窒素酸化物を排出します。このため国内の企業や研究機関では、窒素酸化物の排出を抑える技術開発を急いでいます。

もう1つは、アンモニアをいかに安定的に供給するかです。

現在、生産されているアンモニアの多くは肥料の原料として使われています。さらに発電で使うとなると、生産が追いつかなくなる事態も予想されます。
このため海外からいかに大量に調達できるかが課題です。

そして最後の課題は、アンモニアの作り方です。

アンモニアは燃やしても二酸化炭素を出しませんが、実は製造時に化石燃料を使うため、そこで二酸化炭素を出してしまうんです。このため製造過程で出た二酸化炭素を回収し地中に埋めることや、二酸化炭素を出さない再生可能エネルギーを利用することなどが合わせて求められています。

求められる仲間づくり

また技術面だけでなく、普及に向けて国際的な理解をどう得ていくかも課題です。

というのも、二酸化炭素の排出量が削減できるとはいえ、石炭火力を使い続けることに対して、ヨーロッパを中心に厳しい意見があるからです。
一方、ことし5月に行われたG7=主要7か国の気候・エネルギー・環境相会合では、共同声明の中に次世代のエネルギーとして初めて、アンモニアの普及を目指すことが盛り込まれました。

ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー安全保障への関心が高まる中、世界が、エネルギーの選択肢を増やしていく必要性に気づき始めたように見えます。

まず日本としては、アンモニアの生産や調達で協力できる国々との“仲間づくり”を進める戦略です。

そのうえで鍵となるのが、東南アジアの国々での普及促進です。インドネシアやマレーシアには、石炭火力発電所が多くあり、主要な電源の1つとして位置づけられています。

日本としては、こうした国々に脱炭素のツールとしてアンモニア導入のメリットを訴えながら、普及を拡大させたい考えです。

アンモニアの供給力の強化と利用する国の拡大、国際社会の理解を得ながらアンモニアによる脱炭素を実現できるか注目したいと思います。
経済部記者
西園 興起
平成26年入局
大分局を経て経済部
現在、経済産業省やエネルギー業界を担当