サッカーJリーグ “声出し応援”再開 主なプロスポーツで初

サッカーJリーグは、新型コロナウイルスへの感染対策として禁止してきたスタジアムでの声を出しての応援を11日、茨城県鹿嶋市で行われた公式戦から再開しました。

コロナ禍になって国内の主なプロスポーツで声を出しての応援が行われるのは初めてです。

サッカーのJリーグは、新型コロナウイルスへの飛まつ感染のおそれがあるとしておととし2月以降、スタジアムで声を出して応援することを禁止してきましたが政府の基本的対処方針で会場の収容率を50%とすれば大声を出してのイベントを実施することが認められたことから段階的に再開していくことを先月、決めました。

そして11日、茨城県鹿嶋市のカシマスタジアムで行われたJリーグカップの鹿島アントラーズとアビスパ福岡との試合で、声を出しての応援が再開されました。

会場には9085人の観客が訪れ、このうち、ホームとアウェーのサポーター、およそ1700人が声出し応援を認められました。

ゴール裏の特別なエリアに入り不織布のマスクを着用したうえでピッチの方向を向いて、リズムに合わせてチームや選手の名前を叫んだり、「チャント」と呼ばれる応援歌を歌ったりして、久しぶりに大きな声を出して応援を繰り返しスタジアムの雰囲気を盛り上げていました。

試合はアントラーズは2対1で勝ちましたが、ホームアンドアウェー方式のアウェーゴールの数でアビスパが上回ったため、アビスパが準々決勝に進出しました。

野球やラグビー、それに、バスケットボールなどといった国内の主なプロスポーツで声を出して応援が行われるのはコロナ禍になって初めてです。

野々村チェアマン「元の姿へ 責任感改めて感じた」

試合をスタジアムで観戦したJリーグの野々村芳和チェアマンは「どう言葉で表現していいかわからないぐらい感激して胸が熱くなった。選手の気持ちを考えても、僕自身はぐっとくるものがあった」と振り返りました。

コロナ禍になって国内の主なプロスポーツの中では先陣を切ったことについては「選手のプレーのレベルを上げるという意味でも応援の熱量を選手にどう届けるかというのはすごく大事だ。いろんなスポーツ、エンターテインメントでもお客様の熱量をどうパフォーマーに伝えるかを悩んでいると思うので、元の姿に戻るため着実に進んでいかないといけないという責任感は改めて感じた」と話していました。

そして今後に向けて「まだ第一歩を踏み出したばかりだが声出しエリアは50%でもそのほかは100%のお客様を入れても大丈夫だということをこれから証明していかないといけない。サポーターを含めていろんな人に協力してもらいながら一歩一歩進めていきたい」と話しました。

鹿島アントラーズの小泉文明社長は「この2年以上、経験できなかったので、私も感動したし、選手もその声によって試合に集中でき、よりファイトできたと思う。多くのサポーターが飛び跳ねて大きな声を上げて選手を後押しする姿を見ていろいろな検証しながら早く日常に戻したいという思いがさらに強くなった」と話しました。

そして、「サポーターの方も声を出して応援することがスタジアムに来るだいご味だと言っているので、きょう来ていただいたり、映像を見たりすることでもう一度スタジアムに来たいと思ってくれるサポーターが増えることを願っている。観客の数もコロナで減ってしまったところもあるのでクラブとしても、早く元の姿に戻れるように努力していきたい」と話していました。

“声出し応援”サポーター「うれしくて泣いた」

久しぶりに声を出して応援を行った鹿島アントラーズのサポーターに試合後、話を聞きました。

福井県の46歳の男性は、「うれしくてずっと最初は泣いていた。きょうは声を枯らしにきたし、声出しがあるとやはり気持ちが入るので違うなと感じた。ルールを守った上でずっと続いてほしい」と話していました。

サポーター歴20年という川崎市の女性は、「声で選手の後押しができたのがすごくよかったし、きっと選手にも届いていると思う。これが本当のスタジアムだなと実感したし、みんなルールを守ってやっていたので、ほかのスタジアムも元に戻るといいなと思う」と話していました。

水戸市の23歳の男性は、「Jリーグを感じられてうれしかった。これまで声出し応援でチームを鼓舞したいと思いながらも我慢してきた。自分たちが我慢してきた結果がこうやって再開につながってきたのでよかったと思う。声出し応援の緩和がこれからどの試合でも進むようにルールを守ってがんばりたい」と話していました。

“声出し応援” を選択した背景

Jリーグの野々村チェアマンがことし3月に就任して以降、最も力を入れて進めてきた取り組みの1つが声を出しての応援を再開できる環境を整えることです。

政府の基本的対処方針では大声を出さないイベントは収容定員の100%まで観客を入れることができますが、大声を出すイベントの場合は収容率を50%としなければなりません。

さらに今シーズンのJ1の入場者数は1試合平均で1万2517人と3年前のシーズンと比べて6割程度にとどまっていて、コロナ禍での集客はJリーグでも依然として大きな課題になっています。

それでも野々村チェアマンは、サッカー観戦の大きなだいご味である、声を出しての応援ができる環境を整えられれば長期的にはファンの増加にもつながると考えていて今回、再開に踏み切りました。

これについて野々村チェアマンは「サッカーを作品と考えるとお客様が作ってくれる熱量は重要な要素になる。その作品を見たいから新しいファンが来てくれるという側面もある」などと話しています。

一方で「声を出さずに観客を100%入れたいというJリーグのクラブももしかしたらあるかもしれない。クラブが選択できるような条件をいかにリーグとしてそろえられるかが重要だ」とも話していて試合を主催するクラブ側が声を出しての応援をいずれかを選択できる環境を整えたいという考えも示していました。

不織布マスクなら 飛まつ96~99%抑えられる

Jリーグの調査に協力してきた産業技術総合研究所と慶応大学の奥田知明教授は先月下旬、声出し応援による飛まつの飛び方を調べた結果、不織布のマスクを着用すれば96%から99%まで抑えられることをまとめています。

具体的にはリズムに合わせてチームや選手の名前を大声で叫ぶ「コール」をしたり「チャント」と呼ばれる応援歌を歌ったりした場合、どのくらいの飛まつが拡散するかを実験し、マスクを着けない場合と不織布のマスクを着用した場合、それにウレタン製のマスクを使った場合の3つのパターンで比較しました。

その結果、不織布のマスクを着用するとマスクなしに比べて空気中に飛散する3マイクロメートルから9マイクロメートルの微細な粒子のうち、96%から99%が抑えられたことがわかりました。

ウレタン製のマスクでカットできた粒子はマスクなしと比較して83%から89%だったということです。

奥田教授は「不織布マスクを適切に着ければたとえ大声で応援しても飛まつの量がかなり抑えられることがわかった」としています。

そのうえで「これから暑くなる季節の中で、通気性が悪いとか、熱中症の危険があるとか、飛まつを抑えること以外も考えることが必要だ。いろんな人がそれぞれの知恵を出し合って考えていきたい」と今後の課題についても指摘していました。

“声出し応援” 段階的に導入

Jリーグは11日のカシマスタジアムでの試合以降、声を出しての応援を段階的に導入していくことを決めています。

12日は東京 調布市の味の素スタジアムで行われるJ2のリーグ戦でも11日と同じように最大3000人、声出し応援ができる座席を設けます。

第2段階としては来月上旬に行われる合わせて6試合で最大7000人、声出し応援ができる座席を設けるということです。

来月2日に秋田市のソユーススタジアム、水戸市のケーズデンキスタジアム水戸、それに山形県天童市のNDソフトスタジアム山形でそれぞれ行われるJ2のリーグ戦3試合と、6日にカシマスタジアム、味の素スタジアム、それに横浜市の日産スタジアムで行われるJ1のリーグ戦3試合がその対象になります。

産業技術総合研究所の協力を得て、声出し応援のエリアでの二酸化炭素の濃度の調査なども実施し、試合を適切に運営できるかどうかを検証したうえで8月には希望するクラブが声出しの応援を導入できる環境を整えたいとしています。

声出し応援のルール

Jリーグが定めたガイドラインによりますと、声出し応援の定義は「観客席において通常よりも大きな声量で反復・継続的に声を発すること」とし、得点の時などの一時的な歓声はそれにあたらないとしています。

声出し応援のエリアではリズムに合わせてチームや選手の名前を大声で叫ぶ「コール」をしたり、「チャント」と呼ばれる応援歌を歌ったりできますが、不織布のマスクを着用し、原則、ピッチの方向を向いて声を出さなければならないとしています。

座席の配置は現状では少なくとも前後左右1席ずつ空けなければならず、第1段階の2試合では前後1列、左右1席を空けて収容率25%とし、最大3000人まで入ることができます。

例外的にピッチの方向を向かずに応援することが許されている応援団のコールリーダーについては2メートル四方の距離を確保する必要があるということです。

一方で指笛やトランペットなど飛まつを拡散させるリスクのある応援や、ハイタッチをしたり肩を組んだりして人と接触する応援は依然として禁止されています。

また、声出し応援エリアへの食事やアルコール飲料の持ち込みも禁止されています。