参院選期間中に実践的な主権者教育 18歳の新成人1票に向き合う

今回の参議院選挙は、成人年齢が18歳に引き下げられて初めて全国で行われた国政選挙となりました。
千葉県の高校では、実際の候補者たちを対象に模擬投票をする実践的な授業が行われ、新成人たちが1票の重さと向き合いました。

今回の選挙期間中に実践的な主権者教育を行ったのは千葉県の県立東葛飾高校で、有権者となった18歳を含む3年生300人余りを対象に「政治・経済」の授業で取り組みました。

18歳は6年前から投票できるようになりましたが、ことし4月の成人年齢の引き下げに伴い、今回から「成人」として1票を投じることになるため、公民科の教員は実際の候補について調べる方法も生徒たちに委ねました。
生徒たちは、高校のある千葉選挙区の14人の候補者について、選挙公報や候補者のウェブサイトを見て、景気対策や教育、労働といった優先したいテーマごとに点数をつけて順位を決めたり、自分と考えの近い候補者が分かる「ボートマッチ」と呼ばれるウェブサイトを使ったりして考えをまとめていました。

生徒どうしは議論を交わしていましたが、教員は自分の意見で生徒の投票行動を左右しないよう▽特定の候補者名や政党名を挙げないようにし、▽政策の評価については発言を控えて見守っていました。

最後には、実際に千葉選挙区の候補者の名前を書いて、模擬の投票箱に1票を投じていました。

総務省によりますと、一部の投票区を抽出して速報値を算出したところ、今回の参議院選挙の18歳の投票率は38.67%だったということで若い世代の投票率の低さが課題になっています。
千葉県立東葛飾高校の内久根直樹教諭は「政治的に中立な授業ができるのかと萎縮する先生もいると思いますが、成人年齢の生徒もいるので調べ方もすべて任せて中立な立場を取りました。休み時間に政策について話す生徒たちを見て、政治を自分事として考えられていると効果を感じました。いろんな意見があることを教室の中で感じながら、社会を作る一員として育ってほしいです」と話していました。

政策の根拠や矛盾に着目した生徒も

実践的な主権者教育の授業を通じて、政策の根拠や矛盾がないかを確認する必要性に気付いた生徒もいます。

授業を受けた3年生で18歳の古谷京香さんは、まずはスマートフォンを使って「ボートマッチ」と呼ばれるサイトで、自分と近い考えの候補者をみたうえで、その候補者が所属する政党を選挙公報で調べました。

すると「ジェンダーの平等」を掲げている一方で、男性の候補者の顔写真しか載っていないことに気付き、「矛盾を感じる」と話していました。

また、隣の男子生徒と重視する政策を話し合う中で、これまで関心がなかった最低賃金を上げる政策によって、暮らしが助かる人たちがいることにも気付いたといいます。

古谷さんは「授業の前はネットやテレビを見て時間をかけずに決めればいいかと思っていました。公約を読むだけではどこもよく思えてしまうので政策の根拠となる財源や訴えに矛盾がないかを、人と話したり、いろいろな媒体を使ったりして確認しないといけないと思いました」と話していました。

授業のあとも自分で各党の政策を調べたという古谷さんは投票後、「いろいろ考えた末に『憲法改正』をめぐる姿勢を重視して投票しました。テスト勉強みたいに、選挙直前に調べても自分の考えと向き合う時間が足りないと分かったし、自分にすべて関係あるテーマだと実感できたので、ニュースや新聞を見る目が変わったなと思います。投票した人とか当選した人が、今ある問題に対し何をしたのか見て、次の選挙は決めたいと思っています」と話していました。

迷った末に1票投じた生徒

授業の時間だけでは投票する候補者を決めきれず、時間をかけて政策を調べ、1票を投じる先を決めた生徒もいます。

授業を受けた3年生で18歳の芳賀千咲さんは、授業を受けるまでは「選挙ポスターを見て大多数が投票しそうなところに入れるのかな」と漠然と考えていたといいます。

授業では隣の男子生徒と、候補者の政策を見比べましたが「各党の主張が似ている」と感じ授業中には結論が出せませんでした。

その3日後の放課後、芳賀さんは図書室で政策をテーマごとに比べ直し、それぞれの候補者に点数を付けていくことで、自分の考えに近い候補を絞っていました。

芳賀さんは「授業まではどう考えればいいかわからないまま放置していて、自分と社会は全然関係ないし社会は変わらないと思っていました。でも詳しく比べると実現を目指す時期など少しずつ違うと気付き、大人になったからこそ考え方の軸を持たないといけないと思いました」と話していました。

そして投票後、芳賀さんは「家で両親と話したら『親よりも考えているね』と言われてうれしかったです。今まで見ていなかった政治のニュースを見るようにすれば、自分の考えを作ることができるようになると思います。自分の考えを政治に反映させる権利をもらっているので、その機会を逃さず大事にするべきだと思いました」と話していました。

専門家「学校と政治を近づける取り組み 学ぶところ多い」

主権者教育に詳しい東京大学大学院の教育学研究科長の小玉重夫教授は、選挙期間中に有権者のいるクラスで実際の候補者を題材にした授業について「実際の政治家や政党、争点を具体的に取り上げることは何よりも重要な教材になり、学校と政治を近づける実践的な取り組みで学ぶところが多い。選挙期間中であればこそ一緒に議論し、考えないといけないと思う」と話しました。

国は実践的な主権者教育を行うよう求めていますが、政治的中立性を意識して授業で政治を扱うことをためらう教員もいるとして「日本では、萎縮して政治を扱わない学校もまだまだ見られ、高校生が社会や政治から遠ざけられてきた側面もある。18歳が成人として投票する時代においては、むしろ積極的に参加して主権を行使していく存在になっていくことが求められるので、政治をタブー視せずむしろ友人と語り合うのが当たり前という日常を作っていくことが、日本に民主主義を根付かせるためには非常に重要だと思います」と話していました。