WTO閣僚会議始まる 食料など高騰で揺らぐ多角的貿易体制を議論

WTO=世界貿易機関の閣僚会議が12日から始まりました。初日はロシアのウクライナ侵攻が要因となり、食料やエネルギーなどの価格が高騰し、多角的貿易体制が揺らいでいる現状について議論が行われました。

WTOの閣僚会議はスイスのジュネーブで日本時間の12日夜、開会式が行われ、4日間の会議が始まりました。

初日は多角的貿易体制の課題を話し合う会合が開かれ、日本からは細田経済産業副大臣が出席しました。

多角的貿易体制はグローバルに貿易を促進するというWTOの基本的な理念の1つですが、ロシアのウクライナ侵攻によって食料やエネルギーの価格が高騰し、発展途上国などで食料やエネルギー資源が入手できなくなるなど理念が揺らぐ事態が起きています。

会合で演説した細田副大臣はロシアの軍事侵攻について、「力による一方的な現状変更の試みであり、明白な国際法違反だ」と述べ、ロシアを厳しく非難しました。

そのうえで、多角的貿易体制を機能させ続けるよう国際社会が一丸となって対応する必要があると訴えました。

また、この会合とは別にウクライナへの支援を話し合う会合もEU=ヨーロッパ連合の主催で開かれました。

日本を含むおよそ60の国と地域の代表が出席し、ウクライナの貿易環境の改善を支援するとともに、ほかの加盟国への協力を呼びかけることなどをまとめた声明を発表しました。

細田経産副大臣「WTOを前に進めていくことが必要」

多角的貿易体制の課題を話し合う会合のあと取材に応じた細田経済産業副大臣は、「自由で多角的な貿易体制というのは、世界経済の活性化にとって重要であるということで、総論としては各国として支持・強化していこうという議論が大勢を占めていたのではないか。あとは、いかに具体的な形にまとめていくかということだ」と述べました。

そのうえで、ロシアのウクライナ侵攻の影響で食料やエネルギーの価格が高騰し、途上国などで入手しにくい状況となっていることについて、「自由で多角的な貿易体制をしっかりと前に進めないといけない。それに変わるようなシステムはなかなか得難いので、そういう認識のもとで、WTOを前に進めていくということが必要だ」と述べました。

このほか、WTOの閣僚会議が全会一致での合意を原則にしていることについては、細田副大臣は「1つの加盟国でも反対すれば合意ができないという今あるルールは、再検討の余地があるのではないか」と述べました。

WTO事務局長 強い危機感を示す

WTO=世界貿易機関のオコンジョイウェアラ事務局長は12日、ジュネーブの本部で記者会見し「世界はいまだ新型コロナウイルスに対処しているさなかで、ロシアのウクライナ侵攻を受けた食料危機やエネルギー危機も進行中だ。これだけの危機が同時多発的に起きるのはこれまで前例がない」と、強い危機感を示しました。

そのうえで、「大事なことは、どのメンバーもどの国も、単独でこうした危機を解決することはできないということだ」と述べ、今こそ、WTOのような多国間の枠組みが必要だと強調しました。

さらに、WTOが近年、具体的な成果をあげられないでいることについてオコンジョイウェアラ事務局長は「これがほしい、あれがほしいと言い合うのでは交渉の余地がなくなる。こんなことはやめなければならない」と述べ、各国が互いの立場を理解し合って解決策を見いだそうと呼びかけました。

ウクライナ通商代表 ロシアによる“飢餓のゲーム”を批判

WTOの会合の中でウクライナへの支援会合を主催したEU=ヨーロッパ連合のドムブロフスキス上級副委員長がメディアの取材に応じ、「ロシアによる穀物輸出の妨害を一刻も早く解除し、ウクライナの農家がその対価を早く受け取れるよう努力しなければいけない」と述べ、ウクライナの港の封鎖が解除され、少しでも早く穀物の輸出が再開できるよう国際社会に働きかけていく考えを示しました。

また、ウクライナのタラス・カチカ通商代表は、WTO加盟国の連帯に感謝の意を示すとともに、「ロシアによる戦争は、ウクライナで経済を破滅させ、何千もの人々を殺しているというだけでなく、『飢餓のゲーム』を行っているという意味では世界全体にとっても脅威だ」と述べ、ロシアが食料を人質にとり、世界を脅迫していると批判しました。

ウクライナ支援会合で声明

ウクライナへの支援について話し合う会合では声明が発表されました。

声明ではロシアによる軍事侵攻は、世界の貿易に大きな影響を与えているとしたうえで、特にウクライナで生産される農作物や肥料などの供給に与える影響を懸念しているとしています。

こうした影響が、新型コロナウイルスの感染拡大による厳しい状況に加わることになるとして、ウクライナの貿易環境の改善を支援するとともにほかの加盟国への協力を呼びかけるとしています。

官房長官「わが国の利益をしっかり確保していく」

松野官房長官は午前の記者会見で「国際的な危機が生じる中でも多角的貿易体制の中核であるWTO=世界貿易機関が今後もその機能を十分に発揮することが重要だ。今回の閣僚会議でも各国と連携して議論に貢献していくとともに、新たな協定の作成に向けたルール交渉でわが国の利益をしっかり確保していく」と述べました。