【解説】原発事故で国の責任認めず 最高裁の判断は

福島第一原子力発電所の事故で各地に避難した人などが、国と東京電力に損害賠償を求めた4件の集団訴訟で、最高裁判所は「実際の津波は想定より規模が大きく、仮に国が東京電力に必要な措置を命じていたとしても事故は避けられなかった可能性が高い」と判断し、国に責任はなかったとする判決を言い渡しました。

裁判の争点と、最高裁判所の判断について、社会部の伊沢浩志 記者の解説です。

(動画は3分8秒です。データ放送ではご覧になれません)

裁判の争点は

今回の裁判の争点は
▼国が巨大な津波が来ることを震災前に予測できたか。
▼予測できた場合、東京電力に有効な対策をとらせていれば事故を防げたかどうか、です。

最高裁判所の判断は

最高裁の判断をみるにあたって、震災が起きる前の地震や津波に関する国や東京電力の動きを押さえておきます。
震災の9年前、2002年に国の地震調査研究推進本部が「長期評価」という地震の予測を公表しています。これは今後30年以内に福島県沖を含む大平洋側の広い範囲でマグニチュード8クラスの地震が20%程度の確率で発生するというものです。

さらにこの長期評価に基づいて、震災の3年前には東京電力側が最大で15.7メートルの津波が押し寄せるとの試算をまとめています。最高裁はこうした予測や試算をもとに、有効な対策が取れたのかを検討しました。
その結果、仮に国がこれらをもとに東京電力に防潮堤を設けるなどの措置を取らせたとしても事故は防げなかったと結論づけました。
その理由として
▽実際に起きた地震は長期評価の想定よりもはるかに規模が大きく、
▽原発に押し寄せた津波も試算よりも大きなものだった
としています。

つまり、震災前に存在した専門的な知見を超える巨大地震・巨大津波が起きたとして、対策を取っていたかどうかにかかわらず、事故は防ぎようがなく、国の責任は問えないと判断したのです。

これらはこれまで国側が裁判で主張した内容に沿った判断となりました。

最高裁の判決が全国に影響か

今回の4つの裁判では、1審や2審で国の責任を認めた判決も多くありましたが、最高裁はそれを否定した形です。

これらの裁判では東京電力の賠償責任と、合わせて14億円の賠償額がすでに確定しています。国に責任はなかったとされたため賠償はすべて東京電力が負担することになります。

また、同様の集団訴訟は全国各地でほかにも30件近く起こされていて、判決はこれらの裁判に影響を及ぼすとみられます。