ESG投資の実態は “グリーンウォッシュ”にメス【経済コラム】

環境先進国・ドイツから届いたあるニュースが市場関係者の間で話題になっています。ESG投資をめぐってドイツの金融大手が当局の家宅捜索を受けたというのです。
「グリーンウォッシュ=“名ばかりESG投資”の排除に当局が乗り出したか。いよいよブームから選別の時代だ」。
ある金融機関の幹部はいいます。いったい何が起きているのでしょうか。(経済部記者 加藤ニール)

“グリーンウォッシュ”疑惑に当局動く

5月31日。ドイツ銀行と傘下の資産運用会社・DWSに検察と金融当局が家宅捜索に入ったと、現地メディアが一斉に報じました。
当局が動いた理由はESG投資をめぐる疑惑です。

DWSをめぐっては、元幹部が去年「ESGの取り組みが実際よりも誇張されている」などと告発し、株価が大幅に下落。

会社側は、根拠がないと告発を否定していましたが、捜索の直後、ドイツ銀行が、DWSのCEOの辞任を発表しました。

環境保護をうたいながら、中身を伴っていないという企業の取り組みに対しては、これまで環境団体がたびたび抗議してきました。

ただ、今回、当局が本格的に捜査に乗り出したことに市場関係者の間で驚きが広がりました。

こうした“名ばかりESG”は、グリーンウォッシュ(Greenwash)と呼ばれます。

「うわべだけ」とか「ごまかす」という意味の「Whitewash」に、環境に優しいという意味がある「Green」を組み合わせた造語です。

つまり、「うわべだけの環境対策」「環境に配慮しているようにみせかけて実態は違う」という意味です。

アメリカでも…

グリーンウォッシュをめぐる動きはアメリカでも。

アメリカの証券取引委員会は、5月23日、金融大手のバンク・オブ・ニューヨーク・メロン傘下の資産運用会社に対して、150万ドル、日本円にしておよそ2億円の制裁金を科したと発表しました。
証券取引委員会は、ESG関連の投資の説明で、虚偽の記載や不十分な情報開示があったと指摘。

すべての投資がESG評価を受けているとしていた会社側の説明に対し、実際にはESG評価を受けていないケースがあったと認定したのです。

ESG投資 市場拡大の影で

環境への関心の高まりから、「ESG投資」は拡大を続けています。

その規模は、2020年時点で総額35兆ドル、日本円でおよそ4700兆円にのぼるという調査結果もあります。(世界持続可能投資連合まとめ)

人気を象徴するのが、「グリーニアム」という現象です。

こちらは「グリーン」と、上乗せ価格などを意味する「プレミアム」を組み合わせた造語。

例えば、同じ企業が発行する社債であっても、ESG社債の方が、通常の社債よりも価格が割高となり、投資家が将来に受け取れる利回りは低くなるというものです。

たとえ上乗せ価格を支払う必要があっても、脱炭素などの取り組みにつながるESG社債の方に投資したいという投資家が増えているのです。

今後も市場の拡大が期待される中、実態を伴わないグリーンウォッシュを放置すれば、ESG投資の成長を阻害しかねない。

当局が排除に動き出した背景には、こうした危機感があるとみられます。

実は、日本でも気になる調査結果が。
金融庁がESG投資信託を取り扱う資産運用会社37社に調査を行ったところ、30%にあたる会社が「ESGの専門部署を設置していない」と回答しました。

また38%が「専門の人材がいない」と回答。

およそ3割の会社でESG投資のための態勢が整っていない実態が浮き彫りになりました。

ESG市場は成熟へ向かうか

こうした中、各国では、ESGの基準づくりや監督強化に乗り出しています。

EUは去年3月、資産運用会社に投資先のESG情報の開示を求める開示規則の適用を開始したほか、アメリカもESGの情報開示を強化する統一基準の導入を目指しています。

日本でもESG市場への信頼を向上させるため、今年度末をメドに運用会社の情報開示や顧客への説明などについて、監督指針をまとめるなど、必要な措置をとることにしています。

ESG投資は、脱炭素の分野であれば、温室効果ガスの削減効果の測定や情報開示など、手間やコストもかかり、専門知識も求められます。

市場関係者からは「エコやグリーンといった言葉が飛び交い、玉石混交だという指摘もあるだけに、真面目に取り組む事業者からすれば、グリーンウォッシュの排除は歓迎だ」という声も聞かれます。

投資のリターンだけではなく、環境保全や社会の変革などにもつなげようというESG投資。

一時的なブームに終わらせないためには、市場のとしての信頼をどう築き上げ、安心して投資できる環境を整備していくかがカギになりそうです。

注目予定

各国で金融政策を決める中央銀行の会合が相次ぎます。

注目は日本時間で16日未明のFOMC=連邦公開市場委員会の声明文公表とFRB・パウエル議長の会見。

今回と7月の会合で0.5%の大幅な利上げが行われるという観測が強まっていますが、記録的なインフレが続く中、市場の関心は9月以降もこの利上げのペースが続くのかに集まります。

16日から17日は日銀の金融政策決定会合。

物価上昇や再燃した円安をめぐる黒田総裁の発言が注目されます。