激痛!「アニサキス症」に注意!!

激痛!「アニサキス症」に注意!!
それは、つやつやした新鮮そうなアジの刺身だった。
鮮魚店で思わず手に取り、家族で夕飯を楽しんだ。その3日後…。

私は経験のない痛みに苦しめられることになる。
原因は長さたった2、3センチの寄生虫「アニサキス」

この苦しみを皆さんには味わってほしくない。
その日、痛みにもだえ苦しみながら私は取材することを決意した。
(ラジオセンター 記者 瀬古久美子)

アニサキス症とは

サバやアジなどの魚介類に寄生しているアニサキスの幼虫。
長さは2、3センチ、体は角皮と呼ばれる丈夫な膜に覆われていて白い糸くずのようにも見える。
これが生きたままヒトの体内に入ると、胃や腸などに刺さり、激しい痛みやおう吐を引き起こす。
これが食中毒「アニサキス症」だ。

胃に刺さった場合は内視鏡で取り除く。
ちなみに私は、腸まで到達し一般的には除去が難しかっため、痛み止めを処方されただけ。

人の体内に入ったアニサキスは1週間ほどで死ぬとはいえ、みぞおちを太い針で何度も刺されているかのようで、まっすぐ立っていることもできない。

出産に次ぐ激しい痛みに3日間耐えることになった。

アニサキス症についてくわしい国立感染症研究所の杉山広客員研究員に話をきいた。
国立感染症研究所 杉山客員研究員
「激しい症状を引き起こすのは劇症型と呼ばれるものです。ただ、中には無症状の人もいるんです。アニサキスが内臓に刺さっていても気づかずに、人間ドックで偶然見つかるケースもあります。こうしたことからアニサキス症は、刺さったことの痛みだけで生ずるのではなく、アレルギー反応もあるのではないかと言われるようになっています」

アニサキス症なぜ増加

実はこのアニサキス症、近年、増加傾向にあると指摘されている。
去年1年間に厚生労働省に報告されたアニサキス症は344件、食中毒の発生件数としては1位で、カンピロバクターやノロウイルスを超える。

また、診療報酬明細書のデータをもとに国立感染症研究所で試算したところ、年間に7000人以上がアニサキス症になっていると推計されている。
なぜアニサキス症は増えているのか。
1つは、アニサキス症の存在が広く知られるようになったことだが、輸送技術の発達が深く関係しているという。

アニサキスは冷凍すると死ぬため、魚を冷凍して輸送していれば問題は起きなかった。ところが輸送技術が発達して、魚を生で輸送できるようになったことで、アニサキスも生きたまま魚とともに運ばれてしまう結果となっているのだ。
世界で起きているアニサキス症の95%が日本で起こっているとも言われていて、刺身など生食文化が根付いている日本ならではの食中毒なのだ。

では、アニサキス症を防ぐ手だてはないのか。
熊本大学がアニサキスを殺虫する世界で初めての技術を開発したときき、私は熊本に飛んだ。

アニサキスを電気で殺虫!

どうやってアニサキスを殺虫するのか。
それはなんと「電気」だった。
熊本大学 浪平隆男准教授
「『パルスパワー』と呼ばれる電気エネルギーです。1万5千ボルトの電圧を、100万分の1秒、ほんの一瞬、魚に寄生するアニサキスに打ち込みます。このパルス処理を数百回繰り返すことで、魚の中に入り込んでいるものも含めて、アニサキスを感電死させることができるんです」
実際、アニサキスを入れ込んだアジを、電極と電極の間に入れてパルス処理をしてもらった。

時間にして3分ほど。
アニサキスは刺激を与えても全く動かなかった。
続いて、私は福岡に飛んだ。
熊本大学とともに共同研究を行っている水産加工会社が、実際に試験導入を進めているのだ。
生食用のサバやアジをスーパーなどに卸しているこの企業では、魚を三枚におろした後、まずエアシャワーや流水でアニサキスを取り除く。

さらに、魚の身に紫外線LEDを当て、紫外線で光るアニサキスの特性も活かして、表面付近にいるアニサキスを取り除いてきた。

しかし、魚の身の中に潜り込んだアニサキスを取り除くことが課題だったという。
この会社は今、パルス処理をしたアジを三枚おろしにした商品を生産し、試験的に出荷をしている。

試食させてもらうと、脂がのっていて触感もぷりぷりしていておいしかった。

何よりあの激痛を再び感じずに済む、アニサキス症にはならないという安心した気持ちで食べることができた。

これまで行った実験では、全てのアニサキスを殺虫することができたそうだ。

うまみ成分や弾力などもパルス処理前のものとほとんど差はなく、安全性についても問題はないという。
ジャパンシーフーズ 井上陽一社長
「アニサキスは水産業界にとって非常に脅威です。そのリスクを何としても排除したい。この技術は我が社だけではなく、全水産業界に広めておいしい刺身を食べられる社会を実現したい」
今は1日に300キロほどしか処理ができないが、2025年には、1日に4トン処理できる大型機械の開発を目指しているという。

と言ってもまだそれは3年後。
今、アニサキス症を防ぐ手だてはあるのか。

アニサキス症 その予防法は?

改めて国立感染症研究所の杉山広客員研究員にきいた。
国立感染症研究所 杉山客員研究員
「まずは、加熱・冷凍です。
 ▽加熱は60度で1分
 ▽冷凍はマイナス20度以下24時間以上
 これでアニサキスは死にます」
加熱について言えば、焼き魚、煮魚などきちんと調理すれば大丈夫そうだ。
一方で、家庭用の冷凍庫は取扱説明書を確認してマイナス20度以下に設定できるか確認が必要だ。

生で魚を食べるときの注意点

加熱、冷凍せずに生で食べるときの注意点は。
国立感染症研究所 杉山客員研究員
▼目視で確認すること
「購入前や調理前には必ずアニサキスがいないかを確認し、見つけたら必ず取り除いてください」

▼新鮮な魚を買う(内臓を取り除く)
「アニサキスは内臓に多く寄生していて、魚が死ぬと内臓から筋肉、つまり身の部分に移動します。特に釣りをする人は、釣った直後に内臓を取り除き、クーラーボックスなどで冷やしてください。そして、内臓は生で食べないでください」

▼塩やわさび、醤油や食酢をかけても死なない
「こうした調味料を使っても、通常の量ではアニサキスは死にません。つまり漬けや酢じめにしても死なないので、注意が必要です。また、中にはよくかめばよいのではという人もいますが、運良くちぎれたとしても胃腸に刺さる可能性があります。おすすめできません」
最近では、「陸上養殖」で、地下海水などを使い、人工ふ化させた稚魚に人工的な餌を与えて育てれば、アニサキスが寄生する心配がないと言われている。

アニサキスは1年中起こる食中毒だ。
私たち日本人はこれまで魚を生でおいしくいただいてきた。
この食文化を守るために、新たな技術に期待しつつも、私たちも自分たちで気をつけて魚をおいしく味わうことが必要だ。
ラジオセンター記者
瀬古久美子
2005年入局
ラジオで取材と制作業務を担当
好きな魚はマグロとアジ
好きな食べ方は刺身