“あした、社長がコロナになったら…”中小企業のBCP、大丈夫?

新型コロナウイルスの感染が急拡大する中、店舗の休業なども相次いでいますが、従業員の欠勤などに備えたBCP=事業継続計画は策定が進んでいないのが実情です。

企業のリスクマネジメントに詳しい専門家は“第7波”の感染拡大が急速であることも踏まえ、中小の企業でも、事業の優先順位の確認や、こまめな業務の共有など、対策をしておくことが重要だと指摘しています。

社長が陽性に…

東京 北区にある従業員50人ほどが働く建設会社では、ことし4月、社長の陽性が確認され、7日間、出社できなくなりました。

当時、対応にあたった土屋貴之課長は「まさかトップである社長が、というのは皆、想定していませんでした。どうなってしまうのだろうと不安になりました」と振り返っています。

ふだんは社員が判断に迷った際、必ずといっていいほど社長が決断していたからです。

その時頼りになったのは

社員に衝撃が走る中、役立ったのが、新型コロナウイルスへの対策を定めたBCP=事業継続計画でした。

新型コロナウイルスで緊急事態宣言が出されたおととし(2020年)の春、策定したBCPは主に現場や社員のクラスター発生を想定していましたが経営側で感染者が出た場合の業務の割りふりや代理なども決めていました。

そこでこの会社ではBCPに従い、3人の取締役のうち1人を社長の代理と決めました。

見積書や請求書の承認といった先延ばしにできない業務がスムーズに行えたほか、計画があったということで社員は落ち着き、企業活動に影響は無かったということです。

経験踏まえ業務の共有化

この時は社長の症状が軽く、自宅でも業務にあたれたということですが、当時の経験から、書類の保管方法を明確にしたり、可能な範囲で権限を移譲したりするなど情報や業務の共有をいっそう進めるようにしたということです。

越野充博社長は「中小企業というのはどうしても“その人しかできない仕事”というものができてしまうが、日ごろから業務の共有化を図っておくことが役に立つということを学んだ。今後も事業継続について考えていきたい」と話していました。

BCP策定 中小企業14.7% 進まず

民間の信用調査会社「帝国データバンク」が、ことし5月に全国の企業2万5000社余りを対象に行った調査では、回答した1万1605社のうち新型コロナウイルスに限らずBCPを策定していると答えたのは17.7%にとどまっています。

▼大企業では33.7%と前の年に比べ、1.7ポイント増加したのに比べ、
▼中小企業では14.7%と横ばいになっています。

専門家「『気付いたら働ける人が少ない』ということも」

企業のリスクマネジメントに詳しい慶應義塾大学大学院の大林厚臣教授は、現在の感染状況について「第7波は拡大のスピードが速く、『気付いたら働ける人が少なくなってしまった』というケースもありうる。BCPを策定して、本当に大切な業務をどんなことがあっても継続できるようにしておくべきだ」と指摘しています。

応急的な対応 ポイントは

正式なBCPをまとめるには時間がかかります。

そのため大林教授は、応急的な対応を決めておくだけでも影響をできるだけ小さくすることができるといいます。

大林教授が挙げるポイントは1事業の優先順位を決める2ほかの人でも対応できるようにするの2つです。

■1.“必要な仕事”明確に

事業の優先順位を決める上では“必ず続けなければいけない仕事”や“社会にとって必要な仕事”を明確にすることのほか“1週間先に延ばしてもあまり支障はない仕事”を決めておくことも大切だということです。

■2.過去の経験者リストアップも有効

業務について過去に経験したことがあるなどノウハウがある人をリストアップしておくことや、業務のメールを「CC」などで複数の担当者に送って情報共有を図ることも有効だということです。

グループなどをあらかじめ「Aチーム」「Bチーム」などに分け、全員の接触をなるべく避けることは感染対策の点からも重要だということです。

“機会ととらえて対策を”

このほか大林教授は「自分が帰宅した翌日、出社できなくなったら」と一度、イメージしてほしいとしています。

もし必要なら仕事に必要な道具や資料を持ち帰っておくこともありうるとしていますが「セキュリティー上のリスクは伴うのでその点には十分注意してほしい」と指摘しています。

大林厚臣教授は「いま対策を考えるということがこれからの会社のビジネスを守っていくことにつながる。これをむしろ機会ととらえて、今できる対策、将来に向けた対策をぜひ進めてほしい」と訴えています。