恐竜着ぐるみの動画から目が離せない!

恐竜着ぐるみの動画から目が離せない!
ティラノサウルスの展示を鑑賞するティラノサウルスたち。
われ先にとゴールを目指して走るティラノサウルスたち。

SNSで話題の動画から目が離せなくなった方も多いかもしれません。

どうしてこんなにひきつけられるのか。
少し真面目に調べてみました。

これ何?おもしろすぎる!

鳥取県を舞台にした、2つのイベントの映像。

SNSで爆発的に拡散されました。

ティラノサウルスの着ぐるみがコミカルな動きを見せます。
着ぐるみレースを主催したのは川本直樹さん(34)。

鳥取と大阪を拠点に映像制作関連の仕事をしています。

大の恐竜好きかと思いきや「強い思い入れは特段ありません」と意外な回答。

海外の動画でティラノサウルスの着ぐるみが走る動画を見つけ、「やってみたい」という衝動にかられたといいます。

こんなに集まるなんて!想定外の結果に驚き

川本さんはティラノサウルスの着ぐるみをきて、大阪の繁華街・梅田や太陽の塔、鳥取市内などに出向いて参加者を募りました。

こんなイベントに人が集まってくれるのか半信半疑でしたが、4月に行ったレースには100頭のティラノサウルスが参加しました。
(川本さん)
「ただただおもしろいことがやりたくて、開催してみると思った以上にたくさんの人が参加してくれました。恐竜たちが一斉に走っている姿をみた時に、正直ばかばかしいなって思いました」

自分に自信が持てるように

島根から参加した矢田敦子さん(32)にも話を聞きました。

矢田さんはハリウッド映画で見たティラノサウルスの迫力が頭に焼き付いているといいます。

子どもの時から憧れの思いを持つ恐竜の姿で走っていた時に今まで経験したことのない感覚があったといいます。
(矢田さん)
「高校では陸上部だったのですが、練習がつらくて走ることにネガティブな感情をもっていました。それが恐竜の着ぐるみを着て走ると景色が違いました。獲物を狩ってやるという野性の心というか、強くなった気持ちになってなんだか自分に自信がもてました」
レースに参加し、ティラノサウルスにさらに魅了された矢田さん、新たな生きる支えを得たようです。

★なぜ目が離せない?仮説1「動きの意外性」

どうして私たちはこんなにもティラノサウルスの着ぐるみ動画にひきつけられるのでしょうか。

千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)の富山健 博士は「おもしろい現象ですね」と分析してくれました。富山さんの専門分野は「感性工学」。人間の感性を科学的な手法で分析して活用するものです。

過去には家庭用ロボット掃除機の動きを分析し人がかわいいと感じる動きを分析した論文を発表しています。

その富山博士が注目したのは「動きの意外性」でした。
(富山博士)
「具体的に言うと着ぐるみが人間の動きから遅れて動く点です。例えば、体を横にする時は首から上が動いたあとに胴体が動きますよね。ところがこの着ぐるみは先に胴体が動いて、首から上はあとからついてきています。着ぐるみが予想通り動けば『こんなものか』とそれほど印象に残りませんが、意外性のある動きが『えっ?』と目を引き、『おもしろい』『かわいい』という感情につながったのではないでしょうか」
また、着ぐるみのデザインがどう猛なティラノサウルスを忠実に再現したようなものではなく、コミカルなデザインであることも関係していると指摘します。
(富山博士)
「意外性のある動きを見ると、人間の反応は『ダメだ』『似てない』というネガティブな反応と『おもしろい』『かわいい』というポジティブな反応の2つに分かれます。今回のティラノサウルスの着ぐるみは、実物とあまり似ていないと思われる点がかえってポジティブな反応を生み出すことになったと思います」
さらに新型コロナウイルスの影響で思ったように行動できない社会の雰囲気も動画が人気を呼んだ要因だと考えています。
(富山博士)
「コロナ禍ではマスク生活を強いられ、はじけることも難しい社会になっています。そうした中でティラノサウルスの着ぐるみが走る様子に、ためていたフラストレーションを代わりに発散してもらったと感じた人も多かったのではないかと思います。工学的な動きのおもしろさをそうした社会の状況が増幅させて、こうした現象を生み出しているのではないでしょうか」

★なぜ目が離せない?仮説2「ベビースキーマ」

SNS上では、ティラノサウルスの動画に「かわいい」というコメントも相当数ありました。

そこで「かわいい」を科学的に研究している大阪大学大学院人間科学研究科の入戸野宏 教授にも疑問をぶつけました。

すると、あの着ぐるみには人に「かわいい」と感じさせる特徴が。
(入戸野教授)
「ティラノサウルスの着ぐるみは手足が短くてぎこちない動きになってしまいます。これはかわいさを感じさせる『ベビースキーマ』の特徴が含まれていることになるので、『かわいい』と感じる人が多くなったのも不思議ではありません」
ベビースキーマとは、全体的に丸みをおびた体型や目が大きくて丸く顔のなかの低い位置にあることそれに手足が短いことなどが要素になります。

人間の赤ちゃんやペットに対して「かわいい」という気持ちを抱くことが多いのもこれらの要素が関係しているそうです。
(入戸野教授)
「かわいいものは自分に危害を加えないからかわいいと感じるんですよね。リアルなティラノサウルスだったら怖いですけど、ぎこちない動きで自分を襲ってくる訳ではないということがわかるから、かわいいと感じられるんでしょう。この動画には『人を傷つけない』ということも感じられるのも、拡散された理由の1つではないでしょうか」

★なぜ目が離せない?仮説3「たくさんいる」

加えて入戸野教授は着ぐるみがたくさん集まっていることもかわいさを感じさせるポイントになると話してくれました。
(入戸野教授)
「あの着ぐるみがたくさんいることで、かわいさを感じる知覚にどういう影響を与えるのか興味深いです。着ぐるみが1つだけだったらおそらくあまりおもしろくなくて、たくさんいるというところがかわいかったり、おもしろかったりするのではないかと思います」

ティラノサウルスをたどると相撲レスラーに!?

いくつもの要因が、私たちをひきつけるようです。これは何も日本に限ったことではありません。

YouTubeでは、恐竜の着ぐるみを着た動画が世界中から投稿され、競馬場を使った本格的なレースやスポーツイベントの余興でダンスをする姿には思わずクスッとしてしまいます。
さらに、各国のティラノサウルスの着ぐるみ事情も今回、取材してみると驚くべき情報がありました。
7年前からティラノサウルスの着ぐるみの販売を始めたニューヨークにあるイベント向けコスチュームのデザインや制作、販売を行う会社は地元メディアの取材に対し、
「空気で膨らむ相撲レスラーの着ぐるみを見て恐竜にも応用することをひらめいた」
と答えていたのです。
こんなところで日本の伝統文化・相撲が関係しているとは…

みんな恐竜大好き!

恐竜の着ぐるみが世界中で人気だとわかったところで、恐竜をテーマにした展示会やイベントが日本でどれだけあるのか調べてみました。

するとこの夏、10か所以上の博物館などで予定されていました。

動画で紹介した着ぐるみのイベントを行った鳥取県立博物館も「ティラノサウルス展」を今月18日から開催中。すでに1日の入場者数が記録を取り始めた2000年以降で最多になった日があったということです。

恐竜は子どもから大人まで幅広い世代に人気ですが、全国でイベントを企画している会社などによると、子どもは強くて大きくてかっこいいものが好き。大人は学術的に少しずつ事実が解明されていることが夢中になる理由だとしています。

そして従来からある全身骨格標本や化石の展示を中心にしたイベントに加え、このところ人気が高まっているのは、ロボットや本物そっくりにできた着ぐるみによるショーです。

座席の料金が1人1万円を超えるものもありますが、本物の恐竜が襲いかかってくるような臨場感のある動きに入場者の満足度は高いということです。

こんな時代だからこそ

着ぐるみレースの川本さんに改めて催しを開催したきっかけを聞くと、こんなエピソードを教えてくれました。
(川本さん)
「知り合いから『弟の修学旅行がコロナで中止になり、代わりに陶芸体験だけになった』と聞きました。今もウクライナ情勢など、深刻なニュースが多い世の中ですが、そんな中でばかばかしくてほっとする話題が求められているのかもしれません。決して意味があるとは思いませんが一度、恐竜になってみたらどうですか」
…ということで、私(今井)がティラノサウルスの着ぐるみを着てみました。
恐竜になった気分を味わい大満足。

同僚の温かい視線をうけ、さらにおもしろい動きをしてみたくなりました。

今度はあの動画のように青空の下、芝生の上をこけてもいいので、友人たちと一緒に思い切り走ってみたいです。
ネットワーク報道部 今井桃代・廣岡千宇・野田麻里子・藤島新也 おはよう日本 佐藤恵梨香