アメリカが景気後退?強まる警戒感【経済コラム】

金融引き締めを急ぐ欧米の中央銀行と大規模な金融緩和を維持する日銀との金融政策の方向性の違いから、外国為替市場では、今週も円が売られやすい状況が続きました。こうした中、今週、市場関係者の関心を集めたのは、日本時間22日深夜のアメリカのFRB=連邦準備制度理事会のパウエル議長の景気後退への言及でした。忍び寄るアメリカの景気後退リスクに市場関係者や金融当局者の間では警戒感が強まっています。(経済部記者 白石明大)

約24年ぶりの水準まで進行する円安

21日の早朝、外国為替市場で円相場が1ドル=136円71銭と1998年9月以来、およそ24年ぶりの円安水準となりました。

先週、アメリカのFRBが0.75%の大幅な利上げを決めたほか、スイスの中央銀行も15年ぶりとなるサプライズの利上げを決めた一方、日銀は今の大規模な金融緩和策の維持を決めました。

欧米との金融政策の方向性の違いが明確になる中、日米の金利差の拡大が意識されて、より利回りの高いドルが買われ、週明けの月曜日から一時、2円ほど円安が進みました。

FRBパウエル議長 異例の「景気後退の可能性はある」発言

こうした中、22日、市場関係者の関心を集めたのがアメリカ議会上院でのパウエル議長の証言です。

大幅利上げに踏み切ったFRBの金融政策の方向性を説明するため出席した公聴会でパウエル議長は、急速な利上げによるアメリカの景気後退の可能性について問われ、次のように述べました。

FRBパウエル議長
「利上げによる景気後退の可能性は確かにある。FRBが景気後退を招くつもりはないが、物価の安定を回復することが絶対に必要だ。われわれはソフトランディング(軟着陸)を目指すが、それは非常に困難だ」

この発言を多くの市場関係者は驚きをもって受け止めました。

市場関係者
「アメリカの大手銀行の幹部やエコノミストから、来年以降のアメリカの景気後退の可能性を指摘する声はあがっていたが、公職の、しかもFRBのパウエル議長が利上げによる景気後退の可能性に明確に言及したのは驚きだ。足元では堅調なアメリカ経済だが、急速な利上げによって、景気減速にとどまらない可能性をFRBも認識していると示したことの意味合いは大きい」

個人消費冷え込みに懸念も

実際、金利の上昇による個人消費の冷え込みも懸念されています。
政府系住宅金融機関、フレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)が発表した今月15日時点の30年固定金利は平均5.78%と、前の週から0.55ポイント上昇しました。この1年で最も低かった去年8月(2.77%)と比べると、3ポイントもの上昇です。

アメリカの消費者は住宅購入の際に合わせて家具なども買うため、住宅ローン金利の急激な上昇が、個人消費の冷え込みにつながらないか、警戒感が高まっています。

パウエル議長の議会証言を受けてアメリカの債券市場では、景気の先行きへの懸念から、債券が買われ、長期金利の指標となるアメリカ10年物国債の利回りが3.28%から、3.16%まで下落。ニューヨーク株式市場でも、ダウ平均株価、ナスダック総合指数、S&P500の主要3指数がそろって下落しました。

21日に1ドル136円71銭とおよそ24年ぶりの円安水準となった円相場も1ドル=135円台前半まで値を戻しました。

日本経済への影響は?

アメリカが景気後退局面に入った場合、日本の金融市場にどのような影響が及ぶのでしょうか。

市場関係者
「短期的には、日米の金利差はますます拡大し、円安基調がさらに強まるとみられるが、アメリカが本格的に景気後退局面に入った場合は、FRBの利上げのペースが減速したり、利上げ幅が縮小されたりすることで、逆に円高に進む可能性がある。日本経済も主な輸出先であるアメリカで個人消費が弱くなれば、製造業の国内生産などが下振れするリスクも高まり、株価にも影響が及ぶだろう」

一方、金融庁もアメリカの景気後退の可能性に警戒感を示しています。金融庁の幹部は、株価の急落で高まる金融機関の信用リスクを注視する考えを示しました。

金融庁幹部
「原材料高・物価高による中小企業の経営リスクが増すと同時に、地方銀行が有価証券運用で失敗するリスクが高まっている。好調な日米の株式市場で、金利上昇で膨らんだ外国債の含み損をカバーしていたが、アメリカの景気後退が本格化すれば、地銀などの信用リスクをより注意深く点検していく必要がある」

市場関係者の間で波紋を呼んだ今回のパウエル議長の議会証言。インフレ抑制と景気後退のリスクの両方をにらみながら、アメリカのFRBは金融政策の難しいかじ取りを迫られています。

影響は日本の金融市場や経済にも及ぶおそれがあるだけに、その動向を注意してみていく必要がありそうです。

注目予定

27日に6月の日銀の金融政策決定会合の主な意見が公表されます。欧米の中央銀行が相次いで利上げに踏み切り、円安も進む中で金融緩和の維持を決めた日銀が会合でどのような議論を行ったのか注目されます。

1日には日銀の短観=企業短期経済観測調査が公表されます。まん延防止等重点措置の解除を受けて、非製造業の景況感がどの程度改善したかや、中国・上海市のロックダウンが製造業の景況感に与える影響などが注目点です。

また、アメリカの労働需給を見る失業保険申請数や製造業PMIなども相場に影響を与えそうです。