北方四島 元島民らの「洋上慰霊」始まる 交流事業見送りの中

ロシアによるウクライナ侵攻の影響で北方四島との交流事業が見送られる中、元島民らが船から先祖を供養する「洋上慰霊」が23日から始まりました。

「北方墓参」や「ビザなし交流」などの北方四島との交流事業は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響で今年度の実施は当面、見送られています。

こうした中、千島歯舞諸島居住者連盟と道は、故郷の島を訪問できない元島民らの要望を受けて、船から先祖を供養する「洋上慰霊」を23日から10回に分けて実施することになりました。

初回の23日は元島民や家族など42人が参加し、根室港で行われた出発式では鈴木知事が「四島を思う皆さんの思いが先人の眠る島に届くことを願っています」とあいさつしました。

このあと感染対策のための改修を行った専用の船「えとぴりか」に乗り込み、午前9時半すぎに港を出発しました。

当初は歯舞群島を望む中間ラインの手前まで進む予定でしたが、天候が悪かったため、港からおよそ6キロ沖合で折り返し、船上で慰霊式を行いました。
参加者たちは黙とうをささげたあと、献花台を囲んで静かに手を合わせ、およそ1時間後に港に戻りました。

千島歯舞諸島居住者連盟の脇紀美夫理事長は「島は見られなかったが、元島民がそれぞれの故郷に思いをはせながら心の中で慰霊できたのではないか」と話していました。

洋上慰霊は来月10日にかけて10回行われ、全国から延べ331人が参加する予定です。

色丹島出身の男性「なんとかふるさとに」交流事業再開に期待

23日の洋上慰霊には北海道の根室市に住む色丹島出身の得能宏さん(88)も参加しました。

得能さんはビザなし交流などの交流事業に1回目からこれまで30回以上参加してきました。

交流事業は新型コロナの影響でおととしから中止されていて、感染状況が落ち着けばことしこそは2人の孫とともに故郷の色丹島を訪れたいと考えていました。

しかし、ロシアによる軍事侵攻の影響で実現せず、せめて島に近いところからお参りしたいと、洋上慰霊に参加しました。

船の上では花や飲み物などを供え、故郷の島を開拓した祖父・源次郎さんの写真を献花台に飾って、先祖を供養しました。

洋上慰霊のあと得能さんは「島にはもう行けないかもしれないけれど、次の新しい芽が出るように頑張るからということを祖父に語りかけた。慣れ親しんだ船を使って先祖が眠る島に近づけたことはうれしかった」と話していました。

そのうえで「もう2、3年頑張って生きて再開されたらつえをついてでも行こうと思う。なんとかふるさとにたどりつきたい」と話し、交流事業の再開に期待を寄せていました。