新型コロナ対策 有識者会議が報告書 “病床確保の措置不十分”

新型コロナ対策を検証する政府の有識者会議が開かれ、病床確保のための法的な措置が十分でなく、医療のひっ迫が起きたなどと課題を指摘した報告書を取りまとめました。
これを受け政府は、対策を一元的に担う「内閣感染症危機管理庁」を設置する方針です。

報告書では、これまでのコロナ対応について、高齢化率が高い中でも欧米各国と比べて亡くなった人の数は抑えられた一方、経済に影響が出て、緊急事態宣言などによって落ち込んだGDP=国内総生産の回復の速度は緩やかだと指摘しました。

そのうえで、これまでの政府の対応の課題を挙げ、医療体制については、それぞれの地域で医療機関の役割分担が明確でなく、病床確保のために医療機関の協力を得る際の法的な措置も十分でないために要請に基づいて対応せざるをえなかったほか、かかりつけの医療機関が組織的に関わる仕組みもなかったため、しばしば医療がひっ迫したとしていて、自宅療養者への医療や発熱外来の体制を作るのに時間がかかり、ふだんからかかっている医療機関で診療を受けられないケースが起きたとしています。

このため、危機に備えて、平時からの備えを確実に行うことや、法的対応や地域医療の計画の見直しも含めた仕組みを作ることなどが必要だと指摘しました。

また、検査ニーズの高まりに十分対応できなかったとして、検査体制を抜本的に強化することや、政府に対策を助言する専門家に対しては、情報収集に制約があり、分析の詳細が公表されないことがあったなどとして、迅速に情報を共有できる環境を整備することなどが必要だとしています。

さらに特措法に基づく行動制限の要請を行う場合には、政府が目的などの説明を丁寧に行い、国民が冷静な行動をとれるよう、リスク・コミュニケーションの視点に立って円滑な情報提供を行うことが重要だとしています。

そして2009年の新型インフルエンザの流行のあとで提言が出されたにもかかわらず、その後、危機意識が薄れ、保健や医療提供体制の構築について現場に反映されておらず、対応は不十分だったと言わざるをえないとしています。

こうしたうえで報告書では、医療機関に対する行政の権限強化など、感染症による危機に素早く対応するために、政府に一元的に対策を指揮する司令塔組織を整備し、行政の縦割りを排して政府の専門家組織を強化することなどを求めました。

これを受けて政府は、今週中に感染症危機管理の抜本的強化策を決定する方針です。

これまでの案によりますと、新型コロナ対策に当たる行政組織が内閣官房や厚生労働省にまたがっていることから、一元的に対策を担う組織として、内閣官房に「感染症危機管理監」を長とする「内閣感染症危機管理庁」を設置するとしています。

また、基礎研究などを行う「国立感染症研究所」と臨床医療を行う「国立国際医療研究センター」を統合して、アメリカのCDC=疾病対策センターの日本版を創設するとしています。

岸田総理大臣は、15日夜に行う記者会見で「内閣感染症危機管理庁」を設置する方針など今後の新型コロナ対策の方向性を説明することにしています。

永井座長「近いうちに正式な報告書として公表」

政府の有識者会議の永井良三座長は、会合のあと報道陣の取材に応じ「報告書の案の内容についてはおおむね合意し座長に一任となった。きょうの議論に基づいて各項目の表現などを修正し、近いうちに正式な報告書として公表されると思う」と述べました。

自宅療養者への医療に「かかりつけ」の医療機関が関われず

報告書では、自宅などで療養する人に対する医療の提供体制について、かかりつけの医療機関が組織的に関わる仕組みがなかったため、自宅療養者への医療や発熱外来の体制を作るのに時間がかかり、ふだんからかかっている医療機関で診療を受けられないケースが起きたとしています。

厚生労働省の調査によりますと、自宅療養者の健康観察などを行う医療機関の数は、
▼1日当たりの感染者数が全国で100人余りにとどまっていた去年11月30日の時点で1万2127か所で、
国はその後、オミクロン株の広がりが見られ始めた去年12月、各都道府県に対応できる医療機関を拡大するよう要請しました。

しかし、
▼第6波で感染がそれ以前になかった規模で拡大し始めたことし1月7日の時点で対応する医療機関は1万6073か所、
▼3月14日の時点で2万1805か所、
▼4月22日の時点で2万2554か所で、全体の20%程度にとどまりました。

また、発熱の患者が感染しているかどうかの検査など「発熱外来」を行う医療機関の数についても、
▼第3波の直前のおととし11月にはおよそ2万4000か所だったのが、
▼全国の一日の感染者数のピークがおよそ2万5000人と第3波の3倍以上となった第5波の最中の去年8月でも、およそ3万2000か所、
▼オミクロン株の広がりで一日の感染者数のピークが10万人を超えたことし2月の第6波の時期でも3万6000か所ほどと、
感染の広がりに比べると、大きくは増えませんでした。

発熱外来を行っている医療機関のうち、一般に公表していたのは、急速な増加が続いていたことし1月末(すえ)の時点でも67%にとどまり、こうした医療機関に発熱した患者が集中する事態となりました。

このため報告書では、感染症危機に備えた役割分担を明確にして、必要なときには確実に受診できるよう、法的対応を含めた仕組みを作り、地域のかかりつけ医の機能が発揮できる制度整備を行うことが重要だと指摘しました。

有識者会議の委員を務めた日本プライマリ・ケア連合学会の草場鉄周理事長は「地域のコロナ診療体制がより強固になれば、極めてひっ迫した保健所や救急医療の負担を下げることもできる。政府には対応を行う計画を作り、次の感染症への備えを着実に進めてほしい」と話しています。

沖縄 往診できる医師を県が一元的に把握

沖縄県で新型コロナ対応にあたっている、沖縄県立中部病院の高山義浩医師によりますと、沖縄県では人口当たりの感染者数が全国で最も多い状態が続いていますが、コロナ対応にあたる医療機関は限定的だということです。

このため、沖縄県では、自宅や施設で療養する人の往診ができる医師に登録してもらい、県が一元的に把握し、往診が必要な患者の健康観察や診療にあたってもらう対応をとっているということです。

さらに、新型コロナ患者の診療により多くのかかりつけ医が加われるよう、コロナ患者の対応を行っている地域の診療所などの医師らに対して、毎週決まった日に、症状や治療法についての最新の知見や、頻繁に更新されるコロナ診療に関わる国や県の制度などを説明する、オンラインの連絡会を開くとともに、治療などについての相談を受け付けているということです。

高山医師は「一時に比べると落ち着いてきたものの、一日で1000人近い新規感染者の確認と、1万人ほどの患者の健康観察を続けている。『診療所も対応できるはずなのでやってください』と要請するだけでは、患者の命に責任を持つ医師としては、なかなかコロナ診療への参加が難しいと思う。科学的な根拠を持って、しっかり感染対策を行いながら、治療をしてもらうためのバックアップ体制をとることが、何よりも必要だ。これから軽症の患者が増えていく中で、地域の診療所はさらに重要になってくる。相談や情報提供の機会がオンラインだけでは参加しにくい医師もいるので、実際に集まる研修の機会も設けていきたい」と話しています。

日本医師会 中川会長 “強制的な病床確保はよくない”

報告書について、日本医師会の中川会長は記者会見で「新興感染症に対する備えがなかったのは、率直に認めなければならない。今回の経験をもとに、次の感染の波や新興感染症の襲来に対し、準備できるのではないか」と述べ、有意義だという認識を示しました。

また「内閣感染症危機管理庁」を設置するなどとした政府の方針について「今の組織を統合・再編し、より強力な司令塔機能を持った組織を作ることには期待している」と述べました。

一方で、病床の確保に向け都道府県知事の権限を強化することについては「強制的に『病床を確保せよ』という仕組みは、地域の感染症対策などにとって決してよくない。都道府県と地域の医師会が理解を深め、信頼関係に基づき一緒に対処することで、強力な効果を発揮できる」と指摘しました。

立民 長妻氏「参院選前のアリバイ作りと言わざるをえない」

政府の有識者会議が報告書をまとめたあと、立憲民主党は、党の対策本部の会合を開きました。

対策本部の本部長を務める、長妻元厚生労働大臣は「検査も医療も受けられずに無念の死を自宅で迎えた人もたくさんいたのに、分析や反省もなく、司令塔機能が機能しなかったことによる悪影響の分析もない。これまでの取り組みの問題点を将来のかてにする姿勢がなく、参議院選挙前のアリバイ作りと言わざるをえない」と批判しました。