動物の福祉で変わる動物園

動物の福祉で変わる動物園
近年、全国各地で動物園が変わってきているのをご存じでしょうか。川が流れるヒグマの展示施設や、アジアゾウを群れで飼育する施設、それに、植物が生い茂るトラの施設など。より自然環境に近づけようという展示方法が徐々に増えているのです。
こうした、飼育や展示が広まってきている基となっているのが、「動物の福祉」という考え方です。
今回は、この「動物の福祉」に迫ります。

問題に挑戦!

まずは、動物園に関する入試問題を見てみましょう。
問題
動物園にはいろいろな動物に親しんだり、癒やされたりする以外にも重要な役割があります。それは何か1つ答えなさい。
(慶應義塾普通部 2018年)
解答例は、「希少動物の保護・繁殖」「生態や環境についての教育」「種の保存のための研究」などです。

かつてはレジャー施設としての側面が強かった動物園ですが、近年は、解答例にある、希少動物の保護・繁殖などの役割がより重視されるようになっています。

「動物の福祉」とは?その目的は?

全国の140の動物園や水族館が加盟する日本動物園水族館協会の元専務理事、成島悦雄さんに話を聞きました。
成島さんは在職中、「動物の福祉」に基づく取り組みに携わってきたといいます。
成島さん
「動物の福祉とは、科学的な証拠に基づいて、動物が幸せに感じるような環境を作ってあげようと、動物主体に考えること」
日本動物園水族館協会は、「動物の福祉」に沿って飼育のガイドラインをまとめています。
群れで飼うべきか、単独で飼うべきかといった飼育方法をはじめ、施設の広さや構造、それに適当な温度・湿度などが動物の種類ごとに詳細に記されています。
協会に加盟する動物園は、動物を飼育するにあたり、このガイドラインを参考にします。
成島さん
「動物が自然界で行う行動を、動物園でも同じようにできる環境を整える。そうすることで繁殖もうまくいくだろうし、訪れた人たちも、野生の姿を見ることで、動物に対し尊敬の念が生まれるのではないか」

動物がイキイキ!

札幌市の円山動物園では、「動物の福祉」に基づき、施設の改修を進めています。
その1つ、アジアゾウの展示施設は総工費およそ30億円をかけて建設されました。
広さは、屋内と屋外あわせて5200平方メートルと国内最大級で、4頭が飼育されています。
冬場にも水浴びできる室内プールが設けられていたり、床に砂が敷き詰められていたりするなど、ゾウが快適に過ごせるようにさまざまな工夫が凝らされていて、ゾウたちは、気持ちよさそうに砂の上に横たわって眠ることもあるそうです。

きっかけとなった事故

動物にとって快適な環境づくりに取り組む円山動物園ですが、かつて、“誤った飼育”によって、大切な動物が死んでしまう事故がありました。
自然界では通常、単独行動をするマレーグマ3頭を繁殖に向けた訓練として同じ施設の中に入れたのです。
その結果、1頭がかみ殺されてしまいました。
マレーグマの生態を無視した飼育が招いた悲劇でした。
円山動物園 神賢寿園長
「科学的な裏づけに基づいて、しっかりとやるべきだったが、自分たちの経験則で始めてしまい、結局それがうまくいかなかった。以来、動物の福祉、動物の幸福を考えることを第一に飼育を行っている」

“動物園条例”の制定

円山動物園を運営する札幌市も対応に乗り出しました。
動物園の役割や責任を定める「動物園条例」を2022年6月、全国の自治体では初めて制定したのです。
条例では、動物が、苦痛や不安を感じず本来の行動がとれるようにする「動物の福祉」を確保し、生物多様性の保全に貢献するなどとしています。
そして、動物の尊厳を尊重するため、ヒツジやモルモットなどと触れ合う施設を除いて餌やりなどで動物に利用者が直接、接することや、動物に、人を模したような格好や行動をさせることはしてはならないなどと定めています。
日本動物園水族館協会 元専務理事 成島悦雄さん
「動物によるショーも、動物の能力を引き出して見せるようなものであればいいのだが、不自然な動作を訓練して教え込むようなものは動物をおとしめることになる。札幌市が制定した動物園条例は動物の福祉を法的にサポートするという意味で、すばらしいと思う」

「動物の福祉」課題は

動物の福祉に基づいた取り組みは全国各地の動物園で進められています。
そうした中、成島さんは、施設の改修などを行うための予算の確保が大きな課題だと指摘します。
成島さん
「日本の動物園の7割から8割ぐらいは自治体立であり、入園料をなるべく安く抑えようとする傾向がある。しかし、外国の動物園では3000円から4000円の入場料が当たり前であること、そして、受益者負担ということを考えるともう少し高くてもいいのではないか。さらに、自治体の財政も厳しい状況にあるので、広く寄付を募れるような仕組みを作ることも必要だと思う」
動物園の中には、動物の福祉の観点から、広い施設をつくりたいとしながらも、それがかなわず、結果、動物の飼育を諦めるところも出てきているそうです。
今回の取材を通して、どうすれば、動物にも、そして私たち訪れる側の人たちにも、魅力的な動物園となるのか、みんなで考えていければと思いました。
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