「大気の川」上空から国内初 線状降水帯の予測とメカニズムは?

各地に豪雨災害をもたらしている「線状降水帯」のメカニズムを、航空機を使った観測で解明しようという研究が始まっています。

四国で記録的な大雨となった今月5日には、線状降水帯の発生につながる「大気の川」と呼ばれる大量の水蒸気の流れ込みが国内で初めて上空から観測されました。

その結果、特に高度が低い海面の付近に水蒸気が集中する特徴があったことがわかりました。詳しく解説していきます。

「線状降水帯」の原因 「大気の川」とは?

この研究を行っているのは、名古屋大学の坪木和久教授らのグループです。

「大気の川」はおととし(2020年)、熊本県の球磨川の氾濫につながった豪雨や2015年の関東・東北豪雨でも確認され、線状降水帯につながる要因の一つとされてきました。
ただ、必ずしも線状降水帯を発生させるわけではなく、どのような条件の時に大雨を引き起こすのかは詳しく分かっていません。

また、観測機器の無い海域で発生するため、メカニズムの解明に必要な詳細な観測もほとんどできていませんでした。

実際、線状降水帯の予測は難しいのが現状で、今月5日には高知県で線状降水帯が確認されましたが、気象庁の予測の情報は事前に発表されませんでした。
こうしたことから「大気の川」と線状降水帯の発生の関係について直接、上空から観測することで、メカニズムの解明につなげようとしたのです。

上空から初観測の「大気の川」の姿は?

観測を行ったのは、西日本に台風4号が接近した今月5日。

台風やその後の温帯低気圧の影響で高知県で線状降水帯が確認されるなど、西日本や北日本の各地で大雨となりました。

このとき、坪木教授みずからも航空機に乗り込み、西日本から沖縄の沖合の太平洋の上空を移動しながら観測を行いました。
坪木教授が注目したのは、台風の接近前から、太平洋や東シナ海から日本列島に向かい、大量の水蒸気が巨大な帯状になって流れ込んでいたことです。

こうした「大気の川」とも呼ばれる現象。今回、国内で初めて上空から直接観測することができました。

なお「大気の川」は水蒸気であるため、直接目で見ることはできないということです。(画像はイメージ)

観測機器を直接投下 見えた特徴は

今回、研究グループが上空からの観測に使ったのは、ドロップゾンデと呼ばれる筒状の機器です。

航空機で上空を移動しながら、「大気の川」にこの機器を直接投下し、上空およそ1万3000メートルから海面までの水蒸気の量や風向き、風速などのデータを観測しました。
その結果、今回の「大気の川」のある特徴が見えてきました。

紀伊半島沖のデータを分析すると、
・上空1000メートルより高い領域では水蒸気が比較的少なかったのに対し、
・海面から上空1000メートルまでの比較的低い領域に、大量の水蒸気が集中していたのです。

その量は「大気の川」がないときの平均的な空気に含まれている水蒸気量の2倍ほどだといいます。
坪木教授は、海面からの高さによって水蒸気の量の分布が異なる事で大気の状態が不安定になり、線状降水帯が発生しやすい気象条件になっていたと見ています。

ただ、まだわかっていないことも多く、研究グループは、水蒸気を運ぶ風の速さや向きなどさらにデータを解析するほか、今後も観測を重ねて線状降水帯を引き起こすメカニズムの解明につなげたいとしています。

坪木教授「予測精度の向上に寄与したい」

観測を行った坪木教授は「地球温暖化が進み、災害をもたらすような大雨は増えてきている。今後も観測を重ねてデータを基に予測精度の向上に寄与したい」と決意を述べました。

また、今月5日の大雨のあとも大量の水蒸気の流れ込みなどが原因で線状降水帯などによる大雨が各地で相次いでいます。

これについて坪木教授は「すでに今月も猛暑のあとに梅雨の時期のような大雨が降るなど最近は気象の変動のしかたが激しい。まだ線状降水帯などの正確な予測は難しいが、このあとの台風シーズンも経験のないような大雨もおこりうると考えて備えを進めてほしい」と話しています。