核兵器禁止条約 初の締約国会議始まる 被爆者も証言へ

核兵器の開発や使用を禁止する核兵器禁止条約の初めての締約国会議が、日本時間の先ほどからオーストリアで始まりました。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって核への脅威が高まる中、核軍縮に向けた国際的な機運を高めることができるかどうかが、焦点となっていて、初日は被爆者による証言が行われます。

去年1月に発効した核兵器禁止条約の今後の運用を話し合う初めての締約国会議は、21日午前、日本時間の21日午後5時すぎから、オーストリアの首都ウィーンで始まりました。

初日の会議では冒頭、国連のグテーレス事務総長がビデオメッセージを寄せ、「いま広島と長崎の恐ろしい教訓は記憶から失われつつある」と核の脅威が高まっていることに危機感を示したうえで、「連帯を通してのみわれわれはより平和な世界を築くことができる。核兵器がわれわれを滅ぼす前にわれわれが核兵器を廃絶しよう」と呼びかけました。

続いて、NGOや条約に参加する各国の代表が演説を行っていて、このあと被爆者も証言して条約の意義を改めて訴えることになっています。

核兵器禁止条約はあらたに3か国が批准の手続きを終え、これまでに65の国と地域が締約国となっていますが、アメリカやロシア、中国などの核保有国のほか、核の傘のもとにあるNATO=北大西洋条約機構の加盟国や日本などは参加していません。

今回の会議には、締約国に加えて、条約に参加していないNATO加盟国のドイツやベルギー、オランダなど少なくとも29か国もオブザーバーとして出席するとしていますが日本政府は出席していません。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって核兵器が使用される懸念が高まる中、3日間の会議では、核軍縮に向けた国際的な機運を高めることができるかどうかが、問われることになります。

国連 中満事務次長「核兵器使用は絶対許してはならない」

核兵器禁止条約の初めての締約国会議を前に、国連の軍縮部門のトップを務める中満泉事務次長がNHKの単独インタビューに応じました。

この中で中満事務次長は「ウクライナ情勢を受けて、核が使用されるかも知れないという脅威が明らかになり、ヨーロッパはその脅威をひしひしと感じているような環境にある。少なくとも短期的に、特にヨーロッパでは、軍事費を増加させていくこと、そしてそれに頼った形で安全保障を担保していく傾向になるのは仕方のないことかもしれない」と述べ、軍事費の増加やNATO=北大西洋条約機構の拡大が議論される難しい環境の中で核兵器禁止条約の締約国会議は開催される、という見方を示しました。

また、今回の会議について、核兵器の使用を防ぐことに焦点をあてるべきだとして「ロシアによるウクライナへの軍事侵攻があったからこそ、核兵器の使用は絶対に許してはならないという原則を、もう一度、認識することが重要だ。核兵器の人道的な影響に改めて焦点をあて、不使用の原則を死守することが大きな目標の一つだ」と述べました。

そして、日本から出席する被爆者について「核兵器が使用された場合の壊滅的な人道的な影響を、きちんと歴史的な事実として伝えられるのは被爆者の方々しかいない。『核兵器の使用があってはならない』という現実的な強いメッセージをぜひ発信していただきたい」と述べました。

そのうえで今後の世界の核軍縮の進め方について「核軍縮は禁止条約だけあれば達成できるという単純な構図ではない。核兵器の廃絶を究極的に実現していくためにはいろいろなツールが必要だ。核兵器禁止条約とNPT=核拡散防止条約、そのほかの核軍縮をめぐる枠組みの間の補完性をどう高めていくかにも、焦点をあてる」と述べました。

核保有国に核軍縮への取り組みを課しているNPTをめぐっては、ことし8月にニューヨークで7年ぶりの再検討会議が開かれる予定で「核兵器禁止条約の締約国会議で国際世論を喚起しながら、核保有国をプッシュするようなかたちで、できるだけ早く核軍縮を進められればと思う」と強調しました。

ドイツ オブザーバーとして出席のねらい

ドイツは、NATO=北大西洋条約機構の主要な加盟国で、アメリカの核の傘のもとで核の抑止力を安全保障の軸に据える一方「核兵器のない世界」の実現も掲げています。

去年12月に発足したショルツ政権は中道左派の「社会民主党」環境政策を重視し、核廃絶を掲げる「緑の党」などで構成され、前のメルケル政権の方針を転換して、核兵器禁止条約の締約国会議へのオブザーバーとしての出席を表明しました。

会議を前にドイツ外務省の報道官は「NATOの核抑止は確実でなければならない」としたうえで、核兵器の開発や使用などの禁止をめぐる議論にも耳を傾けたいと説明していました。

核軍縮問題に詳しいハンブルク大学平和研究・安全保障政策研究所のマイヤー上席研究員は「ロシアによるウクライナの軍事侵攻でドイツにとってNATOとの一体性が一層重要になっている。条約はNATOの中で論争を呼ぶテーマなだけに、加盟国の支持が得られない政策を実現するのは難しい」と述べ、ウクライナ情勢を受けドイツは難しい対応を迫られていると指摘しています。

一方で、会議に参加すれば議論の内容を他のNATO加盟国などに伝える橋渡し役を担うことができるとして「禁止条約への参加が困難な国にとっても、核兵器をめぐる議論に貢献する可能性を開く」と述べ、参加の意義を強調しました。