【詳しく】原発攻撃の衝撃 日本はどうする 研究の最前線を取材

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻では、稼働中の原子力発電所が武力攻撃を受けるという、かつてない事態に見舞われました。
原子力施設への攻撃のリスクにどう対応していけばいいのか。
担当記者が研究の最前線に初めて“潜入”。衝撃的な映像が存在することをつきとめました。
そして世界では新たな議論も始まっています。

(科学文化部記者 長谷川拓/藤岡信介)

ザポリージャ原発では…

ロシア軍に攻撃されたウクライナのザポリージャ原発。

攻撃からおよそ3か月たった今もロシア軍による掌握が続いています。
敷地内には500人以上の兵士や軍用車両が配置され、爆発物も置いてあるといいます。

ウクライナ原子力発電公社のペトロ・コティン総裁代理は「ロシア軍は管理棟などを攻撃し完全に破壊した。このような行動は核の大惨事につながるおそれがある」と危機感をあらわにしました。
今回の攻撃には、どのようなリスクがあったのでしょうか?

防衛省防衛研究所の一政祐行主任研究官が当時の映像を分析し、一歩間違えば原子炉などが壊れ、放射性物質が漏れ出しかねない深刻な事態だったと指摘しています。

「車両を連ねた部隊が非常に強い火力支援を受けながら内部まで侵攻してくる。今までの想定を超えた軍事侵攻としての側面だと思います」
それまで原発への攻撃として想定されていたのは「テロ」。

今回のように軍隊による組織的な攻撃に対しては守るすべがなかったといいます。

ザポリージャ原発は、想定を超える攻撃に見舞われたものの、今のところ原子炉に被害はありません。

日本での想定は

もし国内の原子炉が外部から攻撃されたらどうなるのでしょうか?

その事態を想定した実験が、日本で唯一の原子力に関する研究機関「日本原子力研究開発機構」で行われていることをつきとめました。

研究の最前線の現場にカメラが入るのは初めてです。
行われていた実験は、「原子炉を狙った航空機による衝突」を想定したもので、航空機に見立てた筒を、時速およそ200キロから700キロで衝突させ、壁や内部にある機器への影響を調べます。
鉄製の筒をぶつけ壁の損傷度合いや振動などのデータを収集。

さらに、壁の厚さや筒の強度を変えて実験し、原発の安全対策に役立てるのが目的です。
日本原子力研究開発機構の西田明美副ディビジョン長は「いろんな条件に対応した解析、評価ができていくということをできれば。将来的にはガイドラインなどにまとめて、広く使っていただけるようにできればと思っています」と話しています。

想定は「テロ」武力攻撃は…

ただ、この研究はあくまでテロによる攻撃を想定したものです。

航空機による衝突などは、原子力規制委員会が電力会社に対策をとるよう求めています。

一方、ウクライナで起きたような武力攻撃は、テロの範囲を超え「防衛」の問題となるため、原子力の安全規制では対応できないというのが国の立場です。

5月30日の参院予算委員会で原子力規制委員会・更田豊志委員長は「規制基準において、武力攻撃に備えることは現在要求しておりませんし、また今後も要求することは考えておりません」と答弁しています。

世界では新たな論議も

こうした中、いま世界では原発の安全性をめぐって、新たな議論も始まっています。

アメリカのシンクタンク・「核脅威イニシアチブ(NTI)」では原発のテロ対策などを評価し、政府への提言を行っています。
武力攻撃への対応はこれまで評価には含まれていませんでしたが、スコット・ローカー副代表は、「ウクライナの軍事侵攻は、私たちの評価に大きく影響する。原子力施設への攻撃における国際的な規範についても検討していく」と述べ今後は、その基準を見直す可能性があるとしています。

どう対応していけばいいのか

今後、原発への攻撃という新たなリスクにどう対応していけばいいのでしょうか。

原子力規制庁元幹部の長岡技術科学大学 山形浩史教授は「攻撃に対してできるだけ被害を抑える有効な方法は、国の命令で原発を緊急停止させること。緊急停止の手順や誰が対応するのかなど、日頃から国や電力会社、自衛隊などが連携して訓練を行い、備えておくべき」と指摘しています。
一方、原発に批判的な立場から政策提言を行っているNPO法人の原子力資料情報室 松久保肇事務局長は、「攻撃対象になり得る原発がある中で、周辺住民にリスクを負わせるのかという話になる。原発を使い続けるのか、皆で議論しなければならない」としています。

国は、「原子力を最大限活用する」姿勢を示しています。

今後、原発の安全性をめぐる議論もさらに深めていく必要があると思います。