ユーロドル 20年ぶり「パリティ割れ」背景は?【経済コラム】

ユーロ安に歯止めが掛かりません。13日の外国為替市場ではユーロの価値が1ユーロ=1ドルの等価(パリティ)を下回りました。「パリティ割れ」が起きるのは実に20年ぶり。背景にはロシアの軍事侵攻でがらりとかわったユーロ圏をとりまく経済情勢がありました。(経済部記者 篠田彩)

ユーロがパリティ割り込む

ユーロは、去年の年初からドルに対して値下がり傾向にあり、ことしに入って対ドルで12%下落しています。

13日の外国為替市場では、ついに1ユーロ=1ドルのパリティを割り込み、翌14日には、1ユーロ=0.995ドルまで値下がりしました。
背景には2つの要因があります。

1つはドル高。

アメリカでは記録的なインフレを抑え込むため、中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会が今月下旬、大幅な利上げに踏み切るという見方が強まっています。

アメリカは先月も大幅な利上げを実施しましたが、インフレと闘うためにドル高を容認しているとみられています。こうした市場の見方がユーロ安につながっているのです。

もう1つの要因はヨーロッパの景気減速への懸念が強まっていることです。

ロシアの軍事侵攻をきっかけにヨーロッパでもインフレが収まらない状況ですが、ここにきて企業の生産活動や市民生活に直結するエネルギーが確保できるのかという懸念が強まっています。

ロシアからドイツに天然ガスを送るパイプライン「ノルドストリーム」。
ここからのガスの供給がロシア側の定期点検を理由に今月11日からストップしているのです。

ロシアによるゆさぶりとも見られていますが、ロシアからのエネルギーに頼ってきたドイツの弱点が露呈した形で、このことがユーロ安に拍車をかけています。

ヨーロッパ経済を引っ張ってきたドイツの変貌

ドイツが直面しているエネルギー危機はどのくらい深刻なのか。ヨーロッパの天然ガス価格の指標となっている「オランダTTF」はこの1年でおよそ5倍に急騰。

ガス価格の高騰は、ドイツ国民の生活にも影響を及ぼしています。

ことし6月の消費者物価指数をみると、ガス代は1年前に比べ何と43%も増加しています。エネルギー会社の経営環境が悪化し、ドイツ政府はエネルギー会社に対する支援策を検討していると報じられています。

エネルギー価格の高騰やユーロ安が輸入価格を押し上げられた結果、ドイツでは、今月4日に発表された5月の貿易収支が1991年6月以来31年ぶりの赤字に転落しました。

これまでヨーロッパ経済を引っ張ってきたドイツの変貌ぶりは驚くばかりです。ドイツの厳しい現実について市場関係者は次のように話します。

「ヨーロッパの冬のガス需要は夏の3倍で、このままロシアからの供給が滞るとドイツでの配給制も現実味を帯びている。電気代やガス代の高騰で生活者は悲鳴を上げているが、冬に備えて燃料となる薪を用意している人も出るぐらい厳しい状況だ。エネルギーが確保できるかどうかは、まさに暮らしと命に直結する問題だ」

11年ぶり利上げか?

こうした中、市場が注目するのは今月21日に開かれるECB=ヨーロッパ中央銀行の理事会です。

前回会合の結果を踏まえ、市場は、0.25%の利上げを見込んでいます。ECBが利上げを実施すると実に11年ぶりとなります。

そしてインフレの状況次第ではその次の9月の会合でも0.25%を上回る大幅な利上げが予想されています。

ただ、ドイツをはじめヨーロッパ経済の減速懸念が強まる中で、インフレを抑え込むことができるのか。それとも金融引き締めによって景気が冷え込み、スタグフレーション(景気後退とインフレが同時に起きること)に陥るおそれはないのか、先行きは不透明です。

ユーロ圏特有のリスクも

また、ユーロ圏特有のリスクもあります。金融市場の「分断化」です。

金融市場の事情は各国で異なりますが、そこでECBが域内に一律に適用される利上げを行うと、財政基盤がぜい弱な国の債務の問題が意識されるおそれがあると指摘されています。

これは統一通貨をもつユーロ圏の宿命ともいえ、もちろんECBも利上げの衝撃を和らげるための対策を考えているようですが、11年ぶりの利上げが各国の経済や金融市場にどのような影響を及ぼすのか注目です。

一方、外国為替市場では、アメリカの金融引き締めが強化されるのではないかという見方から円安ドル高が加速し、円は24年ぶりの水準まで値下がりしています。

こうした中で、ユーロ安がもたらしたドルに対する「パリティ割れ」が円相場にどう影響するのか、さらなる市場の波乱要因とならないか注目したいと思います。

注目予定

20日、21日の2日間、日銀の金融政策決定会合が開かれます。市場では日銀が大規模な金融緩和策を続けるという見方が大勢ですが、日米の金融政策の方向性の違いを意識した円安が急速に進む中、黒田総裁の発言に注目が集まります。

また、21日にはECB=ヨーロッパ中央銀行の理事会が開かれます。こちらはインフレを抑え込むため利上げに踏み切るとみられますが、ユーロ圏の景気減速への懸念が強まる中、今後の金融政策の見通しについてどのような言及があるのか。こちらも目が離せません。