国際

核兵器禁止条約 初の締約国会議 核の脅威高まり 危機感示す

オーストリアで始まった核兵器禁止条約の初めての締約国会議では、初日、多くの締約国がロシアによるウクライナへの軍事侵攻で核の脅威が高まっていることに強い危機感を示し、核兵器廃絶を目指す条約の意義を強調しました。2日目は、オブザーバーとして出席しているNATO=北大西洋条約機構の加盟国なども演説する予定で、発言が注目されます。
核兵器の所有や使用などを禁じる核兵器禁止条約の初めての締約国会議は、日本時間の21日午後からオーストリアの首都ウィーンで始まりました。

冒頭、議長を務めるオーストリア外務省のクメント局長は「核をめぐるあらゆる議論が間違った方向に進んでいる」と述べ、核兵器が使われる脅威や各国で核抑止の議論が高まっていることへの警戒感を示しました。

続いて締約国の演説が行われ、このうちニュージーランドの代表は「核兵器を使用するというプーチン大統領の脅しは、われわれを再び核の大惨事の瀬戸際に追いやっている」と述べるなど、ほとんどの国がロシアによるウクライナへの軍事侵攻で核の脅威が高まっている現状に危機感を示し、核兵器廃絶を目指す条約の意義を強調しました。

また、クメント議長によりますと条約に参加していない33か国がオブザーバーとして会議への出席を表明し、日本時間の22日午後からの2日目の会合で、NATOの主要国であるドイツやオランダなどが演説する予定です。

そのほか2日目は、長崎から出席している被爆者が証言を行うほか、▽将来、条約に核保有国を参加させていく手続きや、▽核兵器や核実験の被害者への支援などについても議論される予定です。

クメント議長「核兵器禁止を議論すべき」

核兵器禁止条約の締約国会議で議長を務めているオーストリア外務省のクメント軍縮軍備管理局長は、会議を前にNHKのインタビューに応じました。

クメント議長はおよそ20年にわたってオーストリア外務省で軍縮問題に取り組み、2014年には核兵器の非人道性に焦点を当てた国際会議でも議長を務めるなどして、核兵器禁止条約の実現に向けて中心的な役割を果たしてきました。

クメント議長は、新型コロナの感染拡大で会議が繰り返し延期されながらも開催できたことについて「条約の発効後、締約国が初めて一堂に会する機会で、条約にとって新たなフェーズだ」と述べ、歓迎しました。

また、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて核兵器が実際に使われる懸念が広がっている現状について「核兵器がもたらす人道的な影響、核兵器の保有による極めて深刻なリスクを世界が理解すれば、核抑止という考えはただの幻想だということがわかるだろう。今こそ、核兵器の禁止を議論すべきだ」と述べ、改めて条約の意義を強調しました。

一方、核兵器禁止条約の成立に貢献し2017年にノーベル平和賞を受賞した国際NGO、ICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンは、締約国会議の前日の20日、世界各国の議員を招いて集会を開きました。

集会には10か国余りから国政に関わる議員が参加し、中には条約に参加していない日本やNATO=北大西洋条約機構に加盟するドイツやベルギーの議員の姿もありました。

このうちドイツの与党議員は「ほかの国の議員たちと議論し、情報を共有できるのはとても大切なことだ」と話し、ベルギーの与党議員も「NATO加盟国であるベルギーは、核兵器禁止条約に参加してはならないという強い圧力を受けています。いつになるか分からないし、難しいかもしれないけれど、いつの日か条約に署名・批准できる日が来ることを願っています」と話していました。

ICANのフィン事務局長は「一番の課題は、核の脅威に対する激しい怒りや人々が核に対して抱いている不安を政治的な力に変えていくことだ。各国政府が『核兵器を持つことで問題を解決する』という論調を許してはいけない」と述べ、核の使用が現実味を帯びる今こそ、核とどう向き合うべきなのか、市民レベルでの議論も加速させる必要があると指摘しました。

広島市長「条約を実効性あるものに」

去年1月に発効した核兵器禁止条約の初めての締約国会議が、21日にオーストリアの首都ウィーンで始まり、条約を批准している65の国や地域のほか、条約に参加していないNATO加盟国のドイツやベルギーなどがオブザーバーとして出席しています。

初日の21日は被爆地の広島市の松井市長と長崎市の田上市長が演説しました。

このうち、広島市の松井市長は「被爆者の『こんな思いを誰にもさせてはならない』という切実な思いは、今、痛ましい戦争で被害を受けている人々に対しても共通するものだ。その思いに応えるには険しい道のりではあるが核軍縮の進展とその先にある核兵器廃絶しかない」などと述べました。

そのうえで、核兵器禁止条約を実効性のあるものにするために、条約の批准国を増やし、核保有国に核兵器の非人道性と核兵器管理の不確実性に対する認識を深めさせることが急務だと訴えました。

演説のあと松井市長は会議に参加していない日本政府について「日本と似たような状況にありオブザーバーとして参加している国々の考え方を確認し、日本が参加できる環境を整えていきたい」と話しました。

長崎市長「長崎を最後の被爆地に」

長崎市の田上市長は、ロシアによる核兵器の使用が懸念されているウクライナ情勢を念頭に「『核兵器使用の危機』にさらされている今だからこそこの核兵器禁止条約の意義が非常に大きくなっていると感じている。危機を実感している今、核兵器使用や核兵器による威嚇を防ぐことは条約に賛成していない国も共有できる行動原則だ」と述べ国際社会は今こそ核兵器廃絶に向けた機運を盛り上げていくべきだと訴えました。

そのうえで「心の奥底に閉じ込めておきたい記憶をこじ開け、語り続けた被爆者の声を思い起こし、勇気に変えて下さい。条約の原点である被爆者の体験を私たちが共有することはできないが、被爆者の思いは共有することができる。第3の戦争被爆地を生み出す危機が高まっている今こそ、被爆者が訴えてきた『長崎を最後の被爆地に』を合い言葉に、力を合わせて『核兵器を絶対に使わせない』という共感の連鎖を世界中に広げていこう」と訴えました。

田上市長のスピーチが終わると各国の代表からは拍手が送られていました。

また田上市長はスピーチした後、報道陣から日本政府がオブザーバー参加しなかったことについて問われると「日本政府が今回参加しなかったことは残念に思っている。締約国会議は定期的に開かれていくのでぜひ、オブザーバー参加から検討してほしい」と述べました。

現地で被爆者が訴え「核と人類は共存できない」

会場では会議と並行して核兵器の廃絶を目指す国内外の自治体でつくる「平和首長会議」やNGOがイベントを開き、広島と長崎の被爆者が被爆の実態を訴えました。

この中で、広島で被爆した家島昌志さん(80)は、一瞬のうちに母親の体じゅうに爆風で飛び散った窓ガラスの破片が突き刺さったことなどを説明し、「核兵器をうち合えば即、人類破滅へとつながる。核と人類は共存できない」などと訴えました。

また、祖母が長崎で被爆した大学3年生の中村涼香さんは「この条約が核兵器を禁止するだけでなく、人間の尊厳を守るため人道的な精神が世界で共有されるための力になると強く信じています」などと訴えました。

イベントにクロアチアから参加した女性は「被爆者の話を聞きとても悲しくなったが聞くことができてよかった。自分の国でも戦争が起きたので戦争も核兵器もなくなってほしい」と話していました。

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