「インフレはサプライズ」どういうこと?【経済コラム】

「アメリカでは40年ぶりの高水準」
「トルコでは78%の急上昇」…
世界のマーケットではこのところ毎日のように記録的な物価上昇をめぐるニュースがヘッドラインを駆け巡ります。しかもその水準が市場の予測を超えて急加速するケースが相次ぎ、マーケット関係者からは「インフレ・サプライズの連続だ」という声も聞こえてきます。いったいどういうことなのでしょうか?(経済部記者 古市啓一朗)

サプライズの連続で予測が当たらない

「物価の見通しについて、われわれエコノミストの予測が当たらなくなった。このまま外し続けると仕事がなくなるかも」

自虐的にこう語るのは経済データの分析・予測にあたるあるエコノミスト。

経済環境が大きく変わるなかでも、的確に将来を予測できるかどうかがエコノミストの腕の見せどころですが、急ピッチで進む世界的なインフレに経済のプロたちも手を焼いているようです。

そもそもエコノミストの予測は本当に外れているのか。

最近発表された欧米やアジアでの物価上昇率について、市場の予測中央値と実績とを比較してみました。すると、確かに実績が予測を上回るケースが相次いでいることがわかりました。

なぜ外す? 3つの理由が

なぜ予想がここまで外れるのでしょうか。複数のエコノミストに聞いてみたところ3つの理由が見えてきました。

まず、コロナ禍からの回復過程で世界経済の前提条件が大きく変わったことです。
例えばアメリカではモノやサービスの需要が拡大する一方、人手不足などで供給側がその需要を満たすことができず、価格を押し上げる力が一気に強まりました。この状況がいつまで続くのか依然、不透明です。

2つ目は、ロシアによるウクライナ侵攻の影響です。

世界的なエネルギー価格と食料価格の高騰を引き起こしました。これも先行きが全く見えない状況です。
そして最後にそもそもここまでの世界的なインフレ局面を経験したエコノミストがほとんどいないということです。

エコノミストが経済予測を行う場合、2000年以降の経済状況や市場の動きのデータをもとにした計算モデルが使われるケースが多く、これより前のデータをもとに試算することは簡単ではないそうです。

景気減速懸念強まる インフレも新局面か

プロのエコノミストの悩みの種となっている記録的なインフレ。ただ、ここにきて景気の潮目の変化を指摘する声もでています。

これまでインフレの根拠となっていた「旺盛なペントアップ需要」(コロナ禍で抑制されていた消費や需要が一気に回復すること)の減速を示唆する経済統計が、相次いで発表されているのです。

6月23日に発表されたユーロ圏の消費動向を示す6月のPMI(購買担当者景気指数)が市場の予想を大きく下回ったほか、FRBのパウエル議長が経済状況を「力強い」と自負するアメリカでも6月の消費者信頼感指数が市場の予想より低い水準にとどまりました。

7月5日にはユーロ圏経済の先行きへの厳しい見方を背景にユーロがドルに対して急落。2002年12月以来、およそ19年半ぶりの水準まで値下がりしました。

マーケットでは、欧米の景気がこの先減速、さらには後退の局面に入るのではないかという懸念が急速に強まっています。

その場合、インフレに収束の動きが出てくるのか、あるいは物価上昇は止まらず、インフレと景気後退が同時に進む「スタグフレーション」に陥るおそれもあるのか。

どちらのシナリオでも経済条件の不確実性が増し、当面「インフレ・サプライズ」がなくなることはなさそうです。

注目予定

注目は、13日発表のアメリカの消費者物価指数です。アメリカのインフレの状況を表す経済統計ですが、これまでは市場の予想を上回って前月比で急上昇が続いてきました。

今回もさらなる物価上昇を予想する市場関係者が多いですが、仮に上昇にブレーキがかかった場合は景気の減速が一段と意識され、リスクを避けようという動きが強まるかもしれません。

このほか、中国の4月から6月のGDPが発表され、市場では大きな落ち込みも予想されています。一時の厳しい外出制限の影響がどの程度現れるかが焦点です。