ウクライナ 穀物輸出の物流会社 “港からの輸出再開”訴え

ウクライナ南部、オデーサの港を拠点に穀物の輸出などを手がける物流会社は、ロシア軍による侵攻後、オデーサから海上輸送ができなくなっていることから、隣国ルーマニアの港まで陸路で輸送しています。

しかし、燃料の不足や価格高騰の影響もあり、輸出にかかるコストは軍事侵攻前に比べておよそ3倍になっているということです。

また、トラックでの輸送のため運搬できる量が大幅に減り、取引先との契約を守ることが難しくなっているということです。

輸出にかかる仕事が激減するなかで、社員のなかには国内外に避難する人もいて、人数は5分の1に減っているということです。

この物流会社の経営者、ボロディミル・プロツェンコさんは、7月には、ウクライナでは小麦の収穫がピークを迎えるとしたうえで「収穫した小麦を保管できる量は限られているため、輸出が滞ったままだと生産者は畑に残さなければならない」と話し、さらに影響が広がることを懸念していました。

プロツェンコさんは、ルーマニアに関連会社を作って、新たな輸送路の開拓を進めているということですが「戦争が終わらないとビジネスは成り立たない」と話し、オデーサの港からの輸出再開の必要性を訴えていました。

専門家「食料システム 考え方を変える必要ある」

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で、世界の食料安全保障への懸念が高まっていることについて、イギリスの王立国際問題研究所のティム・ベントン調査部長は「今回、食料は戦争の武器として、ロシアが自国への経済制裁を軽減しようと圧力をかけるために、全世界に向けて使用された。特定の国への攻撃ではなく、世界的な武器として食料が使われたのは初めてだ」と述べ、ロシアが黒海に面した港を封鎖し、世界の食料事情を脅かしていると批判しました。

そして、今後の影響について「オデーサでは、穀物を貯蓄する貯蔵庫が満杯となっているため、収穫の時期に収穫できない。ことしだけでなく、来年の供給も問題だ」と述べ、ウクライナからの供給不足が長引くことで、穀物や肥料の価格高騰も当面続くという見方を示しました。

また、ベントン氏は、2010年にロシアやウクライナでの干ばつの影響で穀物の価格が上昇した時を挙げ、現在と状況が似ているとして「当時の価格高騰はその後、30か国以上での暴動につながり、『アラブの春』を引き起こした。またヨーロッパへの移民が増加し、それがヨーロッパでのポピュリズムの台頭にもつながった」と述べ、今後、先進国も含めた世界中で、深刻な影響をもたらす恐れがあると警鐘を鳴らしました。

さらに、ベントン氏は、今後の対策として「地政学的な変化や紛争の増加に対応できるよう、食料システムについて考え方を変える必要がある」と述べ、輸入先の多角化に加え、食品の廃棄や過剰な消費を減らすなど、各国が食料システムを抜本的に見直すことが必要だと指摘しました。