ツノまで生えた!?ワニの口 ~コロナ禍の国の決算~

ツノまで生えた!?ワニの口 ~コロナ禍の国の決算~
コロナ禍で膨張した国家財政。令和元年度には104兆円だった一般会計の歳出(予算ベース)は、令和2年度が175兆円。昨年度・令和3年度は142兆円まで膨らみました。
実はこの間、2年連続で税収が過去最高を記録していたのに、歳出と歳入のギャップを示す「ワニの口」は、閉じる気配が一向にないどころか、「“ツノ”が生えた」とまで言われています。
他方で、数十兆円規模の巨額の予算を「使い切れない」状況も生まれています。
異例ずくめとなった国の予算・決算。
ワニに“ツノ”が生えたって、どういうこと?
(経済部記者 大江麻衣子・峯田知幸)

コロナ禍でも税収過去最高!なぜ?

今月、財務省が昨年度・令和3年度の一般会計の執行状況をまとめた「決算」を発表しました。
今回の決算で注目を集めたのは「税収」です。

昨年度の税収は67兆379億円。

前年度・令和2年度を6兆2000億円あまり上回り、2年連続で過去最高を更新しました。

確かにコロナ禍で落ち込んだ景気は持ち直しつつありますが、「税収が過去最高」と聞くと、違和感を覚える人もいるかもしれません。

それではなぜ、税収が記録的な水準となったのか。

基幹3税と呼ばれる法人税、所得税、消費税それぞれの事情を見てみます。
67兆円を超える税収のうち、基幹3税はその84%を占めています。

このうち、最も税収の伸びが大きかったのが法人税。

前年比で2兆4082億円の増収となりました。

企業の業績が回復傾向にあることがその背景です。

SMBC日興証券のまとめによると、昨年度の決算で企業の(3月期決算の旧東証1部上場の企業)最終利益は前の年度より38%増加。

このように企業の業績が回復傾向にあることが法人税収を押し上げました。

続いて「所得税」。こちらは2兆1924億円の増収です。

経済活動が再開し、雇用環境が改善したことが主な要因です。

さらに企業が株主への配当を増やしたことや株式市場で株価が値上がりしたことで、金融所得にかかる税収が増えたことも所得税全体の伸びにつながったとみられています。

そして、消費税は9172億円の増収でした。

消費税はコロナ禍の前の令和元年10月に税率が10%に引き上げられました。

このため、翌・令和2年度はコロナ禍で消費が大きく落ち込んだにもかかわらず、税収が初めて20兆円の大台を超えました。

昨年度は消費が持ち直したことで、さらに税収が伸びたのです。

ワニに“ツノ”が生えた!?

コロナ禍でも異例の伸びとなった税収。

それでも厳しい財政運営は続いています。

こちらは毎年の財政状況を示したグラフ。
財政のニュースに関心のある人はご存じでしょうが、「ワニの口」と言われています。

グラフの形状が、ワニが口を開けている姿にそっくりだからです。

上あごが歳出、下あごが税収。

その間の大きく空いたスペースを借金=国債発行などで賄っています。

注目すべきは、ワニの口の先っぽ。

令和2年度・3年度の上あごです。

令和2年度は予算ベースで175兆円、決算ベースでも147兆円。

令和3年度も144兆円まで歳出が急増しました。

新型コロナへの対応として巨額の補正予算が次々と編成されたためです。

垂直に立ち上がるグラフの形状をある財務省幹部は、「ワニの口に“ツノ”まで生えた!」と例えました。

上あごと下あごの差が最も開いた令和2年度の新規の国債発行額は108兆6000億円。

下あごにあたる税収が回復しても、いっこうにワニの口は閉じようとしません。

“繰り越し” “不用” 異例の規模に

ワニの上あごにあたる歳出。

今回の決算では、さらに異例の事態が明らかになりました。

“繰り越し”と“不用”です。

▽繰り越し=年度内に支出が終わらなかった予算を翌年度に繰り越して使用すること
▽不用=予定されていた歳出のうち、結果的に支出しなかったり、節約して使わなかった予算

令和2年度は当初予算に加えて、コロナ対策として3度の補正予算を組んだことで歳出の総額は175兆円までふくらみました。

このうち年度内に使われなかった予算は何と30兆円にのぼり、翌年度への“繰り越し”に。

令和3年度の決算でも22兆円もの巨額の予算が使われずに繰り越されました。

一方、令和3年度予算では“不用”が6兆円を超える規模で発生しました。

国の予算は財政法で年度内に使い切ることを前提とする“単年度主義”を原則としていますが、コロナ前の予算の“繰り越し”が3兆円台から6兆円台。

“不用”は1兆円台だったことを考えると、この2年間の“繰り越し”と“不用”の金額は異様ともいえる大きさです。

巨額の予算 なぜ使い切れない

なぜ使い切れない予算がこれほど巨額にのぼったのか。

繰り越しの内訳を見てみると新型コロナ対策の事業が目立ちます。
令和2年度 繰り越し総額=30.8兆円
(繰り越しの主な費目)
▽実質無利子無担保融資=6.4兆円
▽公共事業=4.7兆円
▽地方創生臨時交付金(飲食店への時短協力金)=3.3兆円
▽Go Toトラベル=1.3兆円
令和3年度 繰り越し総額=22.4兆円
(繰り越しの主な費目)
▽地方創生臨時交付金(飲食店への時短協力金、無料コロナ検査等)=5.7兆円
▽公共事業=4兆円
▽事業復活支援金=2.3兆円
▽マイナンバーポイント事業=1.8兆円
財務省は、繰り越しが生じた理由について、「時短協力金は、自治体からの申請が年度をまたぎ、支払いに遅れが生じた」「マイナンバーポイント事業は、年度内に申請が始まらなかった」「事業復活支援金は年度内の申請が想定を下回った」などと説明しています。

それではどのような予算で“不用”が生じたのか。

令和3年度予算で使い切ることができず、“不用”になった事業は以下のとおりです。
不用となった主な費用
▽実質無利子無担保融資=2兆円
▽Go Toキャンペーン=9000億円
▽コロナ予備費=4000億円
政府は大型の補正予算を編成するたびに「新型コロナという異例の状況のもとで、万一の事態に備える必要がある」として、非常時の対応だという説明を重ねてきました。

ある財務省幹部は、「結果として使わなかった予算を“不用”として計上するなど執行段階で健全な運営を心がけている」として、むだづかいはしなかったと力説します。

その一方で「予算の感覚がマヒし、規模感に関するタガが外れてしまった」と、危機感をあらわにする幹部もいます。
参議院選挙を終えて、岸田内閣は今後、来年度の予算編成に向けた議論を本格化させますが、物価対策、防衛予算など歳出の増加を伴うさまざまな課題が山積しています。

ワニの口は今後、どうなるのか。

“ツノ”が生え、この先どんな形になるのか、しっかり見ていきたいと思います。
経済部記者
大江 麻衣子
平成21年入局
水戸局、福岡局を経て現所属
経済部記者
峯田 知幸
平成21年入局
富山局、名古屋局を経て現所属