「あの日の僕」を助けたくて

親との関係に苦しみ、昼夜逆転の暮らしをしていたという少年。
生活のために働き、高校には5時間目から登校したそうです。
「誰にも頼れず」「居場所がなかった」という彼が23歳になった今、向き合っている現実とは。
生活のために働き、高校には5時間目から登校したそうです。
「誰にも頼れず」「居場所がなかった」という彼が23歳になった今、向き合っている現実とは。
「あなたの”孤独”体験を教えてください 投稿はこちらから」
子どものころのつらい経験を語る
ことし3月のある日、大空さんは都内の学習・生活支援施設で講演をしていました。聞いているのは、不登校やいじめを経験するなどして生きづらさを抱えている若者たちです。
NPO法人「あなたのいばしょ」代表 大空幸星さん
「悩みがある時、友達とか家族に相談しづらいことっていっぱいあると思う。うちの相談窓口はチャットで話せるから、スマホで夜中の2時でも3時でも『しんどいです』ってやれば、相談員につながる。もし周りに相談したいなという人がいたら、こういうのがあるよって広めてもらえたらうれしいなと思います」
「悩みがある時、友達とか家族に相談しづらいことっていっぱいあると思う。うちの相談窓口はチャットで話せるから、スマホで夜中の2時でも3時でも『しんどいです』ってやれば、相談員につながる。もし周りに相談したいなという人がいたら、こういうのがあるよって広めてもらえたらうれしいなと思います」
1人の子どもが質問しました。
「今まででいちばんつらかったことは?」
「今まででいちばんつらかったことは?」

大空幸星さん
「僕ね、これまで死にたいと思ったことが2回あるんですよ。小学生と高校生の時。小学生は6年生のときなんだけど、ずっとひとり親で父親しかいなかった」
「父親がめちゃくちゃ嫌なやつだったの。それで生活が昼夜逆転して、みんなが学校に行くときに寝て、帰る時に起きてた。それやってると学校行けなくなっちゃうの。経験ある子いるかもしれないけど」
「小学生のときとかちょっとでも休むと勉強ついていけなくなっちゃうじゃん。本当に勉強ができなかった。それがしんどかった」
「僕ね、これまで死にたいと思ったことが2回あるんですよ。小学生と高校生の時。小学生は6年生のときなんだけど、ずっとひとり親で父親しかいなかった」
「父親がめちゃくちゃ嫌なやつだったの。それで生活が昼夜逆転して、みんなが学校に行くときに寝て、帰る時に起きてた。それやってると学校行けなくなっちゃうの。経験ある子いるかもしれないけど」
「小学生のときとかちょっとでも休むと勉強ついていけなくなっちゃうじゃん。本当に勉強ができなかった。それがしんどかった」
当時、父親は暴力を振るうこともあったそうです。
その後、母親の元で暮らすようになったものの収入がほとんどなく、高校生の頃はアルバイトを掛け持ちして生活費や学費を稼いでいたといいます。
その後、母親の元で暮らすようになったものの収入がほとんどなく、高校生の頃はアルバイトを掛け持ちして生活費や学費を稼いでいたといいます。
『よく来たな』と声をかけてくれた先生
唯一、支えとなったのは高校3年のとき、担任の先生との出会いでした。

大空幸星さん
「高校生のときはいろんなバイトしてたので、学校行けるのが5時間目とかだった。周りのみんなは普通の高校生活してて、でも自分だけ5時間目に来てるっていうすごいギャップ。働いている時と、高校生の自分のギャップに苦しんだんだけど、担任が『よく来たな』って言ってくれる先生だったの。僕の場合は。その先生がすごい助けてくれた」
「1回『死にたいと思ってます』ってメールしたら、すぐ家に駆けつけてくれて。先生がいたから、助かっている。今がある。3年生で先生と出会ってからちょっと余裕ができて、勉強ができるようになって」
「高校生のときはいろんなバイトしてたので、学校行けるのが5時間目とかだった。周りのみんなは普通の高校生活してて、でも自分だけ5時間目に来てるっていうすごいギャップ。働いている時と、高校生の自分のギャップに苦しんだんだけど、担任が『よく来たな』って言ってくれる先生だったの。僕の場合は。その先生がすごい助けてくれた」
「1回『死にたいと思ってます』ってメールしたら、すぐ家に駆けつけてくれて。先生がいたから、助かっている。今がある。3年生で先生と出会ってからちょっと余裕ができて、勉強ができるようになって」
その後、猛勉強して大学に進学。大学在学中の2020年3月、悩み相談にチャットで応じる相談窓口「あなたのいばしょ」を作りました。
かつて誰にも頼れなかった自分と同じように、孤独を感じている人に居場所を作りたい。
そんな思いからでした。
かつて誰にも頼れなかった自分と同じように、孤独を感じている人に居場所を作りたい。
そんな思いからでした。
チャット相談窓口「あなたのいばしょ」
・24時間体制で応じるチャットの相談窓口
・チャットは匿名で書き込むことができ、無料
・相談員はボランティア
・深夜の相談には時差を利用して海外在住の人が対応
・24時間体制で応じるチャットの相談窓口
・チャットは匿名で書き込むことができ、無料
・相談員はボランティア
・深夜の相談には時差を利用して海外在住の人が対応
“話したいときは今” そのセーフティーネットに
講演で大空さんは問いかけました。
大空さん
「学校にスクールカウンセラーさんっているでしょ。相談できる?相談のカードとかもらうじゃん。電話番号にかける?」
参加者
「ーーない!」
「学校にスクールカウンセラーさんっているでしょ。相談できる?相談のカードとかもらうじゃん。電話番号にかける?」
参加者
「ーーない!」

大空さん
「スクールカウンセラーさんの予約って担任の先生経由だったりする。そしたら自分がしんどい時に、担任の先生に『カウンセラーさん予約してください』って言って、週に1回しか来ないから『1週間後に来て』って言われて、対面で話すと。どうしても拾いきれないところがある」
「僕らの役割は救急車をイメージしてほしいんです。救急車で手術はしない。手術はしないけど、病院に運ぶまでに話を聞いて、肯定する。そして継続的な相談は児童相談所などにつないでいく。それぞれに役割があって(「あなたのいばしょ」は)話したいのは今っていう時、しんどい時、誰にも話せない時のセーフティネットかなと」
「スクールカウンセラーさんの予約って担任の先生経由だったりする。そしたら自分がしんどい時に、担任の先生に『カウンセラーさん予約してください』って言って、週に1回しか来ないから『1週間後に来て』って言われて、対面で話すと。どうしても拾いきれないところがある」
「僕らの役割は救急車をイメージしてほしいんです。救急車で手術はしない。手術はしないけど、病院に運ぶまでに話を聞いて、肯定する。そして継続的な相談は児童相談所などにつないでいく。それぞれに役割があって(「あなたのいばしょ」は)話したいのは今っていう時、しんどい時、誰にも話せない時のセーフティネットかなと」
膨れ上がる相談の陰で…頼れない若者がいる
「あなたのいばしょ」に寄せられた相談は昨年度、約25万件。前の年度の7倍に急増しました。年代別では10代と20代が全体のおよそ6割。新学期の前などは、その割合がさらに高くなるそうです。
それだけ1人で悩んでいる若者は多いと大空さんは考えています。
それだけ1人で悩んでいる若者は多いと大空さんは考えています。
大空幸星さん
「われわれは“望まない孤独”と呼んでいますけど、周りに人がいたとしてもなかなか頼れずに、1人で悩み苦しんでいる。相談件数の増加は、そういう状況を示しているんだと思います。日本では誰かに相談するのは恥ずかしいとか、負けであるといったらく印が押されてしまう。それは大人だけでなくて子どもたちまで広がっている」
「“望まない孤独”を乗り越えるためには、誰かとつながるしかありません。誰かに頼るのは決して恥ずかしいことでも負けでもないので、どうか周りに頼っていくということを知ってほしい」
「われわれは“望まない孤独”と呼んでいますけど、周りに人がいたとしてもなかなか頼れずに、1人で悩み苦しんでいる。相談件数の増加は、そういう状況を示しているんだと思います。日本では誰かに相談するのは恥ずかしいとか、負けであるといったらく印が押されてしまう。それは大人だけでなくて子どもたちまで広がっている」
「“望まない孤独”を乗り越えるためには、誰かとつながるしかありません。誰かに頼るのは決して恥ずかしいことでも負けでもないので、どうか周りに頼っていくということを知ってほしい」
国を動かしたい 視線の先にあるもの
大空さんは今、国に対して孤独対策をするようさまざまな働きかけをしています。
それは、自分1人が頑張っても悩める若者すべてには対応できないという思いからです。
それは、自分1人が頑張っても悩める若者すべてには対応できないという思いからです。

大空幸星さん
「どれだけ相談窓口を拡充しても追いつかない、間に合わない。いたちごっこのような状況がコロナ禍でさらに加速しました。死にたいという気持ちを抱えない、慢性的な孤独に陥らないようにする状況を地域の中に作らないといけない。政治は社会を変えるためのいちばん近道なんです」
「どれだけ相談窓口を拡充しても追いつかない、間に合わない。いたちごっこのような状況がコロナ禍でさらに加速しました。死にたいという気持ちを抱えない、慢性的な孤独に陥らないようにする状況を地域の中に作らないといけない。政治は社会を変えるためのいちばん近道なんです」
ことし4月には委員として関わった国の孤独に関する実態調査の結果が公表されました。分かったのは、若い世代のほうが中高年よりも孤独を感じている人の割合が高いということ。
「孤独感が常にある」「時々ある」
▼10代 36.4%
▼20代 51.3%
▼30代 53.7%
▼40代 49.5%
▼50代 47.5%
▼60代 39.3%
▼70代 32.6%
(内閣官房「人々のつながりに関する基礎調査」より)
▼10代 36.4%
▼20代 51.3%
▼30代 53.7%
▼40代 49.5%
▼50代 47.5%
▼60代 39.3%
▼70代 32.6%
(内閣官房「人々のつながりに関する基礎調査」より)
さらに「孤独感が常にある」人の8割が「行政やNPOの支援は受けていない」と回答しました。相談の現場で感じていた“望まない孤独”に耐えている若者の存在が、調査からも見えてきたのです。
かつて家庭の事情で学校に行くことができなくなり、ぎりぎりまで追い詰められた少年。
大学生になり、同じように“望まない孤独”に苦しむ人の声を聞こうと始めた活動は、次の段階に進もうとしています。
かつて家庭の事情で学校に行くことができなくなり、ぎりぎりまで追い詰められた少年。
大学生になり、同じように“望まない孤独”に苦しむ人の声を聞こうと始めた活動は、次の段階に進もうとしています。

大空幸星さん
「これまで現役の大学生が国の委員をやったり、実態把握に関わっていたりっていうのは、たぶんなかったと思うんですよね。孤独・孤立対策では、あえて僕みたいなのが入れたということなので。その僕がやらなきゃいけないことって、これまでとは違ったアプローチで、違った観点を政策の中に入れていくことだと思うんです」
「今回の調査でいちばん分かったことは、若者が孤独感を感じているということに尽きる。日本では孤独死の問題があるので、孤独の問題イコール高齢者というイメージがあって、対策も高齢者を重視しがちだった。若者にも目を向けて、若者のニーズに合った政策を打っていくことが改めて必要だと感じています」
「これまで現役の大学生が国の委員をやったり、実態把握に関わっていたりっていうのは、たぶんなかったと思うんですよね。孤独・孤立対策では、あえて僕みたいなのが入れたということなので。その僕がやらなきゃいけないことって、これまでとは違ったアプローチで、違った観点を政策の中に入れていくことだと思うんです」
「今回の調査でいちばん分かったことは、若者が孤独感を感じているということに尽きる。日本では孤独死の問題があるので、孤独の問題イコール高齢者というイメージがあって、対策も高齢者を重視しがちだった。若者にも目を向けて、若者のニーズに合った政策を打っていくことが改めて必要だと感じています」
(報道番組センターディレクター 布浦利永子 ネットワーク報道部記者 秋元宏美)
厚生労働省「まもろうよ こころ」
(NHKのサイトを離れます)