【詳しく】子どもの権利どう守る? こども基本法の理念と課題は

こども家庭庁の設置法案とあわせ、15日に成立が見込まれるのが「こども基本法」案です。
子どもの権利をどう守っていくのか、という基本的な理念を定めたものです。
子どもの人権を保障することや、子どもの意見を政策に反映するために必要な措置を講じることなどが定められています。
子どもの虐待に対処している現場からは法律が理念だけで終わらないよう、子どもの意見を聞くことができるような体制づくりを求める声も上がっています。

基本理念は?

この法案の「基本理念」は以下のように定められています。

・すべての子どもが個人として尊重され、基本的人権が保障され差別的な扱いをうけないこと
・自分に関する事柄への意見表明や、社会参画の機会が確保されること
・子どもの意見が尊重され最善の利益が考慮されること
そのうえでこれまで子ども関連の政策が複数の行政機関にまたがり、統一的な対応が課題になってきたことを踏まえ、

・子どもに関する施策を国は総合的に策定して実施すること
・自治体も国などと連携して実施すること

をそれぞれの「責務」としました。

そして子どもの意見を政策に反映するために必要な措置を講じるよう定めています。

「子どもの権利条約」批准から28年…

子どもの権利をめぐっては、1989年に国連総会で採択された「子どもの権利条約」で、子どもも大人と同様にひとりの人間として人権があるとして、生きることや育つことなどへの権利に加え、子どもの意見の尊重などが定められました。

日本も1994年に条約を批准しましたが、子どもの権利について包括的に定めた法律がなく、国連から法整備をするよう相次いで勧告を受けていました。

批准から28年後の成立に向け期待の声がある一方、今回の法案では財政措置について「必要な措置を講ずるよう努めなければならない」という記載にとどまっており、掲げた理念の実効性が課題となっています。
子どもの権利に関する法整備を求めてきたNPO法人や専門家らは成立を前に会見を開き、「こども基本法」への期待と今後に向けた課題を示しました。

会見したのは、教育の専門家のほか、虐待防止や子育て支援などにあたっているNPO法人、また、子どもや若者の声を政策に反映させる活動をしている団体などです。

会見では「国として子どもの権利を大切にする」と明記した法律ができる意義は大きいとして、今後、あらゆる場面で子どもの権利の実現に向けた施策が進むことへの期待を示しました。

一方で子どもの権利を守るための組織や人員配置のあり方が重要になるとして、予算規模を明らかにすることとその財源をどう確保するかを、一刻も早く国会で議論し、示すことが求められると指摘しました。

会見に参加した「日本若者協議会」の室橋祐貴代表理事は、「国連の子どもの権利条約を批准した後も30年近く国内法が整備されてこなかった弊害は大きく、子どもの課題が山積している。法律が整備されても、広く国民に理解されないと現場に浸透しないので、特に教員など子どもに関わる仕事をする人を中心に周知や研修を徹底する必要がある」と話していました。

虐待に向き合う現場「声を聞く体制整備が欠かせない」

こども基本法案に子どもの意見の尊重や政策への反映が明記されたことに、支援の現場からは“子どもの声”を聞くための体制整備が欠かせないという声があがっています。

児童虐待に対応する現場では、虐待を受けていることを本人から聞き取れなかったり、保護されたあとも望んでいない施設に入るケースがあったりと、子どもの意見の尊重が課題になっていて、虐待を受けた児童などから話を聞く国のモデル事業が始まっていますが、実施する自治体は一部にとどまっています。

ことし設立された子どもの声を反映させるための全国組織に参加している福岡市のNPO法人では、子どもの意見を聞き取り代弁するスタッフおよそ20人が虐待を受けたり、親元を離れて暮らしていたりする子どもから悩みや思いを聞き、必要に応じて親や行政に伝える活動をしています。

実際に子どもの声を聞き取ることは容易ではないと言い、活動では「ひみつをまもってほしい」「前の学校の友だちに会いたい」などと書かれたカードから、自分の気持ちにあうものを選んでもらうことで、初めて気持ちを話せる子どももいるといいます。
NPO法人で理事長を務める安孫子健輔弁護士は「これまで子どもの声を聞く重要性は認識しながらも、親も学校も行政も余裕がない中で後回しにしがちな現状があり、家庭で困った思いをしながらまだ把握できていない子どもがたくさんいると思う。今回の法律で『大人は意見を聞いてくれる』という認識が浸透していけば、子どもが『発信していいんだ』と気づき保護や支援につながる。法律が理念だけで終わらないよう、実際に多くの人がサポートできる体制を作り、子どもの意見を聞ける現場にしていく必要がある」と話していました。

“こどもを性犯罪から守って” 日本版DBSへの期待も

子どもを性犯罪から守る施策の充実を期待する声も高まっています。

関東地方の40代の母親は、小学生の娘が担任の教員から身体を触られる性被害に遭い、PTSDの症状が出るなど長く苦しんでいるといいます。
母親は、懲戒免職処分を受けた教員がその後、子どもに関わる施設で新たなスタッフとして働いていることをホームページで知り衝撃をうけました。

母親は「校長経由で『子どもに関わる仕事は金輪際しません』と言っていると聞いていたので、まるで自分がしたことが無かったかのように、子どもと接していることに憤りを感じました。その施設の子どもたちのことが心配になりました」と話していました。

このため、今回の法案の成立によって、保育や教育の仕事に就く際に性犯罪歴がないことなどの証明を求める仕組み、「日本版DBS(ディービーエス)=ディスクロージャー・アンド・バーリング・サービス」の導入が早期に実現することを期待しています。

母親は「やっと国主導で日本も子どもファーストで守っていこうという方向に動くのはうれしいです。一度でも子どもに性犯罪をした人を再び子どもに関わる職業に就かせることはリスクがあると思うので、制度の議論を進めていただきたいです。まずは子どもの幸せを守り『安心安全』をことばだけで終わらせないよう具体的な施策を立ててほしいです」と話していました。