“忘れません 西澤先生” 亡き担当医への手紙

「夢枕に立たれた先生のうしろ姿を描きました」
「忘れません、僕の担当医・西澤弘太郎先生」
事件で命を奪われた医師に宛てて、残された患者たちが書いた手紙です。

手紙を書くよう促したのは心理カウンセラー。亡き医師がかつて患者への寄り添い方を学んだ師です。

行き場を失ったクリニックの患者たち

「私はとてもさみしいです」
「夢枕に立たれた西澤先生のうしろ姿を描きました。」
「道を開いてくれた先生、感謝しています。忘れません、僕の担当医・西澤弘太郎先生」

手紙を書いたのは大阪 北区にあった心療内科クリニックに通っていた患者たち。

去年12月にクリニックは放火され、院長の西澤弘太郎医師(当時49)やスタッフ、患者ら、巻き込まれた26人が死亡しました。

火をつけた容疑者も事件で死亡しました。

無関係の人たちを巻き込んで自殺を図ったとみられています。
亡き西澤医師への手紙を書くよう患者たちに促したのは、兵庫県芦屋市の公認心理師、土田久美さん。

事件のあと、行き場を失ったクリニックの患者を支援してきました。

患者の許可を得て、冒頭の手紙を見せてくれたのです。

心の支えを失い、精神的に不安定になったり、夜眠れなくなったりしている患者もいるといいます。

手紙を書くことで、突然の別れに向き合い、気持ちを整理するきっかけにしてほしいと土田さんは考えています。
土田さん
「西澤先生との別れができていない患者さんがたくさんいらっしゃいますよね。患者さんからみると消化不良といいますか、不完全の状態のままで、気持ちがそのままだと思うんです。私のカウンセリングでは、西澤先生にお話ししたいこと、もし次の診察があったならどんなことを話したかったかということを、言っていただくようにしています」

“患者に寄り添った診療を行いたい”と西澤医師

土田さんはカウンセリングを行うだけでなく、カウンセラーを養成する講座も開いています。

実は、事件で命を奪われた西澤医師も教え子の1人です。

西澤医師が、土田さんのもとを訪れたのは14年前。

“より患者に寄り添った診療を行いたい”と講座に通うようになったといいます。
土田さんが講座を始めて20年近く。医師という立場で10か月にわたる講座に一度も欠かすことなく出席したのは、西澤医師ただ一人です。

西澤医師はカウンセリングについて学んだあと、後に事件現場となるクリニックを開業しました。
土田さん
「とにかくまあ熱心ですよね。(西澤医師は)患者さんを診ている中で、どうしても心の部分を診ていかないといけないと。会社でのストレスとか、あるいは介護の問題とか、いろんなことが重なってしんどくなっている方たちをサポートしていかないといけないと(話していた)」

“亡き兄と同じ学びを” 西澤医師の妹も

西澤医師の妹、伸子さん(45)は、遺族としての苦しみと、兄のクリニックで多くの命が奪われたことの重みを感じてきました。

伸子さんも、いま、土田さんのもとでカウンセリングについて学び始めています。

伸子さんは、医師ではありませんが、事件のあと、クリニックの患者たちで作るオンライン交流会に参加してきました。

兄の西澤医師に代わって、少しでも患者に寄り添いたいと考えたのです。

しかし、どのような言葉をかければいいのか、わからなかったといいます。

伸子さん
「その方の持っている特性について多くを知っていないと、答えが出てこないですよね。だから、何も言えないなって思って、ずっと悩んでいたんです」
伸子さんはこの日、土田さんの講義を受け、20世紀のオーストリアの著名な心理学者、V.E.フランクルが確立した心理療法について学びました。

フランクルはナチスの強制収容所に送られ、家族を失う経験をしています。

土田さんは「窮地に立ったときでも、人間は本当に生きる意味を持っていたら強くなれます。フランクル博士も、患者さんと生きる意味を一緒に考えるのが使命だって、ずっと言っています」と、伸子さんに話しました。
伸子さんがこれまで受けた講義は7回。回を重ねるたびに、失った兄の存在の大きさを感じているといいます。

伸子さん
「患者さんからあんなに慕われて応えてきたということは、その患者さんはすごく満足されてたってことなんですよね。それはすごいなって思うんですよ。もう今、本当に言ってもしかたないことなんですけど、兄が患者と向き合っている姿を見たかったなっていうのが正直な気持ちですね」
伸子さんは、これからも患者のためにできることをやっていきたいと考えています。

伸子さん
「私は人が喜んでいる姿を見るのが喜びなので、その人が少しでも気が楽になったと言っていただけたら、兄の足元ぐらいですけども、似たような誰かのためにっていうことの活動をできたらなと思います」

(大阪放送局 記者 堀内新)