米 イエレン財務長官 就任後初の日本訪問 鈴木財務相と会談へ

アメリカのイエレン財務長官は、就任後初めて日本を訪れて12日、鈴木財務大臣と会談し、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの制裁などについて意見を交わします。
円安ドル高が進む外国為替市場の動向についてどのような議論が行われるかも注目されます。

イエレン財務長官は、今月15日からインドネシアで開かれるG20=主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議に出席するのを前に、去年の就任以来、初めて日本を訪れ、12日鈴木財務大臣と会談する予定です。

会談では、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が長期化する中でロシアに対する制裁の強化について意見を交わすものとみられます。

ロシアへの制裁をめぐっては、先月下旬にドイツで会談した岸田総理大臣とアメリカのバイデン大統領との間で、G7で連携し、ロシア産の石油の取引価格に上限を設ける方針で一致しています。

12日の日米財務相会談では、こうしたロシアへの圧力強化の具体策も議題になる見通しです。

また、このところ外国為替市場で円安が進んでいることを踏まえ、日本としては通貨当局間で緊密な意思疎通を図っていくことを改めて確認したい考えで、為替の問題についてどのような意見が交わされるのか注目されます。

対ロシア制裁強化でエネルギー調達に課題も

日米の財務相会談では、ロシアに対する制裁の強化について議論が交わされる見通しです。

ロシアへの制裁については、先月ドイツで行われたG7サミット=主要7か国首脳会議の際に行われた岸田総理大臣とアメリカのバイデン大統領の会談でも議題になりました。

この中では、ロシアが石油輸出で得た利益を戦費にまわすのを防ぐため、G7で連携して、ロシア産の石油の取引価格に上限を設ける方針で一致しました。

これについて日米両国は今後、事務レベルで協議することにしていますが、12日の鈴木財務大臣とイエレン財務長官との会談では、制裁強化の具体的な対応について意見が交わされるものとみられます。

このように日本がG7各国と足並みをそろえて制裁強化に動く中、突如、ロシアのプーチン大統領が先月30日、日本企業も参加するLNG=液化天然ガスや石油の開発プロジェクト「サハリン2」の事業主体をロシアの新会社に変更するよう命じる大統領令に署名。

これによって、日本にとっては発電用の燃料となるLNGの確保に影響がでることも懸念されています。

政府は、「サハリン2」のプロジェクトは、日本の電力やガスの安定供給に不可欠だとしてこれまで撤退しない方針を示していますが、ほかの調達先の確保に向けてLNGの生産国に働きかけていくことにしています。

萩生田経済産業大臣は13日、オーストラリアで、日米豪印4か国の枠組みクアッドのエネルギー相会合に出席し、アメリカやオーストラリアにLNGの供給を働きかけたい考えです。

G7各国と連携し、ロシアへの圧力を強めながら、いかにエネルギーを安定的に調達していくのか日本は難しい対応を迫られています。

外国為替市場の動向 議論も焦点に

鈴木財務大臣とイエレン財務長官との会談では、外国為替市場の動向についてどのような議論が行われるのかも焦点になります。

外国為替市場では、11日の東京市場で円が1ドル=137円台前半まで値下がりし、およそ24年ぶりの円安水準となっています。

アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会が金融引き締めを加速する一方、日銀は金融緩和を続ける姿勢を示していることが背景にあります。

最近の円安が日本経済に及ぼす影響について、鈴木財務大臣は「マイナスな面が出ている」という認識を示していて、今回の会談で日本としては、為替の急激な変動は望ましくないという考え方を確認し、日米の通貨当局の間で緊密に意思疎通を図っていく姿勢を示したい考えです。

一方、アメリカにとっては、円安ドル高が進むと自国の輸出企業の業績に悪影響が及びかねませんが、むしろ、今懸念しているのは記録的なインフレ。

アメリカでは、ことし5月の消費者物価の上昇率がおよそ40年半ぶりの高い水準となり、インフレをいかに抑え込むかが優先的な課題となっています。

FRBは先月の会合で0.75%の大幅な利上げに踏み切り、パウエル議長は、利上げを背景としたドル高が輸入物価の押し下げを通じてインフレを抑えるという認識を示しています。

このように日米の為替に対する見方が異なる中で、12日の会談で為替市場についてどのような議論が行われるかも焦点の1つとなっています。

元財務官 中尾氏「日本側は円安の悪影響 米に伝えていくと思う」

日米財務相会談の見通しについて、元財務官でアジア開発銀行の総裁も務めたみずほリサーチ&テクノロジーズの中尾武彦理事長は「日本経済で懸念されているのは、エネルギー価格や食料価格が世界的に上がっている中で、円安の問題がさらに上乗せされていることだ。日銀も『今のような形での急速な円安は悪影響をもたらす』と言っている。日本側としては、円安が国民生活や日本経済全体に悪影響があることをきちんと伝えていくと思う」と述べています。