外国人観光客の受け入れ あす再開 ガイド確保に動く会社も

外国人観光客の受け入れが10日から再開されるのを前に、観光関連の人材派遣会社は、新型コロナの影響で通訳もできる専門のガイドが転職したケースもあるため、スタッフの確保に動き出しています。

10日から98の国と地域を対象に、添乗員付きのツアー客に限定して外国人観光客の受け入れが再開されます。

これを前に観光関連の人材派遣会社では、語学力を備え日本の歴史や文化を学んだ国家資格の観光ガイド「全国通訳案内士」のニーズが高まると見込んで、人材の確保に動き出しています。

新型コロナの感染拡大のあと仕事が大きく減った影響で別の仕事を始めた通訳案内士も多く、今ツアーに同行できるのはこの会社に登録している70人のうち半数程度になっているということで、先月下旬から担当者が登録者への問い合わせや新たな希望者の面接を進めています。
広島市に本社がある人材派遣会社「エスティーエス」東京営業所の森康之所長は「会社としては通訳案内士の確保を一からやる必要があり大変ですが、受け入れ再開はうれしい知らせです」と話していました。

一方、国のガイドラインでは、添乗員がツアー客にマスクの着用や3密を避けることを呼びかけることになっていて、森所長は「コロナ前はホスピタリティに集中してツアーを運営していましたが、コロナ対策を徹底しなければいけないので、負担が大きいと感じます」と不安ものぞかせていました。

大阪 道頓堀の串カツ店では期待の声

外国人観光客の受け入れが10日に再開されることについて、大阪 道頓堀の串カツ店では期待の声が聞かれました。

「串かつだるま道頓堀店」では、去年の売り上げがコロナ前のおよそ4割に落ち込みましたが、ことし5月の大型連休の売り上げは9割近くにまで回復しているということです。

10日から始まる外国人観光客の受け入れ再開がさらなる追い風になると期待しています。

以前はソースをバットに入れて提供していましたが、今は個別にボトルで提供していて、10日から店頭に出す外国語のメニューはこうした変化を反映したものに作り替える方針です。

店では、引き続き定期的な換気や入店時のアルコール消毒など感染対策を徹底して受け入れを進めたいとしています。

串かつだるま道頓堀店の中嶋隆晴店長は「売り上げはだいぶ回復したものの、インバウンドの全盛期に比べたらまだまだです。外国人観光客の方が来られると店も活気づくのでぜひともドンドン受け入れていきたいです」と話していました。

北海道 釧路「アドベンチャートラベル」を柱に

外国人観光客の受け入れが10日、およそ2年ぶりに再開されるのを前に、北海道東部の観光地では、感染の収束後を見据えて体験型の「アドベンチャートラベル」を柱に受け入れの準備を進めています。

阿寒湖などがある北海道東部で有数の観光地・釧路市の阿寒地区を訪れた外国人の宿泊客は、市によりますと、新型コロナの感染拡大前の平成30年度には11万人を超えていましたが、昨年度はわずか36人に落ち込みました。

釧路市は外国人を呼び戻そうと、感染の収束後を見据えて「アドベンチャートラベル」を柱にして準備を進めています。

「アドベンチャートラベル」は、登山や釣り、それにスキーなどを通じて自然や文化に触れる体験型の観光で、特に欧米の富裕層に人気があります。

アドベンチャートラベルの推進員に任命された地域おこし協力隊の若者2人が、主にオンラインで豊かな自然のPRや体験型観光の提案に取り組んできました。

来年9月には北海道でアドベンチャートラベルの世界規模の商談会が開かれることが決まっていて、道や釧路市は地域経済復活の切り札にしたい考えです。

アドベンチャートラベル推進員の1人、大川彩果さんは「これまでは主にオンラインで情報を海外に発信してきたが、実際に来てもらえないもどかしさがあった。海外での道東の認知度はまだ低いので、いろいろな国の方に足を運んでもらいたい」と話していました。

また、香港出身のアドベンチャートラベル推進員、アーネスト・モクさんは「道東は普通の外国人が想像する日本とは違うので新たな発見があると思う。アドベンチャートラベルは従来のパッケージツアーと違って選択肢が多く、オーダーメイドに近いので、参加者の生の声を聞いて改善していきたい」と話していました。

旅行会社“本格的な需要回復には時間かかる”

東アジアからのツアーを企画する東京の旅行会社は、外国人観光客の受け入れ再開を歓迎する一方、現地でのビザの取得など従来なかった手続きが求められるため、本格的な観光需要の回復には時間がかかるとみています。

東京 千代田区にある旅行会社「ATS Tour」では8日、朝倉英二社長が韓国にいるスタッフとオンラインで情報交換を行っていました。

今後ツアーで日本を訪れるためには、どの国や地域からでもことし日本政府が整備した「ERFS」=入国者健康確認システムに、10日以降、名前や住所、メールアドレスなどを登録することや、現地でビザを取得することが求められます。

この会社にも韓国の旅行会社から問い合わせが多く来ていますが、旅行の相談よりも手続きについての実務的な質問が多いということです。

韓国に滞在するスタッフは「距離が近く医療体制が整っているので、日本に旅行したい人は多いです。しかし、ビザの取得を煩わしく思う人も多く、すぐに行きたいという会社と様子を見ている会社が半々くらいです。手続きの簡素化に期待したことしの秋ごろや来年の問い合わせもあります」と話していました。

またツアーで体調が悪い人が出ると、旅行会社などが医療機関で受診させ、陽性の場合は健康観察や食事の支援を行うことが求められています。

朝倉社長は「受け入れ再開は率直にうれしいですが、陽性者が出ることをいちばん恐れています。どこの病院に搬送するかなど、起こってみてから添乗員と連絡を取って指示することになります。宿泊施設や立ち寄る場所は感染対策がしっかりできているか確認も必要です」と話していました。

ゲストハウス “制限の緩和に期待”

10日から受け入れが再開される外国人観光客は、添乗員付きのツアー客に限られるため、個人の旅行者が利用する宿泊施設からは制限の緩和を求める声が上がっています。

東京 台東区にあるゲストハウスは浅草や上野に近く、新型コロナの感染拡大前は欧米からの観光客を中心に年間およそ1万人が利用し、宿泊客どうしの交流も盛んでした。

感染拡大の影響で2年以上休業を余儀なくされましたが、10日からの外国人観光客の受け入れ再開を前に、インターネット予約の受付を再開したほか、掃除をしたりシーツを取り替えたりするなど、営業再開の準備を始めました。

この施設にはまた宿泊したいという連絡も多く寄せられているということですが、当面受け入れる外国人観光客は添乗員付きのツアー客に限定されるため、予約はまだ1件も入っていません。
「Hostel Bedgasm」のオーナー、原野真一郎さんは、ツアー客以外も日本を訪れることができるよう制限の緩和に期待していて、「ゲストハウスは個人で利用する人がほとんどなので、いつ元の状態に戻れるか不安です。同じような施設で廃業したという話もよく聞きますが、自分たちのような小さな施設が残って、受け入れる態勢を守るのが日本の観光のために大事だと思います」と話していました。