しあわせニュース 僕たちの I LOVE...

「この一年で思いもよらなかったうれしいことがいくつも起こりました」

NHK大阪放送局に寄せられた1通のメッセージ。
送ってくれたのは若い人たちで作るバンドです。

独りじゃ何ひとつ気付けなかっただろう

仲間と一緒に練習したヒゲダンのI LOVE...
彼らの初めてのライブに密着しました。

(大阪放送局ディレクター 藤本将太)

楽譜は読めなくても…

私たちにメッセージをくれたのは、J・Yバンド。
活動拠点の京都の城陽市の頭文字から名付けられました。
メンバーは10代から20代の男女8人です。
リーダーは澤仙太郎(19)さん。
仙太郎さんは弱視と知的障害があり、楽譜を読み取ることはできません。

しかし、ピアノの前ではハンデを感じさせません。
流ちょうに両手の指を動かし、正確に音を奏でます。
ピアノを始めたのは11歳のとき。盲学校にあったピアノの音色にひかれ、音を耳で覚えながら練習を重ねてきました。大好きな曲はJポップ。

特別支援学校時代には先生とバンドを組んで演奏を披露してきました。

しかし、音楽を一緒に楽しむ同世代の仲間がおらず、もの足りなさを感じていました。
仙太郎さんは学校を卒業し、今は福祉作業所で働いています。

もう一度バンドを組みたい

もう一度バンドを組んで、演奏を披露したい。
仙太郎さんは、通っている音楽教室に相談しました。

口コミは広がり、自分も参加したいという人たちが一人またひとりメンバーに加わりました。

視覚障害や知的障害がある人たちが月に2回集まり、ギターやドラム、ピアノなどを練習し始めました。
音楽教室 森川由美子代表
「休みの日に集まって若い人どうしドラムをたたいたりギターを弾いたりすることは楽しくてしかたがない。同年代の若い人が集まるってこういうことなんだなって思う」

リーダーを務めることになった仙太郎さん。
大切にしているのは「ひとりひとりが音楽を楽しむこと」です。

音楽経験が浅いメンバーも楽しく演奏できるよう、自分は伴奏に徹しサポートを心がけています。

仙太郎さん
「音楽のレベルは人によって違うけど、僕はとにかく一緒にメンバーと音楽ができたらいいなって思っています。僕が一番楽しんじゃっていますね」

人差し指のキラキラ星

J・Yバンドでは、演奏曲を決めたり、演奏の仕方を教え合うのも自分たちです。

Official髭男dismの『I LOVE...』
モンゴル800の『小さな恋のうた』

仲間と一緒に演奏できる喜びを感じながら、一曲一曲、仕上げていきます。
仙太郎さんが教えていたのは、脳や体に障害がある16歳の樹(いつき)さん。みんなから「いっちゃん」と呼ばれています。

盲学校以外の友達や人とのつながりをもってほしいと母親のすすめでサークルに入りました。

手先の細かい動きが苦手ないっちゃん。仙太郎さんたちと一緒に打楽器などを練習するうちに、少しずつ上達していきました。

いま、いっちゃんが挑戦しているのはピアノ。両手の人差し指を使い、大好きな『キラキラ星』を弾けるようになりました。

いっちゃん
「疲れたな、演奏は楽しい」

仙太郎さん
「いっちゃんのピアノはピン、ピンだけやけど、それがいい感じ」

きらきらと光る星をイメージして鍵盤をたたく音色に、仙太郎さんが優しくあわせます。

初めてのドラム 空も飛べるはず

バンドに入ってから自分の気持ちを伝えられるようになったメンバーもいます。

生まれつき目が見えない康貴さん(16)。
もともと内気な性格で人と話すことが苦手でした。

これまでピアノを続けてきましたが、バンドに入り新たに挑戦し始めたのが、仙太郎さんから教えてもらったドラムでした。
「ドラムがほしい」

両親に自分の意思を伝えたのは初めてだったといいます。

康貴さんの母親
「本人が表現してくれたから分かるのでしゃべれるんですけどしゃべらないので、バンドに入って世界が広がったと思います。いろんなことに出会える環境ができた。そこに自分の居場所がちゃんとある。これがひとつの表現になっていいきっかけになったのかなと思っています」

康貴さんにドラムの魅力を尋ねると…

康貴さん
「みんなと音を合わせられる。目標は曲をうまく演奏すること」。

僕が見つめる景色のその先に

コンサート当日。
会場には立ち見が出るほど多くの人が集まりました。
演奏が始まると客席から自然と手拍子が起きました。

そして迎えた「I LOVE...」の演奏。
仙太郎さんはピアノで曲全体のテンポをとりながら、メンバーを引っ張っていきます。

康貴さんがドラムを叩く「小さな恋のうた」では、軽快なスティックさばきに会場が盛り上がりました。
練習の成果を出し切ったメンバーたち。
およそ1時間のコンサートで18曲を披露し、会場は大きな拍手に包まれました。

「ピアノがすばらしかった」
「みんな楽しそうに歌っているので、楽しくなりました」

康貴さんのかつての恩師の姿も会場にありました。

康貴さんの元担任
「感動しました。音楽やっているのは知っていたんですけど、ここまで上手とは知らなかったので。よくあんなに動くな」

初めてのライブにメンバーたちも手応えを感じている様子でした。
康貴さん
「緊張したけど、みんなでできて楽しかった」

仙太郎さん
「メンバーもそうやし、お客さんも楽しいと言ってもらえたのがすごくよかったです。次もみんなで楽しい音楽ができたらなって思います」

I LOVE... その続きを

音楽を一緒に楽しむことができる仲間がいる。
音楽を楽しむのに障害は関係ない。
何よりも生き生きと演奏するメンバーの表情はみな輝いていました。

2回目のコンサートは9月。
新たにメンバーも加わったということで、今度はどんな演奏を見せてくれるのか楽しみです。

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