東芝 深まる混乱 カギ握る社外取締役

東芝 深まる混乱 カギ握る社外取締役
経営の混乱が続く東芝。

6月の株主総会は、総会で再任されたばかりの取締役が辞任する異例の展開となりました。背景にあったのは、“モノ言う株主”から取締役を受け入れることをめぐる対立です。

総会に至るまでの数か月間、重要な人事を決める議論の主役であり続けたのは、社長でも、ほかの役員でもなく「社外取締役」のメンバーたちでした。

異例 取締役再任直後の辞任

6月28日、経営の混乱が続く東芝の株主総会が開かれました。総会は、13人すべての候補が取締役として可決され、終了。

しかしその後、異例の事態が起きます。総会で再任された取締役の1人、綿引万里子氏の辞任が発表されたのです。

発表文には、「取締役会が一体となって進むためには、自身が退任することがふさわしい」とだけ記されました。

いったい、何が起きていたのでしょうか。

“モノ言う株主”社外取締役に

今回の混乱の発端は、東芝が投資ファンド、いわゆる“モノ言う株主”から、2人の社外取締役を受け入れようとしたことでした。

2人は、会社と対立が続く海外の投資ファンド「ファラロン・キャピタル・マネジメント」の幹部、今井英次郎氏と、“最強のアクティビスト(モノ言う株主)”とも称される「エリオット・マネジメント」の幹部ナビール・バンジー氏。

実は、東芝には総会前から“モノ言う株主”との協議をへて選任された4人の社外取締役がいました。

今回の総会では“モノ言う株主”から、さらに2人を会社に迎え入れることの是非が議論となっていたのです。

この表は、6月28日に開かれた株主総会で決まった取締役です。東芝の社内からは、島田社長と柳瀬副社長のみで、残りは全員が社外取締役という構成です。

取締役人事 主導したのは

今回、この人選を主導したのは、社内ではなく社外取締役のレイモンド・ゼイジ氏です。自身も大株主の一つ、投資ファンドのファラロンに在籍していた経験もある人物です。

ゼイジ氏は、社外取締役5人で構成し、取締役の選任や執行役など会社の重要人事を決める指名委員会の委員長も務めています。

ゼイジ氏が2人を候補に選んだ、詳しい経緯は明らかになっていません。会社の分割案が否決された3月の臨時株主総会をきっかけに、“モノ言う株主”との間で人事をめぐる何らかの交渉があったともささやかれています。

ゼイジ氏をはじめ、“モノ言う株主”の関係者が、取締役のメンバーに選任されているのは、経営危機に陥った2017年に、東芝が債務超過を回避し何とか上場を維持しようと、海外の投資ファンドを頼ったためです。

このとき、およそ6000億円の出資を受けていて、現在、東芝の株式のうち議決権ベースで25%程度が“モノ言う株主”に握られているとみられています。

綿引氏なぜ“待った”をかけたのか

このゼイジ氏の人選に“待った”をかけたのが、最終的に取締役を辞任した綿引氏です。

弁護士でもある綿引氏は、名古屋高等裁判所の長官として退官するまで、裁判官として40年にわたりキャリアを積んできた法律の専門家です。
綿引氏は、モノ言う株主出身の2人の選任に反対を表明。株主総会の招集通知にも、反対と明記されました。

理由について綿引氏が指摘したのは、下記の2点です。
▽ 2人を受け入れるにあたって、出身の投資ファンドと交わした“合意書”が不十分。

▽ 取締役会のメンバーが、多様性、公平性、バランスの点で問題があるように見える。
東芝は、この2人の出身母体の投資ファンドと、秘密保持を含めた合意書を交わしています。取締役になれば、重要な経営情報にも触れることができ、ほかの株主より有利に株の売買なども行えることから不公平となります。

これを防ぐため、合意書は取締役となる2人の行動に制限をかけていますが、それが不十分だと主張したのです。
綿引氏の主張に対し、前社長で取締役会の議長を務めた綱川智氏は「綿引氏の意見は個人的な見解」と表明し、その主張を退けました。

こうした中、綿引氏は、私たちの取材に「契約が厳格に守られれば大丈夫だが、すり抜ける道があるのではいか。契約が破られない手だてを徹底すべきだがそれが十分ではない」と危機感を募らせていました。

“モノ言う株主”が一般の株主より有利な状況になる可能性があるとみて、法律家として看過できないと考えたのだと感じました。
一方、モノ言う株主もすべてが同じ見解ではありません。

筆頭株主で、ときに東芝と鋭く対立してきた投資ファンドの「エフィッシモ・キャピタル・マネジメント」は、綿引氏が辞任したことについて「大変残念で、より信頼される取締役会の構築につなげてもらいたい」と取材に答えていました。

「モノ言う株主」とひとくくりに考えてしまいがちですが、実際は立場も東芝に期待することも、それぞれが大きく異なっています。

“モノ言う株主” 受け入れの是非は?

今回、東芝では、社外取締役をモノ言う株主から受け入れることの是非が問題となりました。

社外取締役は、過去10年の間に、その会社で取締役をやっていない人など、社外の人が就任するポストで、経営の透明性を高めることで企業価値を向上させようと導入されました。

去年からは、「取締役の3分の1」を社外取締役にすることが求められるようになるなど、会社の意思決定で果たす役割は大きくなっています。

東芝も例外ではなく、東芝が取り入れている「指名委員会等設置会社」では、幹部の人事、報酬、業務の監査といった会社の主要な役割は、社外取締役が過半数以上を占める委員会で決定され、社長の解任もできます。

企業統治に詳しい早稲田大学商学学術院の宮島英昭 教授は、モノ言う株主が多くの株式を保有している以上、今回のような人選は避けられなかったのではないかと指摘しています。
早稲田大学商学学術院 宮島英昭 教授
「アクティビストから資金を受け入れた以上、この結果はある程度織り込まれていた。会社法で定められているとおり、上場会社は、株主多数決主義に立っているのだから、株式を保有していれば役員を派遣したくなるのは避けられないと思う」
一方、アクティビスト対応の第一人者として知られる太田洋弁護士は、東芝に限られない一般論だとしたうえで、“モノ言う株主”が経営の意思決定に関わることで、ほかの株主の利益が損なわれるおそれがあると指摘しています。
太田洋弁護士
「多くの機関投資家は本来、中長期的な成長の方が望ましいと思っているはず。一方で、”モノ言う株主”は、短期的な視点で利益を求める傾向が強い。全体に占める割合は少ない“モノ言う株主”の視点で会社の行く末が決まることが、ほかの株主にとっても利益になるのか問題がある」
そのうえで、会社には株主と重要な情報の取り扱いや、ほかの株主と不平等にならないよう厳重な契約を結ぶことが必要だと指摘します。
太田洋弁護士
「“モノ言う株主”側がほかの株主より情報を得られてしまう状態をできるだけ防ぐということと、あとは一般の株主とアクティビストは利益が一致しないところがあるので、それを防ぐような手当てが必要だ。(“モノ言う株主”から取締役を受け入れることが)株主全体の利益にかなうものなのかを取締役会全体できちんと議論すべきだと思う」
東芝と同じ指名委員会等設置会社で、創業家出身のトップとプロ経営者の間でCEO人事をめぐる対立が起きた「LIXIL」では、社外取締役が有効に機能しなかった反省をいかし、昨年度から社外取締役に対しても外部の機関による面談を行って評価する、新たな取り組みを始めています。

社外取締役に、どのように向き合い経営に生かしていくか、各社の間で模索が続いています。

外部から戦略募集 東芝の今後は

社外取締役の選任をめぐって混乱が生じた東芝。

いま、非上場化を含めた企業価値向上につながる戦略を、外部から募集するという異例の手続きが進められています。

これまでに、会社を非上場化することを前提とした戦略が8件、上場を維持したまま資本業務提携をする内容が2件寄せられていて、会社側で提案内容の絞り込みが行われています。

時価総額が2兆円を超える東芝の株式を非公開化するには巨額の資金が必要で、どの投資ファンドも単独で実行することは難しいとみられ、提案をした投資ファンド間の動きも活発になっています。

上場維持のためにすがった“モノ言う株主”によって非上場が求められるというのは、何とも皮肉な話だと感じます。

新しく選ばれた社外取締役が、一致点を見つけだし、新しい東芝の姿を作っていけるのか。

先行きは依然として不透明な情勢です。
経済部記者
嶋井 健太
平成24年入局
宮崎局、盛岡局を経て現所属