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“体育会系”が変わる?「運動部活動」と「入試」と「就活」

“大会で活躍すれば実績としてアピールができる”
”活動を通して忍耐力や根性がついた”
”礼儀や挨拶がしっかりしている”

これまで日本社会で当たり前のように言われてきた運動部のメリット。高校、大学の推薦入試や、就職活動などさまざまな場面でアピールポイントとなってきました。

その運動部活動やいわゆる“体育会系”が、今変わろうとしています。

(スポーツニュース部 松山翔平、社会部 平井千裕)

あなたにとって部活動とは?

そもそも部活動って、今の学生にとってどんな存在なのか?そんな疑問が思い浮かび、話を聞いてみることにしました。
滝谷柊太さん
大学生の滝谷柊太さん。

滝谷さんは、岩手県の公立中学校で野球部に所属し、全国大会にも出場するなど、エースピッチャーとして活躍。その成績をいかしてスポーツ推薦で希望の高校に進学しました。
中学時代の滝谷柊太さん
しかし、高校に入ると、肩の痛みで思うようにボールを投げることができなくなり、次第に大学では野球を続けられないと感じるようになったといいます。

そこで励みとなったのが、野球部の顧問の言葉でした。

「部活動で努力できた人は勉強でも上にいける」

この言葉に勇気づけられ、滝谷さんは苦手な勉強に取り組むことを決意します。

最初は点数が伸び悩んだ時期もありましたが、部活動で身につけた「課題の分析力」や「目標に向かうまでの道筋を描く段取り力」を強みに、勉強でも苦手科目を克服。そして見事、一般入試で国立の筑波大学に合格しました。

部活動の存在が、スポーツトレーナーを目指す今の進路にもつながっているといいます。
滝谷柊太さん
滝谷柊太さん
「不思議な話ですが、勉強をただやるよりは、部活動と一緒に勉強をやることによって思いがけない成果が得られ、相乗効果のようなものがありました。部活動を通して人間的に成長できたなと思います」
その言葉からは、ただやみくもに頑張るだけではない、“目指していた目標に届かなくても、また自分で新しい目標を探して生きていく”。そんな力強さがにじんでいました。

就活での体育会系の強みとは

活動そのものだけでなく、熱心に取り組むことによる相乗効果も期待できる部活動。

5月に開かれたシンポジウムで示されたある調査結果です。
運動部に所属する約2000人の学生を対象に、身についた強みを複数回答で尋ねたところ、
▽「礼儀・挨拶」が81%で最多、
次いで
▽「コミュニケーション能力」68.9%、
▽「上下関係の理解」67.7%
となりました。

その一方で、「目標設定力」や「リーダーシップ」は低調でした。
大学ラグビーの強豪、帝京大学で26年監督を務めた岩出雅之スポーツ局長はこの数字に危機感をあらわにしました。

選手の自律を尊重する指導で全国大学選手権を10回制した名将は、学生も指導者も意識を変えなければいけないと力を込めました。
帝京大学 岩出雅之スポーツ局長
帝京大学 岩出雅之スポーツ局長
「これまでの体育会系の『受け身の体質』から『能動的な体質』にならないと世の中に受け入れられない。われわれは汗と根性で育ったが今はそうではない。世の中に送り出して役に立つ能力を高めるようとする指導者が多くならないといけない」

求められる“体育会系”は変わった

“体育会系は変わらないといけない”

その意味とは何なのでしょうか。
マイナビ 木村雅人 アスリートキャリア事業室長
大手就職情報サイト「マイナビ」の木村雅人アスリートキャリア事業室長は、採用する企業側が求める学生の資質は時代によって変わってきていると分析しています。
マイナビ 木村雅人さん
「大量生産で規律を重んじる時代は、言われたことをしっかりやる“体育会系”人材が求められていた。しかしバブル崩壊、リーマンショックを経て、今までにないサービスや価値をみずから作っていける人たちを採用したいということに変わってきた。“24時間動けます”というようなアピールをしても、採用側からすると、『それはもう終わったんだよ』ということになってきている」
今社会で求められる能力は、“みずから課題を発見し、実行する力”、そして“現状を分析する力”。新型コロナの影響でリモートワークが増え、より自主性が必要になっていることもこの動きに拍車をかけているといいます。

これまでの「忍耐や根性」、「礼儀が身についた」だけではアピールポイントにはならないようです。

ただ、木村さんは現状分析や課題を発見して実行する力を養うことができる土壌は、スポーツや部活動には必ずあると指摘します。部活動やスポーツをしていたという実績だけでなく、そこで何を学び、どのような力を身につけるか、学生も指導者も問われる時代になっています。

進路に影響 負の側面も

入試や就職など進路選択に影響する資質を身につけることができるとされてきた部活動。

ただ、その負の側面も指摘されています。

部活動の成績が高校入試の合否判定の資料となる内申書に記載されることや、面接でのアピール材料になっている現状が、過熱化や本人が望まない部活動への加入につながっているというのです。

さらに行き過ぎた「勝利至上主義」や、練習の長時間化・過熱化によるケガのリスク、それに体罰や暴言といったハラスメントの温床になっているという指摘もあります。

スポーツ推薦で入学したあと、ケガなどで部活動が続けられなくなると、学校も辞めざるを得なくなるというケースも起きていました。

“入試で不利”が重荷に

実際に、部活動を重荷に感じていたという生徒に話を聞くことができました。
中学時代に剣道部に所属していたという石川県の高校生です。“入試で不利になると考え、部活動をやめられなかった”と打ち明けます。

大きな壁となったのが“内申書の評価”でした。
「部活動を続けるか悩み始めたときに、友人が先生に『内申が悪くなる』ということを言われていた。自分もやめたら進学しづらくなってしまうのかなと思いました」
結局、大好きだった習い事のバレエを辞め、部活動を3年間続けました。入試での評価を気にして、自分のやりたいことを犠牲にしてしまったというのです。

学校から地域へ移行 評価方法の改革も

こうした部活動の在り方がいま、大きな転換期を迎えています。

きっかけとなったのは少子化の中での子どもたちのスポーツ機会の確保や、教員の働き方改革のため、国が令和5年度から中学校の休日の部活動を学校から地域のスポーツクラブなどに段階的に移行していくことを決めたことです。
その中で「高校入試での評価の在り方」も変わろうとしているのです。背景には部活動が学校から地域へと活動の場所を移すことで、教員による評価が難しくなることがあります。

スポーツ庁の有識者会議が6月に公表した提言では、学校の外での活動を含めた評価の在り方を検討すべきだとしています。

そのヒントになるかもしれない動きが広島県で始まっています。
従来の内申書(左)と新しい内申書の案(右)
来年の高校入試から内申書に部活動の成績などを記載することをやめることにしました。その代わりに、生徒が自分の長所などを自由にアピールできる面談を導入します。

この動きを踏まえ、生徒みずからが伸ばしたいことを後押しする学校もあります。
東広島市 豊栄中学校
東広島市にある生徒数43人の豊栄中学校です。ことしの春から、原則強制加入だった部活動を見直し、希望制に変えました。

さらに、生徒が自分の興味や関心をスピーチする授業も実施。
「スマホなどでデジタルの絵を描いています」
「桜や椿などの写真を撮ることが好きです」と内容は実に個性豊かでした。

自分の長所や本当に取り組みたいことを自覚してもらうのがねらいだといいます。
豊栄中学校 矢原豊祥校長
東広島市 豊栄中学校 矢原豊祥校長
「必ずしも学校の部活動だけではない、チャレンジしていけるものが増えた中で、自分で選んで決定していくという機会になるのではないか」
こうした動きを受けて、部活動との向き合い方を見直した生徒もいます。

陸上部に所属している石川嵐さんは、スピーチの授業でユーチューバーになりたいと発表。今は部活動の練習に参加する日を週5日から2日に減らし、空いた時間を動画編集に使っているということです。
石川嵐さん
石川嵐さん
「今まで部活って、授業みたいに評価されるものの1つという考えがあるので、やっぱり内申書で評価されなくなったことで、気軽に自分が好きなことをのびのびとできるようになったのがうれしいです」
評価の在り方が変わることで、生徒が自由に個性を伸ばすことにつながるという可能性も秘めています。

部活動改革が問いかけるのは

スポーツ社会学の専門家は次のように指摘します。
早稲田大学スポーツ科学学術院 中澤篤史教授
早稲田大学スポーツ科学学術院 中澤篤史教授
「さまざまな個性を評価するというのがもともとの趣旨だったのが、『スポーツだけしていればいい』とか『勝てば高校行けるんでしょ』と思ってしまっている実態があり、それは是正する必要がある。部活動は、授業だけではない多様な学びを実現できる価値がある。自分で学び、実践して、試行錯誤していくことができれば、部活動は卒業後に自分の人生を1人で歩くときの大きな糧になる」
当たり前のように学校で行われていた部活動も、求められる“体育会系”人材も変わっていく今、変わらないのは活動を通じて何を身につけ、どのような成長ができたかという価値ではないでしょうか。

大切な仲間を見つけるもよし、悔しい思いを原動力にするのもよし。部活動もそれ以外の活動も、自分にしかない良さに気づける可能性を秘めていると思います。

1度きりの学生時代に何を求め、どうありたいか。そして大人がどのようにその道筋を示すことができるのか。

私たち1人1人が考えるタイミングなのかもしれません。
スポーツニュース部
松山 翔平
スポーツ新聞社の営業職から2010年に入局
大分・千葉・広島局を経て現所属
スポーツ庁やアーバンスポーツなどを担当
社会部
平井 千裕
2016年入局
宮崎局を経て現所属。文科省などで教育分野を担当。
学生時代は剣道部で部活動のつらさと楽しさを経験。

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