世界経済に暗雲!? IMFトップは何を語る

世界経済に暗雲!? IMFトップは何を語る
ロシアの軍事侵攻をきっかけに様相が一変した世界経済。
エネルギー価格や食料価格の上昇に拍車がかかり、欧米ではインフレを抑え込むための金融引き締めによって経済活動が鈍るのではないかという懸念も強まっています。
また中国でも経済の減速が明らかになり、世界経済の先行きに暗雲が漂っています。
こうしたなか、IMF=国際通貨基金のトップ、ゲオルギエワ専務理事が20日、都内でNHKの単独インタビューに応じました。
世界経済そして日本経済の今後について何を語ったのでしょうか。
(経済部記者 山田裕規)
Q:世界経済の今後をどう見ますか?
●IMF ゲオルギエワ専務理事
4月に世界経済の予測を発表して以来、下振れのリスクの原因がはっきりしてきました。

残念ながら、この下振れリスクが具体化し、インフレ率が大幅に上昇しています。

特に中国は新型コロナの影響で第2四半期に大きな経済の減速がみられ、投資を抑制する不確実性が高まっています。

こうした状況をふまえ、世界経済の成長率の予測を引き下げることになります。

先行きに暗雲がただよっていると認識しています。
Q:アメリカではインフレを抑え込むために、大幅な利上げに踏み切りましたが、金融引き締めによって景気が減速するリスクも指摘されています。
●IMF ゲオルギエワ専務理事
アメリカの金融引き締めは正しい対応ですが、景気後退に陥ることなく物価安定を達成するための道は狭まっていると思います。

FRBが金融を引き締めると、経済は冷え込みますが、FRBが目的とするのは、短期的なインフレ期待を安定させることですが、FRBにはそうするための決意があり、適切なコミュニケーションがとられています。

アメリカについては、今年と来年は、プラスの成長を予測していますが、当初の予測よりも引き下げています。

FRBがさらに金融を引き締めるような状況になれば、経済がより厳しい状況になる可能性があります。

ただ、アメリカ経済の基盤はしっかりしており、劇的に変わるようなリスクは見られません。
Q:アメリカの金利引き上げは、新興国経済にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
●IMF ゲオルギエワ専務理事
新興市場の多くは、長年にわたって成長のための強力な基盤を構築し、資金を積み上げ、新型コロナのショックから経済を守るための金融政策と財政政策を実施しているということは間違いありません。

ただアメリカの金利引き上げが今後も見込まれているということは、新興市場にとってより困難な状況になります。

多くの新興国はFRBの前に金融引き締めに踏み切っています。

この結果、新興市場の金融は先進国よりタイトになっているのですが、これは正しいことを行っているのです。

前提とすべき2つのポイントがあります。

1つは新型コロナの感染拡大で新興国の債務の水準が高まっていることです。

ドル建ての債務を抱えることは、利上げとドル高の組み合わせで、その状況を困難にします。

2つ目は、大規模な資本流出こそありませんが、2022年の半年間で520億ドルの資金が新興市場から流出したことです。

これは2021年全体の新興市場への流入額に相当します。

このように、資本流出の兆候がみられるのです。

資本流出と高金利が合わさると状況はさらに深刻になります。

こうした環境では、下振れリスクが具体化することで、新興市場にとって非常に困難な状況を生み出す可能性があります。

すでにスリランカ、レバノンといった国が支援プログラムの最前線にいます。

ガーナについても進展がみられますが、早い段階で行動してほしいと思います。

問題が発生した場合は、私たちと協力してリスクを減らすようにしていただきたいです。
Q:日本経済の先行きについてはどうみていますか?
適切な金融政策、財政政策とはどのようなものでしょうか。
●IMF ゲオルギエワ専務理事
グローバルな文脈で日本を見てみましょう。

新型コロナのショックとウクライナへの軍事侵攻の影響が日本にも及びましたが、日本は金融政策や財政政策を発動したことで今年、来年とプラスの成長を維持する見通しです。

そうは言っても、日本の経済成長の予測は、今回わずかながら下方修正され、日本のインフレ予測はやや上方修正されますが、日本ではインフレの水準は(欧米など各国に比べ)非常に低いです。

インフレ率について日本はなお2%を下回ると予測しています。

このため物価の安定を目指す日本銀行は、金融政策を維持するという選択があります。

FRBの金融引き締めの影響で為替レートは下落して(円安が進んで)いますが、それは自然な反応です。

日本は、円安の恩恵を受け、多くの輸出機会を得ています。

それは日本の状況を安定させています。

日本にとって最も重要なことは何でしょうか。

日本の低成長は人口動態に起因しています。

第1に、研究開発や人的資本にさらに投資することは、生産性を高めるための正しいステップです。

第2に、女性が働く魅力を高めることで労働市場を拡大するという役割が日本にはあります。

日本では女性の賃金は、男性よりも少ないので、労働市場を魅力的にするだけでなく、女性の賃金を引き上げることで賃金の低迷という問題に対処することができると思います。
ゲオルギエワ氏がインタビューで言及していたIMFによる世界経済の成長率の見通しは、今月26日に発表されます。
どれほどの下方修正となるのか。
IMFがその背景をどう分析するのかも注目されます。
経済部記者
山田 裕規
平成18年入局
旭川局、広島局で勤務
現在は内閣府・財務省を担当