月1万円 物価高に「インフレ手当」の企業も

月1万円 物価高に「インフレ手当」の企業も
「最近、物価が高いから、毎月1万円支給します」。
いま、物価上昇による生活費の負担を軽減しようと「インフレ手当」を支給する企業が出始めています。
物価は上がれど、給料は上がらない。現状が変わる兆しはあるのか、取材しました。
(インフレ取材班)

インフレ手当 月1万円

まず、取材に向かったのは都内のシステム開発会社。
従業員はおよそ30人で、この会社では若い社員を中心に月1万円の「インフレ手当」を給与に上乗せして支給しています。

この会社がインフレ手当の検討を始めたのは、今年2月。

会議で話題にあがったのが世界的なインフレです。

ロシアによるウクライナ侵攻で、日本でもこの先物価が上がっていくと予想し、4月から支給を始めました。

毎年10月が給与の改定のタイミングですが、社員の生活を支援するため、支給を始めたということです。

手当を受けている正社員の小渡拓さん(24歳)は入社3年目です。
北海道出身で地元の大学を卒業後、上京しました。

会社の広報を担当していて都内で1人暮らし。

東京は家賃が高いと感じていたところに、物価の上昇に直面しました。

月3万円台に抑えると決めている食費は相次ぐ値上げでそれを超えてしまいそうになることが増え物価が上がっていることを実感するといいます。

電気代もことし5月でみても使い方は変わっていませんが去年の同じ月と比べて1000円ほど高くなっていて毎月の固定費の負担が増えています。
このため、自炊を増やし、スーパーで割安な野菜を買って一度に大量のスープを作って何日かに分けて食べるなど工夫をしています。

こちらは、小渡さんの給与明細。
下側の画像の「住宅手当」の中には、「インフレ手当」として1万円が含まれています。

毎月1万円の手当が支給されることで給与は4%上がる計算になり、ありがたいと感じています。
小渡さん
「ふだん使う飲食店でも値上げはあります。
都内は食事のデリバリーもあって便利ですが、回数を減らしたり、使わないようにしています。
少しでも貯金などにまわしていければいいとは思っています」
この会社では物価の上昇は今後も続くとして「インフレ手当」の支給も当面の間、続けていく方針です。
システム開発会社「ジョイゾー」四宮社長
「全体の賃金を上げるのは、そう簡単ではないですが、できる限りのことはやらなければいけないのは経営者の責任だと思っています。
この先もまだまだインフレが続くと予想しているので、従業員が安心して働けるよう、ベースアップや福利厚生の充実などを引き続き考えていきたいです」

最大15万円の支給

このほか、IT企業のサイボウズでは、「インフレ特別手当」という名目で6万円から最大で15万円を支給することを決めました。

支給の対象は正社員や契約社員、それにアルバイトなどのおよそ1000人。

勤務体系によって支給額は6万円から15万円に設定され、この夏に1回支給されます。
サイボウズ 青野慶久社長
「生活に不安を抱えていると仕事に集中ができなくなってしまいます。
国内で賃上げの機運が高まれば消費も期待できるので、経済の活性化に少しでもつながればうれしいです」

3か月連続の2%超え

企業が前例のない手当に動き出した背景にあるのが、このところの物価の上昇です。

6月の消費者物価指数では、2.2%と10か月連続で上昇しました。
2%を超えたのは3か月連続で、エネルギー価格だけではなく、食料品や日用品の値上がりが進んでいます。

家庭で広く使われる品目では
▽食用油は36%、
▽小麦粉は15.5%など大きく上昇しています。

1時間待ちの行列 食料品配布に学生3000人余

物価上昇で学生の生活にも影響が広がっています。

東京にある駒沢大学の世田谷キャンパスでは、夏休み前の今月20日から22日までの3日間、学生を対象とした食料品の無料配布が行われました。
物価高で生活費の負担が増していることに加えて、新型コロナの感染拡大でアルバイトのシフトに思うように入れないなど、収入面にも不安を抱える学生への支援としての取り組みです。

取材に向かうと、メーカーなどから提供を受けた食料品がキャンパス内の講堂にずらりと置かれていました。

学生たちの列は1時間待ち。

昼休み前後の時間を利用して次々に配られていて、食料品をビニール袋いっぱいに詰め込む姿が見られました。

用意されたのは、パックご飯9000食、スープ3000食、それにパスタ3000食など、あわせて9万食にのぼります。
食料品の配布には3日間で3000人あまりの学生が訪れたということです。

1人暮らしをする女子大学生に話を聞きましたが、生活費を節約しようと、食事は自炊が基本で、キャンパス内の学食さえ利用していませんでした。

取材をした21日、友人と食べていた昼ご飯は自分で握ったというおにぎり1個で、最近は1日2食で済ませることも増えてきているということです。
配布を受けた大学3年生
「1人暮らしをする中で食費の負担が一番大きいです。スーパーでアルバイトをしていますが、アルバイト代が上がっているわけではないので、なるべく安い食材を選んで節約を続けていこうと思います」
食料品を受け取った大学2年生
「コロナ禍でアルバイトのシフトが減ったりしてお金の面が不安だったので数多く提供してもらい助かります」

給料が上げらないと景気回復遅れの懸念

専門家は今後、食料品を中心に値上げの動きはさらに進んでいくとみられると指摘します。
みずほリサーチ&テクノロジーズ 酒井 主席エコノミスト
「家計からみれば、賃金の伸びを物価の上昇が上回ることによって、実質的な所得は目減りしてしまっています。
とくに所得が低い世帯は、収入に対する日用品の支出の割合が高いため値上げの影響が大きく、わたしたちの試算では、消費税率を3%引き上げた場合に相当する負担の増加があるとみている」
そこで必要となるのが待遇面の手当ですが、先行きは明るくないのが実情だと話します。
みずほリサーチ&テクノロジーズ 酒井 主席エコノミスト
「インフレ手当といった動きが今後広まっていくことを期待したいですが、足元では感染が再拡大し、海外経済の減速にも直面する日本の経済環境を考えれば、日本全体に広まっていくことは残念ながら考えづらい。
物価上昇に対して十分な賃上げが伴わなければ個人消費の冷え込みにもつながる可能性があり、景気の回復が遅れるリスクがある」
じわじわと進む物価上昇に対して、「インフレ手当」という新たなアクションが出始めました。

長くデフレ下にあった日本において、物価の上昇をこれからどう乗り越えていくのか、今後も取材を続けたいと思います。
経済部記者
野上 大輔
2010年入局
マクロ経済を担当
経済部記者
寺田 麻美
2009年入局
流通・物価などを担当
経済部記者
渡邊 功
2012年入局
経済安全保障の分野を担当
松山局記者
河崎 眞子
2017年入局
地域経済を担当