WTOの閣僚会議2日目 高騰する食料価格への対応など議論へ

WTO=世界貿易機関の閣僚会議は2日目に入り、テーマ別の会合が始まりました。このうちロシアによるウクライナ侵攻などの影響で高騰する食料価格への対応など「食料安全保障」についてはその重要性や対応策が議論される見通しです。

スイスのジュネーブで開かれているWTOの閣僚会議は日本時間の13日、2日目に入り、テーマ別に議題を話し合う会合が始まりました。

このうち「食料安全保障」については、新型コロナウイルスの感染拡大やロシアの軍事侵攻で世界的に農産物の供給が滞り、食料価格が高騰していることへの対応が議論される見通しです。

具体的には食料の輸出国が自国への供給を優先するため輸出を規制している状況やウクライナ南部の港から小麦などの穀物がロシア軍の妨害によって輸出できない状況をふまえ、WTOとして不要な輸出制限をしないルールの徹底や輸出を妨げないようなルール作りの必要性などについて話し合うということです。

また、新型コロナの感染拡大への対応として、ワクチンを含む医薬品などを各国が公正に調達できるようにすることやワクチンの特許を新興国にも使えるよう開放することなどについても話し合われています。

ロシア代表スピーチ時 日本の政務官は退席ではなく「不在」

初日の会合でロシア代表のスピーチの際におよそ30か国の代表が退席したときの日本政府の対応について、外務省の担当者は「ロシア代表のスピーチが始まる時には、出席していた三宅政務官は別のスケジュールの都合ですでに退席したあとで、会議場にいなかった。ロシアに反対するという意図で退席したわけではない」と説明しています。

小麦など穀物の輸出国の現状は

ロシアとウクライナは、世界有数の小麦の輸出大国で2020年の輸出量はロシアが世界1位ウクライナが5位となっています。

両国を合わせた輸出量は世界全体の3割近くを占めアフリカやアジア、中東などに輸出しています。

農林水産省によりますと、軍事侵攻以降、ウクライナでは小麦の収穫面積が縮小したほか、穀物を貯蔵する施設や輸送インフラが被害を受けたり、黒海に面する南部の都市、オデーサの港がロシアに封鎖されたりしています。

このためことし夏から来年にかけてウクライナから世界に輸出される小麦の量はおよそ半分に減少すると見込まれています。

外務省によりますと東アフリカはロシアとウクライナへの輸入依存度がおよそ90%に達していてスーダン、ケニア、エチオピアなどで食料不足が懸念されています。

アフリカでは3億5000万人が深刻な食料危機に直面しているとされ食料生産の能力がぜい弱な国ほどウクライナの情勢の影響を受けているということです。

またウクライナはとうもろこしの輸出量が世界4位、ロシアは11位となっています。

OECD=経済協力開発機構は、ロシアによる軍事侵攻が始まってから輸出が停滞したため一時、小麦の価格が88%、トウモロコシは42%、それぞれ上昇するなど世界でインフレが加速する要因のひとつになっていると分析しています。

今後、経済に及ぼす影響についてOECDは、世界全体の成長率は弱まる一方、インフレは強まるという見方をしていて状況によってはさらに事態が悪化すると懸念しています。

各国が小麦などを輸出制限に

農林水産省によりますと、ことし3月時点で、ロシアが小麦や大麦などの輸出を制限しているほか、アルゼンチンやウクライナも小麦などに輸出の規制を設けています。

また先月、インド政府は国内に安定して供給するため小麦の輸出を直ちに禁止する措置を発表しました。

このほかおととし、新型コロナウイルスの感染が拡大したときにはロシア、ベトナム、ミャンマーなど19か国が穀物などの輸出を規制する措置をとりました。

WTOは加盟国が国内に優先的に供給することを禁止していませんが輸入国の食料安全保障に及ぼす影響を十分考慮するともに輸出規制の措置を取る場合、WTOに対し事前に通報することを順守するよう求めています。

今回の閣僚会議 専門家の見解は

WTOの閣僚会議で、食料安全保障について議論が交わされることについて、みずほリサーチ&テクノロジーズの菅原淳一主席研究員は「WTOのルールでは、必要な場合は食料を国内へ優先的に供給する事は認められており、輸出制限を全面的に禁止することはできない。一方で、必要のない輸出制限は行わないという各国の自制や、国家間の協力に向けた合意ができるかどうかが鍵になってくる」と話しています。

また、貿易紛争を解決するための「上級委員会」が事実上機能停止に陥る中、WTOに求められている役割については、「新型コロナやロシアによるウクライナへの軍事侵攻など、世界の情勢は非常に大きく変わり、グローバルな自由貿易体制そのものが危機に瀕している。こうした中、自由貿易体制を守る役割を担うWTOが機能していることが非常に重要だ。そのためには、小さくても具体的な成果を出ししっかり機能を果たしているということを示せるかどうかが重要なポイントになる」と指摘しています。