核兵器禁止条約 初の締約国会議開催へ 核軍縮の機運高まるか

核兵器の開発や使用を禁止した核兵器禁止条約の初めての締約国会議が、21日からオーストリアで開かれます。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって核への脅威が高まる中、3日間の会期を通じて核軍縮に向けた国際的な機運を高めることができるかどうかが焦点です。

核兵器禁止条約は去年1月に発効し、今後の運用を話し合う初めての締約国会議が、日本時間の21日夕方からオーストリアの首都ウィーンで開催されます。

会議では、各国による演説が行われるほか、核保有国を参加させていく手続きや、核兵器や核実験の被害者への支援などについて議論され、最終日に声明が発表されることになっています。

核兵器禁止条約は62の国と地域が批准し締約国となっていますが、アメリカやロシア、中国などの核保有国のほか、核の傘のもとにあるNATO=北大西洋条約機構の加盟国や日本などは参加していません。

今回の会議には、条約に参加していないNATO加盟国のドイツやベルギー、オランダなど少なくとも29か国もオブザーバーとして出席する予定ですが、日本政府は出席しない方針です。

今回の会議は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって核兵器が使用される懸念が高まる中で開かれ、3日間の会期を通じて核軍縮に向けた国際的な機運を高めることができるかどうかが問われます。

締約国会議に先立ち、20日に同じ会場で開かれた「核兵器の人道的影響に関する会議」に参加した、長崎で被爆した木戸季市さんは「核兵器禁止条約は、被爆者の願いそのものです。締約国会議の成功を心から願っています」と訴えていました。

日本「核兵器国も参加するNPTで成果目指したい」

20日に開かれた「核兵器の人道的影響に関する会議」には、日本政府から外務省の石井軍備管理軍縮課長が出席しました。

会議のあと石井課長は記者団の取材に応じ、翌日から開かれる核兵器禁止条約の締約国会議に日本がオブザーバーとして出席しない理由を問われると「核兵器禁止条約は核兵器がない世界を目指す非常に重要な会議だと認識している。一方で、核兵器国の関与がないと核軍縮は進まない。今回の締約国会議には核兵器国が参加しないため、むしろ核兵器国も参加する8月のNPT=核拡散防止条約の再検討会議で成果を目指したい」と述べました。

また、核の傘のもとにあるNATO加盟国の一部やオーストラリアなどもオブザーバーとして出席することについて問われると「ほかの国の立場については発言を控えるが、日本としては、繰り返しになるが、核兵器国の関与をどう引き出すのか、それに向けて努力していきたい」と述べました。

一方、人道的影響に関する会議が終了した直後には、会議に市民団体のメンバーとして出席していた日本の大学生が石井課長のもとに詰め寄り、日本政府に対して締約国会議にオブザーバーとして出席するよう改めて求める場面がありました。

核兵器禁止条約とは

核兵器禁止条約は、2017年に国連で採択された、核兵器の開発、製造、保有、使用を禁じる、初めての国際条約です。

条約はまた、核兵器の保有国や核の傘のもとにある国々が参加するための手続きや、核実験などによる被害者や汚染された地域への支援なども定めています。

条約は50の国と地域の批准をもって去年1月に発効し、今月19日の時点で62の国と地域が批准の手続きを終え、締約国となっています。

一方で、アメリカやロシア、中国などの核保有国や、アメリカの核の傘のもとにあるNATO=北大西洋条約機構の加盟国や日本などは、条約に参加していません。

核兵器禁止条約が成立した背景には、長年にわたり核保有国による核軍縮が一向に進まないことに対する、核兵器を持たない国々の反発がありました。

これまで核軍縮は「NPT=核拡散防止条約」のもとで、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5か国を核保有国と認め、核兵器の削減を求める一方、その他の国々には核兵器の保有や拡散を禁止してきました。

しかし、世界の核兵器のおよそ9割を保有するアメリカとロシアの軍縮交渉は停滞し、中国も核戦力を拡大、NPTから一方的に脱退を宣言した北朝鮮も核・ミサイル開発を推し進めてきました。

前回2015年のNPT再検討会議は、NPTの枠組みの中で段階的な核軍縮を主張する国々と、核兵器を法的に禁止する条約の制定を求める国々が鋭く対立したまま閉幕し、その2年後に核兵器の非保有国が中心となって核兵器禁止条約が採択されました。

締約国会議とは

核兵器禁止条約の初めての締約国会議は、締約国が集まって今後の条約の運用を話し合うものです。

条約の発効から1年後に開催される予定でしたが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響で2度延期され、6月の開催に至りました。

20日の時点で、62の国と地域が条約を批准し、関係者によりますと、さらに数か国が近く批准手続きを終えて、締約国になるということです。

会議は、締約国のほかに、条約に参加していない国もオブザーバーとして出席できることになっています。

これまでにオブザーバーとして出席する意向を示しているのは、NATO=北大西洋条約機構の加盟国のドイツ、ノルウェー、ベルギー、オランダや、NATOへの加盟を申請したフィンランドやスウェーデン、さらにブラジルやインドネシアなど、少なくとも29か国です。

一方、条約に参加していない核保有国のアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国や、アメリカの核の傘のもとにある日本などは、オブザーバーとしての出席も見送っています。

林外相 “まずはNPTの再検討会議で意義ある成果を”

林外務大臣は、21日午前の記者会見で「現実を変えるには核兵器国の協力が必要だが、この条約には1か国も参加していない。わが国は唯一の戦争被爆国として核兵器国を関与させるよう努力し、現実的な取り組みを進めていく考えで、今般の締約国会合に、政府としてオブザーバー参加はしない」と述べました。

そのうえで、核兵器国も参加するNPT=核拡散防止条約の維持・強化が重要だという認識を示し「まずは8月に開かれるNPTの再検討会議で意義ある成果をおさめられるよう全力を尽くす。効果的な措置を積み重ねて核兵器のない世界に一歩ずつ近づいていきたい」と述べました。

フィンランド「共通点を模索することが重要」

フィンランドは、ロシアによる軍事侵攻を受けて、これまで軍事的に中立の立場をとっていた政策を大きく転換し、NATO=北大西洋条約機構への加盟を申請し、アメリカの核の傘のもとに入ることも目指しています。

フィンランドの軍備管理や軍縮を担当するヤルモ・ヴィーナネン大使は20日、核兵器禁止条約の締約国会議が開かれるオーストリア・ウィーンでNHKの取材に応じ「核大国ロシアが平和を望む隣国を軍事侵攻したことで、ヨーロッパの国々は安全保障を抜本的に強化することを求められている」と述べ、強い危機感を示しました。

そのうえで、フィンランドが核兵器禁止条約にオブザーバーとして参加することについて「お互いの意見を聞いたり理解したりすることで共通点を模索することが、核兵器のない世界を実現するためには重要だ」と説明しました。

その一方で、核兵器禁止条約について「核廃絶への道筋を示しておらず、現状では批准する考えはない」と述べるとともに「核廃絶を目指すためには、アメリカやロシアなど核保有国を交渉に参加させることが唯一の方法だ」と指摘し、今回の会議では、核兵器を持たない国と核保有国との対話に向けた具体的な道筋を示し、核軍縮につなげていく必要があるという考えを示しました。

ウクライナ情勢受け“核兵器使用リスク高まる”

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、世界の軍事情勢を分析する研究機関や専門家は、核兵器が使用されるリスクが高まり、各国が軍事戦略の中で核兵器の役割を重視する傾向にあると分析しています。

世界の軍事情勢を分析するスウェーデンのストックホルム国際平和研究所が今月13日に発表した年次報告書によりますと、各国が保有する核弾頭の総数はことし1月時点で1万2705発と推計され、去年から375発減少しました。

一方で報告書は、核保有国が核兵器の近代化や増強を進め、軍事戦略における核兵器の役割をより重視する傾向があると指摘、とりわけロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて「核兵器が使われるリスクが冷戦以降で最も高まっている」として、これまで減少傾向が続いてきた世界の核弾頭の総数が今後10年間で増加に転じる可能性があると指摘しています。

また、ロシアによる軍事侵攻を受けて、これまで軍事的に中立の立場をとっていた北欧のフィンランドとスウェーデンがそろってNATO=北大西洋条約機構への加盟を申請し、アメリカの核の傘のもとに入ることも目指しています。

軍備管理や軍縮に詳しい一橋大学の秋山信将教授は、核兵器が使用されることへの警戒感が強まる中、核兵器への反発が広がる一方、抑止力としての核兵器の意義を見直す声も高まるなど、国際世論が分断されていると指摘しています。

とくに核兵器が自国の安全保障に直接関わる国とそうでない国との間で、考え方の違いが顕著になっているとしています。

被爆地 広島 大きな期待寄せる

核の脅威が高まる中開かれる、核兵器禁止条約の初めての締約国会議で、核兵器廃絶への道筋を示してほしいと、被爆地 ヒロシマは大きな期待を寄せています。

被爆者の人生は、原子爆弾によって一変しました。

命を奪われた人たちをはじめ、家族を失い、孤児になった子どもたち、病気や差別に苦しんだ人たちもいました。

生き残った人たちはつらい体験を語ることで、核兵器廃絶を訴え続けてきました。

ウクライナに軍事侵攻したロシアのプーチン大統領が核兵器の使用も辞さない構えを示したことに対し、被爆者たちは決して許してはならないと抗議の声をあげています。

締約国会議に合わせて現地を訪れる家島昌志さん(80)は、3歳のとき、広島市の自宅で被爆しました。

家島さんは「核兵器は人類の滅亡、地球の滅亡につながる、許されざる兵器で、核と人間は共存できないということを広めていかなければいけない」と話し、各国の代表などと直接やり取りをして、核兵器の非人道性を改めて主張したいと話しています。

また、広島市の松井市長は現地でスピーチする見通しで、スピーチの内容について「核兵器禁止条約の意義や、ロシアによる軍事侵攻によって人類が築きあげてきた努力を無にするようなことがあってはならないことを、指摘したい。核抑止政策が根源的に誤っていて核兵器廃絶以外に解決策は見いだせないとする、広島の心を広く理解してもらいたい」と述べています。

被爆地 長崎 “核兵器禁止条約の実現は悲願”

「長崎を最後の戦争被爆地に」。このメッセージを長年発信してきた、被爆地 長崎にとって、核兵器禁止条約の実現は悲願ともなっていて、初めての締約国会議をきっかけに核兵器廃絶に向けた機運が広がることに期待を寄せています。

長崎の被爆者で日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会の事務局長の木戸季市さんは、20日に開かれた「核兵器がもたらす人道的な影響について議論する会議」で「私たちは、核兵器をなくすこと、戦争をなくすことを求めてまいりました。この願いが核兵器禁止条約の成立につながりました。条約は被爆者の願いそのものです。締約国会議の成功を心から願っております」と述べました。

締約国会議では、長崎の被爆者が被爆体験を証言する可能性もあります。

また、長崎市の田上市長は締約国会議でスピーチする予定になっていて、出発前「ウクライナ情勢がひっ迫し、核兵器が使用されるリスクがかつてないほど高まる中、核兵器廃絶に向け、さらなる結束を呼びかけたい」と意気込みを語っています。