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職員室で見る朝焼けに涙して~教員と家族から500件のSOS~

「毎週土曜日、職員室から朝焼けを見ます」
そう語った女性教員。育児と両立するため早朝に出勤して仕事にあたっているといいます。
「疲労が重なる中、用水路に落ちて、死にかけました」
残業時間を改ざんするのは産業医面談を避けるための“校長の親心”だと言われたという男性教員。一命を取りとめ、いまはうつで休職しています。
学校の先生は大変だと知ってはいたけれど、ここまでとは…。
NHKの情報提供窓口「ニュースポスト」に寄せられた500件の悲痛な訴え、そして、それでも“辞められない理由”とは。

「息子は命を削っているよう」「夫を殺すつもりですか?」

滋賀県 元教員の男性
『帰宅後風呂の中で寝てしまい、口が湯に浸かって目が覚めた事が何度かありました。風呂は冷たくなっていて、これは下手したら死ぬなと思いました。教頭が机の陰でへたり込んでいる姿も何度も見ました。若い子たちの中では教員の勤務は過酷だという認識が常識です。その通りだから仕方ない。教員のなり手がないのも当たり前だと思います』
NHKの情報提供窓口「ニュースポスト」に、一晩で500件近い投稿が寄せられたのはことし4月末。

NHKの番組「クローズアップ現代」で、教員の過酷な勤務実態や教員不足の深刻な影響を伝えた直後のことでした。
教員本人はもちろん、その家族、そして児童や生徒の保護者から、切実な現実を訴える声が次々と寄せられたのです。
息子が教員の50代の母親
『私の息子も埼玉県の私立高校で教員をしています。毎日、お昼ご飯を食べる時間も作ってもらえず朝から夜遅くまで仕事しています。命を削っているようで、本当に見ていられません。昨日も、スーツを脱いでそのまま、朝まで起きませんでした。夜ご飯より睡眠でした。とにかく、改善を切にお願いしたいです』
夫が中学校教員の30代女性
『昨年子どもが生まれ今1番子育てに参加して欲しいし、参加したいと本人も思っていると思いますが長時間労働で起きてる時間には帰ってきません。土日も部活で家にいません!なのに残業や休日出勤の手当も出ていません!妻として夫を見ていてこの労働の仕方に憤りが隠せません!夫を殺すつもりですか?』
妻が中学校教員の50代男性
『妻は休日も部活や平日の残務で、毎回出ているか、疲れて寝ています。自分の子どもや家庭のことには関わる時間が取れず、我が家は、家庭崩壊です』
過酷な勤務に加え、公立学校の教員は「給特法」と呼ばれる法律によって、どれだけ働いても残業代や休日手当も出ず、現場や専門家からは“定額働かせ放題”とも呼ばれる現状。

実態を伝えてきたはずの私たちの想定を超える、悲痛な内容もありました。

職員室で朝焼けを見る週末 一体何しているんだろう

「毎週土曜日、職員室から朝焼けを見ます」

そう語ったのは投稿を寄せた1人、神奈川県の小学校教員のあやさん(仮名)40歳。
小学校教員の夫(41)とやりくりしながら、5歳の娘を育てています。
あやさん(仮名)が週末の出勤時に撮影した朝焼け
平日は、午後5時半にあやさんが娘を保育園に迎えに行き、帰宅後に家事や夕食の準備。

午後8時に夫はいったん帰宅して夕食に。家族3人が唯一そろう時間です。

しかし、夫は残りの仕事のため再び学校へ。夫の学校では去年3人の教員が休職して負担が増していて、帰りは日付が変わることもあるそうです。

夫を送り出したあやさんは疲れ果て、子どもを寝かせながら就寝。

そして午前3時半、あやさんは持ち帰った残業のため起床。クラス35人分のノートに目を通して、コメントを書き込み授業準備をしてから出勤します。その間、朝ご飯と子どもの保育園への送りは夫が担います。

これだけでは終わりません。

土曜日の朝、3時半に起きたあやさんは学校へ。給食のアレルギー対応の資料作成、読書感想文の審査の手配など、家に持ち帰れない仕事が残っているからです。

午後はバトンタッチで夫が学校へ。娘が昼寝を始めた隙に、あやさんも授業準備を始めます。

教員歴18年、育児休業を経て始まった夫婦すれ違いのスケジュール。いつまでこの働き方ができるのか、途方に暮れるときがあるといいます。
あやさん(仮名)
「土曜日に学校で朝焼けを見るたび、『私、何のために働いているのだろう』と思います。泣けてきますよね。
教員がやるべきなのか微妙に感じる見えづらい労働が多すぎる。
若いころ、準備が足りずに授業をしたら保護者からクレームがあり、教材研究は手が抜けませんが、正直なところすでにしんどいです。
いつまで体にむちを打てるか、不安です」

500件のSOS分析してみると… “校長の親心”で改ざん?!

寄せられた500件のSOS、どのような訴えが多いのか。

私たちは「ワードクラウド」という手法を使って、寄せられた言葉の数の視覚化を試みました。
寄せられた言葉の数を視覚化
「現場」「働く」といった言葉に続いて目立ったのが、「残業」や「管理」という言葉。

1つずつ読み込んでいくと“管理職”から“残業時間”の訂正を求められる、という内容も見えてきました。

教務主任だった40代の男性が救急搬送されたのは去年12月半ばのこと。目覚めたら病院で処置を受けていました。

用水路の中で気を失っていたところを通行人が通報してくれたそうで、発見が遅ければ凍死か溺死するおそれがあったと言われたといいます。

過労によるストレスで飲酒に頼っていたことが背景にあると考えていますが、本当の勤務の記録は改ざんされて残っていないといいます。

例えば去年4月。

男性は教務主任のほか、特別支援学級の授業にも入っていて、残業は130時間ほどに上っていましたが、土日の勤務入力をすべて消され80時間以下に削られたということです。

その管理職の教頭からはこんなメールが届いたといいます。
男性に届いたメール
「在校時間を整えるのは校長先生の願いです」
「オーバーしたら、面接や通院などで、ただでさえお忙しい先生方から更に時間を奪いたくないという願いです。その親心を汲んでいただけたらと思います」
この教務主任だった男性は現在はうつで休職しています。

受験生なのに自習 教員3人休職で陸上部が廃部に…

そして、今回の500件には“子どもの学びや活動に悪影響が出ている”という声も寄せられました。
公立中学校・教員
『1人教員が足りず、自習が続いています。新任が教科主任を務めていたり…それでも近隣の学校に比べると状況は良いそうです』
東京・50代の母親
『中3の子どもの中学校でもお休みの先生がいます。その時間は別の先生が来ますが、先に進む授業は出来ていません。振り返りのプリントとか、自習です。子どもたちは受験生、不安は募る一方です』
「先生が次々と休職し、ついに校長も休職。学校が回らず、陸上部が廃部になりました」

そう淡々と語ったのは公立中学校に勤める24歳の女性教員。

一部の生徒や保護者への対応が負担になり、ほかの生徒への影響が出ているといいます。
24歳の女性教員
「掃除用具入れはどの教室もベッコベコ。殴る生徒がいるからです。
指導すると今度は“うちの子は悪くない”と保護者が怒鳴り込んできて…23時過ぎまで職員玄関前で抗議していて、みんな帰れず、警察を呼んでようやく解放されました」
その分、教員どうし団結して頑張っていたといいます。

しかし夏休み明け、2人が休職。ついには校長まで休職する事態に陥りました。

代わりの非常勤の教員には、部活動や行事運営などは任せられず、残された教員たちの負担が膨れ上がるばかりでした。

そこで学校が決断したのが、陸上部を廃部することでした。
24歳の女性教員
「“部員数が少ないから”と説明され、生徒はずっと泣いてました。
大人の事情で生徒が嫌な思いをするなんて、本当にかわいそうで…これが学校の現実なのかと」

国の動きは?部活動改革は始まったが…

その部活動自体も、大きな負担になっているという声が寄せられ、500件の投稿の中に「部活」という言葉はあわせて136個ありました。

国は来年度(2023年度)から、教員の働き方を改善するために中学校の休日の部活動を地域のスポーツクラブなどに段階的に移行していく方針です。

今月には、スポーツ庁の有識者会議が、指導者の確保や、困窮する家庭に対する会費の補助などの課題について提言を提出。

スポーツ庁は、予算措置の検討などを進めることにしています。

部活だけでなく、教員以外でも出来る業務の委託やスクラップのほか、公立学校の教員の給与を4%上乗せする代わりに残業代や休日手当を支払わないと定めた「給特法」の改正を求める声も多くありました。

「楽しかった!」その声が聞きたくて

毎朝、3時半に起きて授業準備をしている、小学校教員のあやさん。

体力をすり減らしながら子育てと教員を続ける日々。

それでも教員を辞めずにいられるのは、クラスで1年一緒に過ごした子どもたちからの言葉にあると言います。
撮影:あやさん(仮名) 毎日クラス全員のノートに目を通してメッセージを書いている
あやさん(仮名)
「教室って1日で長い時間を過ごす場所。
毎朝早起きして、子どもたちのノートに目を通して、『あなたをちゃんと見ているよ』とメッセージを送り続けることで、子どもたちの安心感につながれば…それがやりがいかもしれません。
年度終わりに子どもたちから『楽しかったねこのクラス』と言ってもらえた時は、ほっとするし、教員をやっていてよかった、来年も頑張ろう!と思えるんですよ」
頑張る教員たちを支えるために、教員の仕事を辞めた人も。
『この3月まで20年ほど続けた小学校教諭を退職して、起業しました。これからは外から先生をサポートする側になろうと考えたからです』
田中美香子さん
そう投稿した奈良県の田中美香子さん。

小学校の教員を20年勤める中で、教員たちが「水泳の授業で何を着たらいいか分からない」「授業で必要な道具が手に入らない」など、細かな困りごとで余裕をなくす姿を多く見てきました。

そうした経験から“先生専用のグッズをそろえた通販サイト”を立ち上げることにしました。

事業は奈良県内の起業コンテストでも認められ、この夏にもサイトをオープン予定。小学校の現役教員である夫に現状を聞きながら、教員の負担を減らす方法を模索しています。
田中美香子さん
「私自身も長時間労働で悩み、同僚が休職することも当たり前にありました。
先生には本来の仕事である、楽しくわかりやすい授業を創るための時間や、子どもたちとかかわる時間をしっかりとってもらいたい。
わずかでも先生の負担を減らすことで、先生が実力を発揮できる環境を作っていきたいと考えています」

先生が、笑っていられるように

今回、紹介できた声はわずかですが、500件のSOSは、立場も悩みも多様で、問題の複雑さ、根深さを改めて突きつけられた思いでした。

その解決には、国や自治体、地域、家庭、学校現場、総がかりで今すぐ動き出さなくては、もう日本の学校現場は持たないかもしれない、そう感じさせる声ばかりでした。

先生たちが子どもたちと心から笑っていられる教育現場にしていけるよう、取材班ではこの問題を伝え続けていきます。

厳しい実態はもちろん、取り組んでいる改善策、スクラップに成功した業務、地域とうまく連携した事例など、NHKの情報提供窓口「ニュースポスト」にお寄せください。
社会部記者
戸叶 直宏
両親が元教員で、中高教員免許(社会・公民)を持っています
教育問題を幅広く取材
岐阜放送局記者
吉川 裕基
校則問題や部活動改革も取材中
社会番組部ディレクター
藤田 盛資
校則見直し・教員の働き方・部活改革など取材中
学生時代はバスケで部活漬けでした

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