中国 上海 外出制限を事実上解除 経済活動の早期正常化が課題

中国最大の経済都市 上海では、新型コロナウイルスの感染対策で2か月余り続いてきた厳しい外出制限が6月1日、事実上解除されました。
一方、長期間にわたる制限で経済に打撃が広がっていて、習近平指導部が感染を徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策を堅持する中、経済活動を早期に正常化できるかが課題になります。

中国最大の経済都市 上海では、新型コロナウイルスの感染対策で厳しい外出制限が2か月余り続きましたが、上海市当局は、感染を抑え込んだとして、最近感染者が確認された一部の地区を除いて、6月1日から外出を認めています。

これにより、全市民のおよそ9割に当たる2200万人余りの住民の外出が認められるなど、外出制限は事実上解除されました。

上海西部にある日本人が多く住む地域では1日、職場に出勤する人たちの姿が見られたほか、商業施設には多くの人が買い物に訪れ、広場でもボール遊びなどを行う親子連れでにぎわっていました。

一方、上海をはじめ国内各地で行われた厳しい感染対策が、個人消費の落ち込みや工場の操業停止につながり、中国経済には打撃が広がっています。

さらに日本の自動車メーカーでは、物流の混乱が広がるなどして部品の供給が滞ったことで、中国国内だけでなく日本でも生産に影響が及んでいます。

上海市当局は、企業の生産や商業施設の営業を全面的に再開させる方針を示し、中国政府も景気対策に力を入れる姿勢を強調しています。

しかし、習近平指導部が感染を徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策を堅持する中、感染が再拡大すれば厳しい対策がとられるとみられていて、経済活動を早期に正常化できるかが課題になります。

北京でも徐々に緩和

新型コロナウイルスの感染拡大への警戒が強まっていた首都 北京でも、感染者が減少傾向にあることから厳しい感染対策が徐々に緩和されています。

北京では、ことし4月下旬以降、感染者が増え始め、市の当局は、実際に感染者が確認された住宅地を封鎖したり、感染者の多い地区では在宅勤務の徹底を求めたりするなどの感染対策をとってきました。

こうした中、北京ではこのところ感染者の減少傾向が続いていて、5月31日に確認された感染者は、10人余りにとどまっています。

市の当局は感染対策を徐々に緩和していて、このうち、日系企業も多い市内中心部の朝陽区では、今週に入って通常どおり勤務することを認めたほか、封鎖されていた公園が使えるようになったり、大規模な商業施設が営業を再開したりしています。

また、地下鉄の駅の封鎖や路線バスの運行停止も解除され始めています。

ただ、店内での飲食は引き続き市内全域で禁止されているほか、公共の場所への出入りや地下鉄やバスの利用には、PCR検査の陰性証明の提示を求めるなどの対策が続けられています。

上海 沖縄料理店では

上海では外出制限が事実上解除された一方で、6月1日の段階では、まだ飲食店の店内での飲食は認められていませんが、市内にある飲食店では今後の営業再開に向けて準備が進められていました。

このうち、日本人が多く住む西部の地域で沖縄料理の店を経営している西原圭佑さん(34)は、厳しい外出制限が始まって以降、およそ2か月ぶりに店を訪れました。
そして、今後の営業再開に向けて、中国人の従業員とともにテーブルや酒の瓶を拭くなど準備を進めていました。

ただ、冷蔵庫に保存していた食材や調味料はほとんど処分せざるを得なくなっていたほか、南国をイメージして店の入り口に飾っていた観葉植物は、多くが枯れてしまっていました。

当局から店内での飲食の許可が出ない中、当面は出前の注文を受けながら売り上げを確保していくということです。
西原さんは、「この2か月間、売り上げが全くない中、家賃や従業員の給料を支払わなければならず、不安しかありません。ただ、後ろばかり見ていてもしかたがないので、できることは何でもやって店と従業員を守っていきたいです」と話していました。

PCR検査に長蛇の列

上海では、外出制限が事実上解除されましたが、地下鉄や路線バスを利用したり公共施設に入ったりする際には、72時間以内のPCR検査の陰性証明が求められていて、街なかでは、6月1日も多くの人が検査を受けていました。

上海市当局によりますと、市民が自宅などから歩いて15分以内の場所で検査を受けられるよう、検査場をおよそ1万5000か所設置しているということですが、1日は市内各地で多くの人が検査を求めて長蛇の列ができていました。

また、スーパーに入る際にもPCR検査の陰性証明が必要とされ、訪れた客が係員に検査の結果などを示したうえで買い物を行っていました。

このほか、商業施設の広場は、多くの親子連れなどでにぎわい、訪れた人がボール遊びをしたり、芝生の上でリラックスしたりして思い思いに自由な外出を楽しんでいました。

上海 日系の物流会社では

上海の外出制限などの影響で打撃を受けた景気を回復させるうえでは、生産の再開や物流の混乱の解消を速やかに進められるかどうかがカギになります。

中国では、4月の消費の動向を示す指標が去年の同じ月と比べて11%余りの大幅な減少となったほか、工業生産も2年1か月ぶりにマイナスに転じました。

物流にも混乱が広がり、部品メーカーが集積する上海周辺の地域でも貨物トラックの通行に支障が生じたほか、コンテナの取扱量で世界最大の港、上海港では稼働が低下して貨物船が停滞する事態も起きました。

上海の税関当局管内の港や空港での4月の貿易総額は去年の同じ月と比べて40.5%の大幅な減少となったほか、日本への輸出額も57.3%減少しました。

6月1日からオフィスでの勤務を再開した上海の日系の物流会社では、従業員がスマートフォンで陰性証明を提示して出勤したほか、およそ2か月、港に留め置かれていたコンテナなどを倉庫に運び込み、消毒作業を行いました。

この会社によりますと、外出制限の解除にともなって市内での車両の通行制限も撤廃されたため、今後、物流は正常化していくことが見込まれるとしています。

一方、依然として感染対策のため出勤できない従業員もいるということで、制限期間中に依頼を受けた貨物を早く配送できるかが課題になるとしています。

また、上海での生産活動が今後、回復し、貨物が一気に増加した場合、港の作業など、物流が再び混乱する可能性もあると指摘します。
上海丸協運輸営業部の田中秋広さんは、「売り上げ的にもダメージを受け、できることがかなり制限されていたので焦りや諦めに近い感情もありましたが、2か月たってこういう日を迎えたので前向きにやっていきたいと思います。ただ、突然また上海以外の都市で同じような事態が発生するリスクを想定しなければいけないという懸念は残ると思います」と話しています。