日本酒ファン必見!の配信 ピンチを“チャンス“に

日本酒ファン必見!の配信 ピンチを“チャンス“に
「このままでは日本の酒が飲まれなくなってしまう」
国内での消費量が減少傾向にある日本酒。新型コロナが追い打ちをかけ業界はさらなる苦境に陥っています。こうした中、消費者と直接つながり、ピンチをチャンスに変えようと、全国の酒蔵がタッグを組んだ取り組みが広がっています。
(秋田放送局記者 毛利春香)

200本が2分で

「画面越しに伝わらないのが残念ですけど、いまここの蔵、木おけと酒のいい香りがします」
毎週木曜日、午後8時から動画サイトで始まるライブ配信。舞台は酒蔵です。

出演するのは酒蔵の経営者や杜氏たち。

酒蔵の歴史やその土地の気候や風土、どういったコメを使っているかに加えて、酒の醸造工程なども映像を見せながら解説します。
この日、舞台となったのは京都の酒蔵「日々醸造」です。

これまで使ったことのない種類の酒米で新たな酒造りに挑戦したことや、全国各地の酒蔵で酒造りを学んだ経験を生かしたことなど、知られていない秘話を視聴者に語りかけます。

試飲も行われ、味や香りが詳しく説明されました。
「熟したメロンのような豊かな果実の香り」

「より奥深い味わいが隠されている」

「コロナ禍で立ち向かって形になったこのお酒は、この味以上に付加価値がある。ぜひ大切な人とわかちあって飲んでほしい」
配信では、誰がどんな思いで、どういった環境で造ったかも含め、酒蔵それぞれの魅力を知ったうえで、購入することもできます。
配信終了後、オンラインで販売された日本酒は限定200本。わずか2分で完売しました。
松本さん
「コロナみたいな誰も予測できない事態が実際に起きて、1人でできることの限界を痛感しました。これからの時代、焼酎や日本酒を造り続けるのはなかなか厳しいと言うのは簡単だけど、自分たちは残すことを目的に集まっていて、その強い思いを配信で感じ取ってもらえるんじゃないかと思います。ライブ配信で、しっかりメッセージを伝えた上でお客様に日本のお酒も飲んでみたいなとか、地域と密着して、産地とつながって、造っているお酒を飲んでいただくきっかけになってほしいです」

追い打ちをかけたコロナ禍

ライブ配信の仕掛け人の1人、佐藤祐輔さん。1852年に創業された、酒どころ秋田でも有数の老舗酒蔵「新政酒造」の8代目です。
このままでは日本の酒が飲まれなくなってしまうのではないかと、強い危機感を抱いていました。

ビールと日本酒が中心だった国内のアルコール消費ですが、さまざまなアルコールが楽しめるようになったことで好みも多様化してきました。
これに伴って、日本酒の消費量もピークだった1975年度から減少傾向が続き、2020年度の時点では、ほぼ4分の1までに減りました。

そこに、新型コロナウイルスの感染拡大による、飲食店の営業自粛や、行動制限などの影響が追い打ちをかけました。
佐藤さん
「日本酒全体の需要が落ち込んでいたところに、新型コロナが追い打ちをかけました。経営的に大きな打撃を受けた酒蔵も少なくありません。私たちの業界は、次にお客様にどんな日本酒の新しい魅力を提示していくかを、もっと早くから考えておくべきだったのに、それもできていませんでした」

商売の原点に

佐藤さんは、交流のあった全国の酒蔵に声をかけて、情報交換しながら技術力や経営力を向上しようと、「J.S.P」(ジャパン・サケ・ショウチュウ・プラットフォーム)を2年半ほど前に設立しました。今では全国約50の酒蔵が参加しています。
コロナ禍で、それまでの主な取引先だった酒販店や飲食店だけに頼るわけにはいかなくなる中で、自宅でお酒を楽しむ「個人の客」とのつながりを、新たなターゲットにする必要性に迫られたのです。
佐藤さん
「コロナのおかげでお客さんと直接結びつく必要があって、1本1本ものを手売りする感覚みたいな、商売の原点中の原点をこの厳しい時に僕らはもう1度考えさせられたんじゃないでしょうか。知られていない魅力を個々に発掘して、それをきちんとPRするような取り組みがこれからいるよねと、コロナの最中に蔵元でよく話し合いました」
こうして、去年9月に始まったのがライブ配信です。

酒蔵からの配信は、これまで合わせて40回を越え、毎週続けられています。

逆境をチャンスに

最近では、ライブ配信だけでなく、実際に酒蔵を訪れて見学してもらう「体験型」など、新たな企画も生まれています。

佐藤さんの酒蔵でも、原料となる酒米の生産に向けた「田植え体験」を企画。普段は、ライブ配信を楽しんでいるという7人が全国から参加しました。
参加した人
「こだわってお酒をつくる大変さがわかりました。今まで知らなかった蔵を知ることができ、手軽にオンラインで買えるのも、取り組みとしては新しいやり方だと思います」
佐藤さんは、ライブ配信をきっかけにして、酒蔵が改めて自分たちの酒造りや経営などを見つめ直し、学ぶ機会になっていると感じています。
佐藤さん
「コロナのおかげで、ここで立て直さなきゃいけないという風な強烈な切迫感みたいなものを、どの蔵も感じたと思います。この配信を見ていて、楽しく、老若男女が気軽にアクセスできる、そして伝統産業だけど、とっつきやすい存在に日本酒がなってくれればなと思っています」
日本酒に限らず、焼酎や泡盛など「日本の伝統的な酒造り」は、地域の風土を生かし守られてきたもので、国もユネスコ無形文化遺産への登録を目指しています。

この貴重な文化を守っていけるかは、逆境をチャンスと捉えて変革をいとわない前向きな意識を持ち続けられるかにかかっているのかもしれません。
秋田放送局記者
毛利春香
平成30年入局
初任地の秋田で農業や伝統文化などを取材。
秋田で日本酒の魅力に気づきました!