WTO閣僚会議が閉幕 約6年半ぶりに閣僚宣言を採択【詳細】

スイスのジュネーブで開催されていたWTO=世界貿易機関の閣僚会議は、およそ6年半ぶりに閣僚宣言を採択し、閉幕しました。ロシアによるウクライナ侵攻などが起きる中、自由貿易の理念を守ることで世界各国が結束した形です。

164の国と地域が加盟するWTOの閣僚会議は、スイスのジュネーブで今月12日から始まりました。会期を1日延長し、日付を越えて17日も未明まで交渉を続けた結果、全会一致で閣僚宣言を採択し、閉会しました。

閣僚宣言が出たのは2015年のケニア・ナイロビでの会議以来、およそ6年半ぶりです。

閣僚宣言では、ロシアの軍事侵攻によって起きている食料不足など、食料安全保障の分野では不必要な食料輸出の制限をしないというWTO協定上のルールを各国が順守することが盛り込まれました。

また、新型コロナウイルスのワクチンを含む医療品などを世界各国が公正に調達できるようにするルール作りや、20年にわたって議論が続いてきた水産資源の乱獲につながる「漁業補助金」を規制する新たなルールづくりでも合意しました。

WTOは長年、ものごとが決まらず、機能不全が指摘されてきました。

しかし、新型コロナの世界的な感染拡大やロシアの軍事侵攻という異例の事態が起きて世界経済がゆさぶられる中、WTOが掲げる自由貿易の理念を世界各国が守ることで結束した形です。

WTO事務局長「地政学的な分断を超えて団結」

WTOのオコンジョイウェアラ事務局長は17日、会期を延長したすえ、およそ6年半ぶりに閣僚宣言を採択したことについて「WTOがこれほど多くの成果をあげるのは久しぶりだ。手ぶらでは終わらなかった」と述べ、会場からは歓声と拍手があがりました。

さらに、オコンジョイウェアラ事務局長は「WTOの加盟国が地政学的な分断を超えて団結し、世界が抱える問題に取り組むことができることを示すものだ」と述べて、自由貿易の理念を結束して守ることができたと評価しました。

武部農林水産副大臣「大変成果のあった会議」

WTOの閣僚会議に、日本政府の代表の1人として参加した武部農林水産副大臣は、現地で記者団に対して「宣言の中では国内生産と並んで、貿易が世界の食料安全保障のために非常に重要であり、WTOルールに即さない輸出規制は行わないなどの内容が盛り込まれており、食料純輸入国である日本にとっては望ましい内容だと評価している」と述べました。

そのうえで、今回の閣僚会議について「発展途上国の皆さんも経済成長とともに発言力も大きくなっており、まとめるのは大変なことだが、WTOがすべての加盟国とともに自由貿易をしっかり守っていくという意味では、大変成果のあった会議になったと思う」と述べ、意義を強調しました。

松野官房長官「多角的貿易体制の維持強化へ取り組みを主導」

松野官房長官は午後の記者会見で「成果文書では、164の国と地域が一致してパンデミック対応や食料安全保障をはじめとする重要分野での取り組みの方向性を示し、今後のWTOの取り組みに推進力を与えることができた」と述べました。

そのうえで「国際社会がコロナ禍やロシアによるウクライナ侵略といった問題に直面するいま、わが国としてもWTOは今後の進むべき方向性を示すべきだと主張し、積極的に議論に貢献してきた。引き続きWTOを中核とした自由で開かれた多角的貿易体制の維持や強化のための取り組みを主導していく」と述べました。

閣僚宣言 詳細

全会一致で合意した閣僚宣言の主な内容です。

主な議題である、
▽食料不足への対応
▽新型コロナへの対応
▽漁業補助金などで合意しました。

食料不足への対応

ロシアの軍事侵攻によって、大農業国 ウクライナからの小麦などの農産物の輸送が滞っているうえ、ロシアも国内への供給を優先し、輸出を制限していることから世界の食料価格は一段と高騰しています。

こうした中、閣僚宣言では、
▽不必要な食料輸出の制限をしないという、WTO協定上のルールを各国が順守するとともに、制限をする場合は、発展途上国や食料を輸入に頼る国などへの影響を考慮することや、
▽国連のWFP=世界食糧計画が人道目的で食料調達を行う場合には、各国は輸出規制の対象から除外するなどとしています。

今回の閣僚宣言にはロシアも合意しています。

関係者によりますと今回の交渉では、現実的な対応策を中心に議論し、軍事侵攻を名指しで書き込んでいないため、ロシアも受け入れることができたのではないかということです。

新型コロナへの対応

新型コロナウイルスのワクチンを含む医療品や医療機器を、世界各国が公正に調達できるようにするルールを作ることです。

先進国の製薬会社が保有するワクチンの特許を、新興国などが緊急時に使用する際、手ごろな価格で入手できるように努めることで一致しました。

アメリカ、EU=ヨーロッパ連合、インドなどの提案を土台に交渉が進んだこともあり、一部の国が難色を示したものの最終的には合意に達しました。

漁業補助金

水産資源の乱獲につながる各国政府の漁業補助金を規制する、新たなルールをつくろうという議論です。

水産資源の乱獲につながる漁業補助金は禁止する一方、適切な資源管理を行っている場合の補助金については、禁止する必要はないとしています。

一方、発展途上国などからは、資源を管理する能力には国によって差があり、必要な補助金まで禁止されるのではないかという懸念も出たことから、インドなどが主張した発展途上国向けの特例措置の一部が盛り込まれたということです。

2001年から交渉が始まり、20年余り議論が続いてきましたが、ようやく合意に達しました。

貿易紛争処理機能の回復

WTOには、貿易紛争を解決するための機能として、第1審にあたる紛争処理小委員会「パネル」と、最終審にあたる「上級委員会」があり、この「上級委員会」が事実上機能停止に陥っています。

アメリカの前のトランプ政権が「上級委員会」の新しい委員の選任に反対し、最終審での貿易紛争の解決ができない状況に陥っています。

閣僚宣言では根本的な解決策は示されませんでしたが、「すべての加盟国が十分に機能する紛争処理システムを利用できるよう、2024年までに議論を行う」と具体的な年限を盛り込みました。