どう解消?男性の“とるだけ育休”

「育休を取った夫が家にいて逆にストレスを抱えているママさん、いま多いんですよね」。
去年の秋、第2子を出産した私は、産婦人科でこんな言葉を聞きました。
取材を進めると男性の3人に1人が“とるだけ育休”の可能性があるという指摘も。育休の“質”を高めるアイデアを紹介します。
(政経・国際番組部ディレクター 矢島哉子)
去年の秋、第2子を出産した私は、産婦人科でこんな言葉を聞きました。
取材を進めると男性の3人に1人が“とるだけ育休”の可能性があるという指摘も。育休の“質”を高めるアイデアを紹介します。
(政経・国際番組部ディレクター 矢島哉子)
夫が育休をとってはくれたけど…
まず、取材したのは、およそ300万人が登録する子どもがいる女性を対象にした情報アプリの運営会社です。
アプリに設けられた掲示板には、育休をとった夫への不満や悩みが多く寄せられていました。
アプリに設けられた掲示板には、育休をとった夫への不満や悩みが多く寄せられていました。

「寝てばかりいる姿を見ると、早く仕事に行ってほしいと思ってしまう」
「ほんの数日洗い物とか洗濯をしただけで、あとは普段と何も変わらない」
「買い物も家事もお世話も私がして、逆に昼ごはんの準備が増えて大変」
「ほんの数日洗い物とか洗濯をしただけで、あとは普段と何も変わらない」
「買い物も家事もお世話も私がして、逆に昼ごはんの準備が増えて大変」
アンケートで浮かび上がった “とるだけ育休”
なぜ、育休をとった夫に不満を感じる人が多いのか。
アプリの運営会社では、3年前に利用者を対象に行ったアンケート結果にその理由があらわれているといいます。
アプリの運営会社では、3年前に利用者を対象に行ったアンケート結果にその理由があらわれているといいます。

夫が育休を取得したことがあるという女性およそ500人に、「育休中に夫が家事・育児を1日合計でどのぐらい担っていたか」尋ねたところ、3人に1人が「2時間以下」と回答したのです。
さらに、夫の育休中の家事・育児時間が「2時間以下」の場合には、家事・育児の役割分担に納得できないと感じている割合が夫が育休を取得しない場合よりも多いことがわかりました。
この会社では育児や家事に関わる時間が少なく夫婦の満足度が低い状況を“とるだけ育休”と名付け、調査結果から男性の3人に1人が該当する可能性があると指摘し、問題提起を続けています。
さらに、夫の育休中の家事・育児時間が「2時間以下」の場合には、家事・育児の役割分担に納得できないと感じている割合が夫が育休を取得しない場合よりも多いことがわかりました。
この会社では育児や家事に関わる時間が少なく夫婦の満足度が低い状況を“とるだけ育休”と名付け、調査結果から男性の3人に1人が該当する可能性があると指摘し、問題提起を続けています。

アプリ運営会社「コネヒト」高橋代表取締役
「社会や企業側の理屈では取得率を向上させればいいとなってしまいがちで、育休の内容には関心がもたれていません。
“質”にもこだわって、夫婦どちらにとっても満足度が高い育休をとっていただきたいと思っています」
「社会や企業側の理屈では取得率を向上させればいいとなってしまいがちで、育休の内容には関心がもたれていません。
“質”にもこだわって、夫婦どちらにとっても満足度が高い育休をとっていただきたいと思っています」
どんな育休に? “質”を考えるきっかけを
どうすれば“とるだけ育休”を改善できるのか。
“質”が伴う育休とはどのようなものなのか。
実際に育休を取得した男性や企業の取り組みから、ヒントを探ることにしました。
まずは育休について夫婦で話すきっかけがほしい。
そんな思いからことし6月に作成されたのがこちらの“診断チャート”です。
“質”が伴う育休とはどのようなものなのか。
実際に育休を取得した男性や企業の取り組みから、ヒントを探ることにしました。
まずは育休について夫婦で話すきっかけがほしい。
そんな思いからことし6月に作成されたのがこちらの“診断チャート”です。

開発したのは、仕事と子育ての両立を考えるSNS上の民間コミュニティ「ikumado」に参加する、実際に育休を取得した男性たちです。
「家事が苦手?」「物音がしたらすぐ起きる?」などの質問にYES・NOで答えていくと、目指すべき育休の期間やイメージが、ひとつの目安として提案されます。
提案はあわせて6種類。
「家事が苦手?」「物音がしたらすぐ起きる?」などの質問にYES・NOで答えていくと、目指すべき育休の期間やイメージが、ひとつの目安として提案されます。
提案はあわせて6種類。

期間が2週間程度と短めなら、産まれてすぐの大変な時期を夫婦で乗り越える「寄り添い育休」、3か月程度であれば、山あり谷ありの毎日を経て夫婦の絆を深める「信頼育休」。
育休をとりたいという気持ちはあっても、どのくらいの期間をどう過ごしたらいいのかがなかなかイメージできないという男性の声を受け、期間の長短だけでなく“質”にも目を向けてもらえるよう、ネーミングに工夫を凝らしました。
育休をとりたいという気持ちはあっても、どのくらいの期間をどう過ごしたらいいのかがなかなかイメージできないという男性の声を受け、期間の長短だけでなく“質”にも目を向けてもらえるよう、ネーミングに工夫を凝らしました。

“診断チャート”の開発に関わった坂田孝介さん(8か月の育休を取得)
「男性は育休について考えたり覚悟をもったりするきっかけがつかみにくいです。
まずは入り口を軽くして、夫婦で気軽に話せるきっかけを作れればと思いました」
「男性は育休について考えたり覚悟をもったりするきっかけがつかみにくいです。
まずは入り口を軽くして、夫婦で気軽に話せるきっかけを作れればと思いました」
パパに3つの“ミッション”を提示!?
いざ育休をとると決めた男性に、“質”を高めるための具体的な方法を伝えたい。
そんなねらいで作られたガイドブックもあります。
そんなねらいで作られたガイドブックもあります。

ガイドブックでは、赤ちゃんが生まれたあとに起こり得ることをマンガなどでわかりやすくレクチャーしたうえで、特に負担が大きくママの役割になってしまいがちな3つの項目を“ミッション”として提示しています。
1.赤ちゃんと2人きりで留守番をして、おむつ替えや授乳などの基本的なお世話をこなすこと。
2.赤ちゃんと2人で買い物に行き、突然の大泣きなど想定外の事態にも対応できるようになること。
3.お風呂から着替え・寝かしつけまでをひとりでやり遂げること。
2.赤ちゃんと2人で買い物に行き、突然の大泣きなど想定外の事態にも対応できるようになること。
3.お風呂から着替え・寝かしつけまでをひとりでやり遂げること。
“ミッション”ということばを使うことで、いやいややらされるのではなく、楽しく前向きに取り組んでもらいたいという願いも込められています。

ガイドブックを作成したのは、冒頭で紹介した“とるだけ育休”の問題を提唱するアプリの運営会社です。
この会社では自治体と連携し、これから子どもを迎える夫婦に向けたワークショップを開催するなどしてガイドブックの普及を図り、これまでにおよそ2万8000冊を配布しています。
この会社では自治体と連携し、これから子どもを迎える夫婦に向けたワークショップを開催するなどしてガイドブックの普及を図り、これまでにおよそ2万8000冊を配布しています。
仕事の「企画書」を育休に応用!?
さらに取材を進めると、普段仕事で使う「企画書」を育休に応用したことで、周囲の理解を得ながら“質”を高められたという男性もいました。
自動車関連会社でエンジニアとして働く伊藤翼さん(38)。
自動車関連会社でエンジニアとして働く伊藤翼さん(38)。

通信関連会社の総合職として働く妻・佳苗さん(36)と、6歳と2歳の2人の子どもを育てています。
伊藤さんは2人目の誕生後、できるだけ早く復職して今後のキャリアを充実させたいという妻の思いを尊重し、6か月間の育休を取得しました。
その際、自分の思いを整理するために作成したのが、こちらの「育休企画書」です。
伊藤さんは2人目の誕生後、できるだけ早く復職して今後のキャリアを充実させたいという妻の思いを尊重し、6か月間の育休を取得しました。
その際、自分の思いを整理するために作成したのが、こちらの「育休企画書」です。

企画書には、自分が育休を通して目指す姿、仕事の引き継ぎや育休に入る前の準備も含めた具体的な計画、さらに復職後にどう育休の経験を生かしていくかなどが事細かく書き記されています。


伊藤翼さん
「育休を取得するとなると、自分だけではなく家族、妻も含めて、職場にも関わってくる人たちがたくさんいるので。
『何となく取る育休じゃないよ』という覚悟だけはしっかりまわりに伝えて理解してもらうことが必要だと考えました」
「育休を取得するとなると、自分だけではなく家族、妻も含めて、職場にも関わってくる人たちがたくさんいるので。
『何となく取る育休じゃないよ』という覚悟だけはしっかりまわりに伝えて理解してもらうことが必要だと考えました」
この企画書を作成するにあたって、伊藤さんはまず妻に相談。
育休中にどんな力を高めてほしいか尋ねたところ、返ってきた答えのひとつが“育児全体をマネジメントする力”でした。
伊藤さんは当時、朝7時前に家を出て21時すぎに帰宅する生活で、平日の育児はほとんど妻任せ。
週末に子どもとたくさん遊ぶなどして育児をしている気持ちになっていましたが、子どもの体調や持ち物、生活スケジュールなどの管理はまったく関知せず、妻に言われたことをこなしていただけだと気づかされたといいます。
そこで企画書には、育児の手伝いをするのではなく“当事者”になることを目標として宣言。
育休中にどんな力を高めてほしいか尋ねたところ、返ってきた答えのひとつが“育児全体をマネジメントする力”でした。
伊藤さんは当時、朝7時前に家を出て21時すぎに帰宅する生活で、平日の育児はほとんど妻任せ。
週末に子どもとたくさん遊ぶなどして育児をしている気持ちになっていましたが、子どもの体調や持ち物、生活スケジュールなどの管理はまったく関知せず、妻に言われたことをこなしていただけだと気づかされたといいます。
そこで企画書には、育児の手伝いをするのではなく“当事者”になることを目標として宣言。

復職後には、平日も育児に主体的に関わるための力をつけたいと記しました。

伊藤さんの妻・佳苗さん
「ひとりだけで考えて『僕はこうやってやっていくから』と企画書を出されても納得感は低かったと思うんですけど、こちらからお願いしたことも盛り込まれていて本気度を感じたので、そこは素直にうれしかったですね」
「ひとりだけで考えて『僕はこうやってやっていくから』と企画書を出されても納得感は低かったと思うんですけど、こちらからお願いしたことも盛り込まれていて本気度を感じたので、そこは素直にうれしかったですね」
伊藤さんは職場の人にもこの企画書を見せながら、育休について相談しました。
そうすることで、なぜ自分が育休を取得したいかという思いを伝えやすく、具体的な仕事の引き継ぎもスムーズにできたそうです。
いざ育休に入ると忙しさは想像以上。
思い描いていたようにいかずストレスに苦しむこともありましたが、夜寝る前などに企画書を見返したことで、目的を見失わずに過ごせたといいます。
そうすることで、なぜ自分が育休を取得したいかという思いを伝えやすく、具体的な仕事の引き継ぎもスムーズにできたそうです。
いざ育休に入ると忙しさは想像以上。
思い描いていたようにいかずストレスに苦しむこともありましたが、夜寝る前などに企画書を見返したことで、目的を見失わずに過ごせたといいます。

“平日もパパ”に… 育休を経て変わった生活
伊藤さんは復職後、在宅ワークを積極的に活用するなどして、平日も必ず育児の時間を確保するよう働き方を変えています。
私が取材に訪れた日も、仕事を夕方5時できりあげ、子どもたちの大好物だというマグロのフライを手際よく調理。
家族4人で食卓を囲み、食後にはサッカーも楽しんでいました。
さらに、自分の育休体験や育休に入る前の準備についてイベントやセミナーを通じて伝え、これから子どもをもちたいと考えている人に役立ててもらおうとしています。
私が取材に訪れた日も、仕事を夕方5時できりあげ、子どもたちの大好物だというマグロのフライを手際よく調理。
家族4人で食卓を囲み、食後にはサッカーも楽しんでいました。
さらに、自分の育休体験や育休に入る前の準備についてイベントやセミナーを通じて伝え、これから子どもをもちたいと考えている人に役立ててもらおうとしています。

伊藤翼さん
「僕の場合は週末だけでなく平日もパパになるためにはどうしたらいいんだろうと考えた時に、育休に対する考え方や過ごし方が変わりました。
『企画書』まで作るのは大変かもしれませんが、自分の得意な形でいいので目標を見える化して、家族や職場の人とコミュニケーションをとることが大切ではないかと伝えています」
「僕の場合は週末だけでなく平日もパパになるためにはどうしたらいいんだろうと考えた時に、育休に対する考え方や過ごし方が変わりました。
『企画書』まで作るのは大変かもしれませんが、自分の得意な形でいいので目標を見える化して、家族や職場の人とコミュニケーションをとることが大切ではないかと伝えています」
男性が育休を取得した割合は2020年度には12.65%(配偶者が出産した男性のうち、育休を取得した人数の割合・厚生労働省調査)と少しずつ増えています。
このうち、育休の期間が5日未満なのは28.33%となっています。
来年4月には、従業員1000人を超える企業に育休の取得状況を公表することも義務化されます。
ただ、取得率の向上だけが目標になってしまってはいけないと思います。
取材を通じて、夫婦ともに取得してよかったと感じ、取得して終わりではなく、その後の仕事と家庭の両立にもつながる育休が増えてほしいと強く感じました。
このうち、育休の期間が5日未満なのは28.33%となっています。
来年4月には、従業員1000人を超える企業に育休の取得状況を公表することも義務化されます。
ただ、取得率の向上だけが目標になってしまってはいけないと思います。
取材を通じて、夫婦ともに取得してよかったと感じ、取得して終わりではなく、その後の仕事と家庭の両立にもつながる育休が増えてほしいと強く感じました。

政経・国際番組部ディレクター
矢島 哉子
2009年入局
広島局、おはよう日本などを経て2017年から経済番組班
2児の子育て中
矢島 哉子
2009年入局
広島局、おはよう日本などを経て2017年から経済番組班
2児の子育て中