国連安保理 シリア 支援ルートめぐる決議案 ロシア拒否で否決

国連の安全保障理事会では、内戦が続くシリアに陸路で人道支援物資を運び込む「支援ルート」をめぐる決議案が採決にかけられましたが、ロシアと欧米の対立で否決され、人道支援ができなくなる懸念が高まっています。

10年以上、混乱と内戦が続くシリアの北西部では、アサド政権の攻撃から逃れた市民が避難民キャンプなどで生活していて、人道支援のため国連安保理は決議で、隣国のトルコから陸路で食料や医薬品などを運び込む「支援ルート」を定めています。

しかし、アサド政権の後ろ盾のロシアは、人道支援はこのルートではなく、アサド政権を通じて行われるべきだと主張してきました。

支援ルートを定めた決議の期限が迫る中、安保理では8日、期限を1年間延長するとした決議案が採決にかけられ、13か国が賛成したものの、中国が棄権し、ロシアが拒否権を行使して否決されました。

さらにロシアは、延長を6か月に限る決議案を提出し、ロシアと中国が賛成したのに対し、アメリカ、イギリス、フランスが反対したほか、残る10か国が棄権して否決されました。

ウクライナ情勢をめぐりロシアと欧米の対立が深まる中、安保理の分断が改めて浮き彫りになった形で、双方は協議を続けるとしていますが、支援ルートの期限は今月10日で切れることから、支援ができなくなる懸念が高まっています。

シリア国内の避難民から落胆や怒りの声

シリアの国内避難民からは落胆や怒りの声が聞かれました。

このうち北西部イドリブで暮らすムスタファ・シャアバンさん(50)は、「ついに来るところまで来てしまった。彼らは食料を送らずに私たちを飢え死にさせようとしている。ロシアとアサド政権は空爆でシリア人を殺したり、ふるさとから追い払ったりするだけでは飽き足らないのか」などと話していました。

シャアバンさんは7年前、シリア北部の町バーブでアサド政権を支援するロシア軍の空爆を受け、長男が死亡し、シャアバンさん自身も頭の骨を折る大けがをしたほか、当時7歳の次男は右足を失いました。

現在は次男とともにまきを売る仕事をしていますが、一日の収入は2人合わせても日本円にして160円ほどで、食費や持病の治療費はまかなえず国連からの食料や医薬品の支援に頼って生活しています。

国境なき医師団「人々の命綱 患者の生命が危機的なことになる」

世界各地で医療支援を行う国際NGO「国境なき医師団」は、2012年からシリア北部で活動を開始し、現在、7つの病院、12の診療所のほか、各地にある国内避難民のキャンプで診療や予防接種などの医療支援や、水の浄化などの衛生面での支援を行っています。

そして、そうした活動に欠かすことのできない薬やワクチンなどの医療物資を焦点となっている支援ルートを利用してシリアへ運んでいます。

国境なき医師団日本の金杉詩子マネージャーはシリア国内の状況について「ことしに入ってから、ウクライナ情勢による食料危機や、燃料を含む生活必需品の値上がりが生活に打撃を与えている。医薬品の価格も高騰していて、薬を飲み続けなければいけない病気を持つ人の体調も非常に懸念される」と話し、人々の暮らしはさらに苦しくなっていると指摘します。

そのうえで「人道支援ルートは唯一、国境を越えて人道援助の物資が運び込めるルートなので、シリア北西部の人々の命綱といえる。閉ざされれば、生活に最低限必要な食料や水が激減してしまう。また、現地の多くの医療施設で物資が不足し、患者の生命が危機的なことになる」と話し、人道支援ルートの維持を訴えていました。