北方四島周辺での「安全操業」 協定の履行を停止 ロシア外務省

ロシアの外務省は7日、日本の漁船に北方四島周辺でのいわゆる「安全操業」を認める協定の履行を停止すると発表しました。
日ロ関係の一段の悪化につながりそうです。

北方四島の周辺海域で行われる「安全操業」は、ロシア当局による拿捕(だほ)などを避けるため、1998年に結ばれた日ロ両政府間の協定に基づき、期間や漁獲量、協力金などを毎年交渉で決めたうえで行われています。

これについてロシア外務省のザハロワ報道官は7日、声明を発表し「日本政府はこの協定が機能するために不可欠なサハリン州に対する無償の技術支援の提供に関する文書への署名を遅らせ、協定に基づく支払いを『凍結』する方針をとった」などと一方的に非難しました。

そして「日本側がすべての財政的な義務を果たすまで1998年の協定の履行を停止する決定を下さざるをえない」と通告しました。

安全操業は例年、スケソウダラやホッケ、それにタコなどが漁の対象となってきました。

ウクライナへの軍事侵攻のあとロシア政府は、ロシアに対して制裁措置をとる「非友好的な国と地域」に日本を含め、3月には北方領土問題を含む日本との平和条約交渉を中断する意向を表明しました。

安全操業をめぐる今回の発表が、日ロ関係の一段の悪化につながりそうです。

外務省「一方的に協定の履行停止を発表したことは遺憾」

外務省は、NHKの取材に対し「ロシアが、サハリン州との協力事業を協定実施の前提条件であるかのようにして一方的に協定の履行の停止を発表したことは遺憾だ。政府としては、引き続き協定のもとで日本側が操業を行えるようロシア側と協議を行っていく考えだ」としています。

官房長官「協定のもとで操業行われるよう協議行う」

松野官房長官は、一方的な協定の履行停止は遺憾だとして、協定のもとで操業できるようロシア側と協議する考えを示しました。

松野官房長官は午前の記者会見で「ロシア側が、サハリン州との協力事業を協定実施の前提条件であるかのように結び付け、一方的に協定の履行停止を主張し、発表したことは遺憾だ」と述べました。

そのうえで「引き続き、協定のもとで操業が行われるようロシア側と協議を行っていく。まず第1に、漁業関係者の操業の安全を確保するために全力を尽くしたい」と述べました。

水産庁「事実関係を確認中」

ロシア外務省が北方四島周辺で行ういわゆる「安全操業」をめぐって日本側との協定の履行を中断すると発表したことについて、水産庁は「現在、外務省を通じて事実関係を確認中だ」としています。

北海道の漁業者の反応

ことし1月から3月にかけての安全操業で、北方領土の国後島周辺でスケソウダラの刺し網漁に参加した北海道羅臼町の漁業者は「もう少し、詳しいことが分かれば、言えることがあるかもしれないが、今は何も言えません」と戸惑った様子で話していました。

また安全操業でホッケ漁をしている羅臼町の別の漁業者は、NHKの取材に対し「貝殻島周辺のコンブ漁の日ロ交渉が妥結したので、もしかしたら大丈夫かもと思ったが、やはりだめだった。漁に行けるなら行きたかった。代わりに羅臼側の海で漁をするにしても、使う資材が安全操業とは異なるので準備をしなければならない」と話していました。

さらに、安全操業のタコ漁を行う漁業者が所属している根室市の落石漁協の庄林満組合長は「ことしは安全操業がどうなっていくか、簡単には決まらないのではないかとは思っていた。漁ができなければ、水揚げの減少にもつながるので漁業者も落胆すると思う。とにかく政府とロシアの交渉を見守っていくしかない」と話していました。

ことしの安全操業のタコ漁には、根室市の落石漁協から4隻、根室漁協と、歯舞漁協からそれぞれ2隻の合わせて8隻が出漁を予定しています。

「漁業交渉」ウクライナ侵攻影響受け大幅に遅れる

協定に基づいて日本とロシアの間で行われている「漁業交渉」は、「安全操業」をめぐる交渉を含めて4つあり、このうち2つはすでに妥結しました。

しかし、いずれの交渉もロシアによるウクライナ侵攻の影響を受けて大幅に遅れました。

このうちの1つが、北海道東部の太平洋の沖合でシロザケやカラフトマスを漁獲する量や時期などを決める、サケ・マス漁業交渉です。

交渉が遅れた結果、例年の解禁日、4月10日には間に合わず、3週間余り遅れた先月3日から操業が始まりました。

もう1つは、北方四島の歯舞群島の一部、貝殻島周辺で行うコンブ漁の条件を決める貝殻島コンブ交渉です。

こちらもことしの交渉は遅れ、今月3日に妥結しましたが、例年解禁されている6月1日には間に合いませんでした。

北海道水産会によりますと、今月中旬以降の操業開始を予定しています。

このほか例年12月には、北方四島の周辺海域での安全操業に関する交渉と日ロ双方の排他的経済水域での操業条件を決める「日ロ地先(じさき)沖合漁業交渉」もあり、日ロ関係が悪化する中、漁業関係者の間では影響を懸念する声が出ていました。

「安全操業」とは

北方四島の周辺海域の「安全操業」は、日本とロシア政府との協定に基づいて、合意した操業条件を守ることを前提に、拿捕される心配なく「安全」に行うことができるという枠組みです。

北方四島の周辺海域では、1990年代までロシア側による日本漁船の拿捕事件が相次ぎ、これを受けて平成10年(1998年)に日ロ政府間で協定が結ばれました。

安全操業はこの協定に基づいて、日本の漁業者が資源保護を目的にロシア側に協力金を支払って行われています。

操業海域は国後島の北側と歯舞群島の南側などの海域で、主に北海道根室市と羅臼町の漁業者がスケソウダラやホッケ、タコなどをとっています。

操業の条件は毎年の交渉で決められ、ことしの漁獲量は去年12月の交渉の結果、スケソウダラが955トン、ホッケが777トン、タコが213トンなどとなっています。

また、ことしは協力金などとして合わせて4240万円をロシア側に支払うことで合意していました。

操業するのは四島周辺の海域ですが「いずれの政府の立場も害さない」ことを取り決め、日ロの主権を棚上げする形で行われています。

しかし、2019年には、根室漁協などの漁船5隻が拿捕されて、国後島に連行されたほか、羅臼漁協の漁船2隻が書類の不備で罰金を要求されるなど、近年はロシア側の監視が強まり、漁業関係者からは漁の安全を懸念する声が上がっていました。