音の魅力でインバウンド呼び込む “ASMR動画”とは?

音の魅力でインバウンド呼び込む “ASMR動画”とは?
カバがスイカをまるごと食べる動画。

スイカを食べる音が注目され、再生回数はなんと1億6000万回以上!

こうした音を楽しむ動画は「ASMR動画」と呼ばれSNSなどで人気を集めていて、2年ぶりに再開された外国人観光客誘致に活用しようという動きが全国で広がっています。

(映像センター 名古屋純子 社会部 佐野豊)

カバがバズった!

動画投稿サイトユーチューブで累計1億6千万回以上再生されている動画「カバのスイカまるごとタイム」。

大きな口を開けたカバがばりばりとスイカを割りながらひたすら食べる様子が臨場感あふれる音とともに流れます。
動画を作成したのは長崎県西海市にある動植物園「長崎バイオパーク」です。

8年前にこの動画の配信を始めたとき、園の担当者は音を楽しんでもらうという発想は全く無かったといいます。

しかし海外からの寄せられるコメントに「ASMR」という単語が書き込まれていることに気づき、食べ物のそしゃく音など「音」を楽しむ「ASMR動画」というジャンルがあることを知ったということです。

その後、タイトルに「ASMR」という単語を付けたりすると海外からの再生回数が急速に増加し、公開から5年たった2019年、再生回数が1億回を超えたということです。

再生回数は今も1日1万回のペースで伸びているといいます。
長崎バイオパーク 動画制作担当 神近公孝さん
再生回数がどんどん伸びてびっくりしました。言葉だと日本人にしか伝わらないですが、単純にバーンってこのスイカが壊れる音は、どの国の人でもわかりやすく明快だったことが世界中の人に受けた理由だと思います。
この動植物園では、ほかにも▼ゾウガメがキュウリを食べる音や▼カピバラがトウモロコシを食べる音など15種類以上の動物のASMR動画を制作し、配信本数は200本を超えています。

ことしの大型連休の来園者数はコロナ禍前の2015年と比べ25%増加したということで、園ではことし6月、約2年ぶりに受け入れが再開された外国人観光客の集客にもつなげたいと考えています。
長崎バイオパーク 神近さん
コロナ禍のこの2年ぐらいは国内向けの動画をメインにしましたが、これからもう一度ASMRに力を入れて、海外から多くのお客様に来ていただけるようチャレンジしていきたい。

“音”の動画 なぜ人気?

「ASMR動画」の何が人々の心をひきつけるのか。

音響心理学の専門家に話を聞きました。
京都精華大学 小松正史教授
人間は、目から入っている情報を意味として受け止める傾向が強いのですが、音は意味を通さずに直接、感情を揺さぶります。もっと見たい、感じたいという状況や没入感が生まれることで、音を通じてリアリティーを感じることができます。言語を介さないので、日本人だけでなく外国人にも直接届くことも特徴です。

絶品グルメの“音”も動画に

滋賀県にある観光団体もASMR動画に注目し、外国人観光客の誘致につなげようとしています。

料理人が近江牛を鉄板で調理する動画で、鉄板の上で肉をジュージューと焼き上げる音やナイフでカットする音が食欲をそそるものになっています。
一般社団法人・近江ツーリズムボード マーケティング担当 内記真美さん
言語に頼らないASMR動画は外国人観光客にも魅力を感じてもらえるツールだと思っています。料理人が食材をどのように調理しているのか包丁が研ぎ澄まされる音まですべて味わってほしいです。

“地域振興”に活用の動きも

その地域でしか聴くことができない「音」を観光資源として発掘することで地方の活性化につなげようというプロジェクトも始まっています。

東京・千代田区のコンテンツ制作会社は自治体や企業からの依頼を受けて、各地の魅力をPRするASMR動画を制作し、インターネットで配信しています。
水面に空が映り込むボリビアのウユニ塩湖のような絶景スポットとして近年、密かな注目を集めている新潟県佐渡島の万畳敷と呼ばれる海岸です。

静かに打ち寄せる波の音が安らぎを与えます。
こちらの動画では鋳物工房の風鈴の音を聞くことができます。

風鈴は、鋳物の製造が盛んな神奈川県小田原市の伝統工芸品です。
この会社が制作したASMR動画はこれまでに16本。

取材に訪れた日は、スタジオで岩手県にある水車とたこ焼きに注目した新作の整音作業が行われていました。

制作費はすべて会社が負担し、動画の再生回数が伸びれば会社が運営する動画アプリの利用者を増やせるメリットもあります。
EMOCALプロジェクト 住田陽一プロデューサー
観光ガイドには載っていないけど地域の人は知っている、地元の人の“推し”みたいなところは結構あると思います。映像と違って音声にはイマジネーションの領域があるところが面白い。このプロジェクトをきっかけに観光客が実際に現地を訪れて、体験してもらえればうれしいです。
今回の取材を通じて私たちがふだん意識しない身の回りの「音」の中に、人をひきつける価値が潜んでいることに気付かされました。

「ASMR動画」は日本の魅力を世界に発信し、外国人観光客を呼び込むきっかけになるのか。今後も注目していきたいと思います。