介護が大変 犬や猫を飼う前に知ってほしいこと

介護が大変 犬や猫を飼う前に知ってほしいこと
心を癒やしてくれるペットを飼いたい!

そういう気持ちわかりますが、ちょっと待ってください。

長生きしたペットの介護が大変だって、知っていますか?

出会いは一目ぼれ

「ペットの介護で日々忙殺されている」
「意思疎通が十分できないので、人間の介護より大変」
SNS上では、高齢ペットを介護している飼い主から、過酷な日々を伝える投稿が相次いでいます。

投稿者の1人、東京・江東区に住む山本規子さん(62)に話を聞きました。

山本さんがペットを飼い始めたのは2004年。
きっかけは3人の子どもが希望したからでした。

ペット店で「かわいい」と一目ぼれしたのは生後2か月のしば犬。

その時は長生きすれば、直面しうる介護について全く想像していませんでした。

外でボールを投げると、喜んで取りに行き、くわえて戻ってくるお利口さん。

6年前には千葉旅行に連れて行きました。

ペットと同宿できるホテルのドッグランを楽しそうに走っていたのが、いい思い出だと振り返ります。

壮絶な老犬介護の実態は

その愛犬が16歳になった2年前。

後ろ足の自由がきかなくなり、よたよた歩きに。

大好きだったボール遊びが徐々にできなくなりました。

今は自力歩行が困難で、歩行器を使っています。
介護は24時間態勢。

食事は自力で立っていられないため、片腕で体を抱きかかえながら、もう一方の手で食べ物を口の近くまで持っていきます。

かむ力も弱くなっていて、ペットフードは水で柔らかくして用意します。
そして介護で体力的にいちばん大変なのが夜鳴きへの対応です。

寝ていても30分から2時間おきに苦しくなるようで、起き上がろうとしますができません。

そのたびに鳴き声をあげて、同じ部屋で寝ている山本さんを呼びます。
体を起こしますが、すぐによろけて倒れてしまう愛犬。

起こしては倒れ、起こしては倒れということを夜中にも1時間ほど繰り返します。
山本さん
「ここ数年、私自身も熟睡できず、寝不足の状態が続いています。夜中に下痢気味のうんちを漏らしてしまうこともあるので、そのときは大掃除になります。日中に4時間ほど寝てくれるタイミングがあるので、その時に急いで家事をしたり、仮眠を取ったりする生活です。大型犬より体力的にはましだと思いますが、ほぼすべての時間を愛犬にささげているという状態です」
家族は全員フルタイムで勤めているため、山本さんが介護をほぼ全面的に引き受けています。

それまで企業にある給湯器をメンテナンスするパートの仕事を1日5時間していましたが、今は特別に1日30分ほどに減らしてもらっています。

一方で、介護が始まってからペット用の介護用品や薬が必要になり、年間10万円ほど出費が増えました。

このため家族の食費を抑えたり、自分の衣服代や化粧品代を削ったりして対応しています。
山本さん
「生き物なので当然、介護が必要になるのですが、恥ずかしいことに飼い始めた時には全然考えていませんでした。夜中に何度も起きられると、ちょっとイライラしてしまうこともあり、愛犬には申し訳ない気持ちになります。18年近く一緒に暮らしていて家族の一員なので、長生きはしてほしいです。しかし睡眠不足でボーッとしている時は、ぎりぎりの状況がいつまで続くのだろうかと考えてしまう時があります」

ペットの世界でも「老老介護」の問題が

犬と猫の平均寿命は延びています。
ペットフードを製造・販売する会社でつくるペットフード協会によると、医療の進歩やペットフードの栄養バランスがよくなったことで、平均寿命はこの10年ほどで、犬が0.78歳、猫は1.3歳延びています。
ペットが長生きすることで一緒に暮らせる期間が長くなった反面、飼い主も高齢となり、人間の世界でも深刻な事態になり得る「老老介護」のケースがペットとの関係においても出てきました。
最悪の場合、飼い続けることが困難になります。

老人ホームではなく“老犬ホーム”に脚光

そうした中、需要が高まっているのが、家庭では面倒を見きれなくなった犬や猫を預かる「老犬ホーム(老猫ホーム)」です。

東京・大田区にある施設では現在、高齢の犬と猫を15匹ずつ預かっています。
日中はスタッフ5人態勢、夜はスタッフ2人態勢で、ほぼ24時間、介護をしています。
歩行することができない犬や猫に気分転換をしてもらおうと、1日に数回、カートに乗せるなどして散歩に連れ出します。

さらに誕生日を迎えた犬や猫には特別なふるまいも。
取材に訪れた日には、18歳になる老犬が、好物の鶏レバーで作られた特製のケーキを食べていました。
18歳になる老犬の飼い主
「もともとは祖母が飼っていたのですが、高齢になり飼うことができなくなり、預かってもらっています。私の実家では飼うことができなかったので、本当に助かりました。祖母の家にいた時以上にかわいがってもらっています」
東京ペットホーム 渡部帝社長
「ペットと飼い主の高齢化が進む中、『預かってもらえませんか』という切迫した問い合わせが毎週のように来ていて、4、5年前から定員に近い状態が続いています。飼い主としては離れたくなくても、自身の自立度が下がってしまったり、入院したりして不可抗力的に見てあげられなくなるというケースが多く、無念な思いがとても伝わってきます。そういう思いをしっかり引き継いで、飼い主さんにヒアリングをしながら介護しています」
老犬ホームの情報提供サービスを行っている「老犬ケア」によると、昨年度末の時点で、老犬ホームに入居している犬は636匹と、調査を開始した6年前の3倍以上に。
老猫ホームに入居する猫は107匹と、調査を開始した3年前の約1.5倍に増えているということです。

「健康寿命」を延ばしたい

高齢ペットの介護の負担を少しでも減らそうと、早い段階から対策を始める飼い主も増えています。
取材をした千葉県船橋市のペット専用の屋内施設では、リハビリや運動不足の解消につなげたいと考える飼い主に連れられたミニチュアダックスフンドが、専門のスタッフの指導を受けながら、水深90センチの貸し切りプールを泳いでいました。
2匹のミニチュアダックスフンドの飼い主
「愛犬がヘルニアになり、かかりつけ医と相談しリハビリとして通い始めました。最初は歩けなかったのですが、元気になったのでよかったです」
ドッグプールRANA 小山裕貴美社長
「年々利用者は増えてきていて、ことしは去年の1.2倍ほどに増えています。陸だとまだ自分の体重を支えきれずにふらついてしまうような子が、水の中だったら負担がかからずに足を動かせるのでリハビリにいいです。また長期的に元気でいてもらおうと、ダイエットや筋力増加を目的にふだんから気を遣って通わせている方も多いです」
この施設では、高齢になってから急に運動を始めると体への負荷が大きくなることがあるため、初めての利用は8歳未満しか受け付けていません。

生き物を飼う重さ 考えて

ペットの高齢化の問題に詳しい帝京科学大学の佐伯潤教授は、愛犬や愛猫の介護は、家族の一員として受け入れた以上、最後まで非常に大きな責任を伴うことを覚悟してほしいと訴えています。
佐伯教授
「コロナ禍で時間ができて、ペットを飼いたいと考える人が増えたと聞いています。しかし長生きをすれば、介護や看病で自分の生活がある程度、犠牲になることも考えられます。15年、16年という寿命を持った生き物を飼うという重さを理解したうえで決断してほしいです。またペットのこまかい変化に気を遣って、ふだんからかかりつけ医に相談したり、食事や運動に気を遣ったりして健康寿命を延ばし、飼い主、ペットともに少しでも負担を減らすことが大切だと思います」
私(記者)も実家で12歳のパピヨンを飼っています。
今は自力で食事をし、散歩にも行けます。
しかし年々、食べる量は減り、散歩の時間も短くなっています。

今回の取材を通して、70代になる両親に世話を任せっきりにするのではなく、離れて暮らす自分も介護をはじめ、愛犬に何ができるのか真剣に考えないといけないと痛感しました。