女性管理職、増やせますか?

女性管理職、増やせますか?
「女性管理職が少ないままでは、この先、成長できなくなるかもしれない」
企業の男女間格差が世界の中でも大きいと指摘される日本ですが、時代の要請は待ったなし。企業はいよいよ、本気の対応を迫られています。皆さん自身やご家族が働く会社では、どのくらい女性の管理職が広がっていますか?
(経済部記者 茂木里美)

「女性が上司だと…」今もなお

大阪在住の小田尚江さん(46)。大卒で大手ハンバーガーチェーンに入社し、その後、ベンチャー企業の設立に関わって、株式上場の中心的な役割を果たすなど、企業経営に関するキャリアを積み上げてきました。

こうした経験を生かし、管理職としての転職先を探していた時のこと。ある企業の面接で男性の面接官から「管理職は残業が多いし、部下も男性が多いので、女性の上司がうまくやっていけるのか」といった言葉を聞かされたというのです。

結局、この会社は不採用となりました。
小田さん
「まだそういった考えを持つ企業があるんだな、と残念に思いました。女性が活躍しやすい環境になってほしいです」

世界120位、立ち遅れる日本

小田さんの実感を裏付けるような調査結果があります。

1つは「男女の地位の平等感」。内閣府が国民の意識について分野ごとに尋ねたところ、平等と答えた割合が「学校教育の場」では61.2%だったのに対し、「職場」ではその半分の30.7%にとどまりました。

もう1つが「ジェンダー・ギャップ指数」です。

スイスの非営利財団・世界経済フォーラムが発表した去年の指数で日本は、調査の対象となった世界156カ国中120位でした。内閣府の分析では「『教育』と『健康』の値は世界トップクラスだが『政治』と『経済』の値が低い」とされています。
内閣府によりますと、日本企業の女性管理職の比率は、2020年時点で、部長相当職が8.5%、課長相当職が11.5%と、世界的に見ても低いのが現状です。このため政府は、企業の管理職や役員など指導的地位に占める女性の割合を「2020年代の可能なかぎり早期に30%程度にする」という目標を掲げています。

なぜ、日本で女性管理職の登用が遅れているのか。そして目標達成に向け必要なこととは何か。

企業の取り組みの現場から、考えてみたいと思います。

接待ゴルフが昇進基準!?

女性の管理職比率27%と、国内企業の中でも比較的高いことで知られる、情報サービス大手のリクルート。高い比率の秘けつを知りたいと取材したところ、意外な事実を明かされました。

実は長年、管理職に昇進させるための明確な基準がなかったというのです。
直属の上司などが「この社員ならできるだろう」と、属人的な判断で決めていたということです。

その判断の目安も、「転勤できるか」「緊急のトラブルに対応できるか」といったほか、中には「残業のほか取引先とゴルフや会食などの接待ができるか」が判断材料の1つとなっていたケースもあったといいます。
幹部や上司の過去の成功体験に基づくリーダー像に当てはまる社員が選ばれる傾向が強く、残業や休日出勤に支障のない人が優先され、子育て中の女性は選ばれにくかったというのです。

女性の比率が高いといっても結果的に偏った人選になりがちで、真に女性の立場に立った昇進方法だったのか、課題が浮かび上がったといいます。

基準の見える化で女性登用 「VUCA」の時代に

そこで会社では去年、この慣習の見直しに着手。一部の部署で、管理職に登用するための明確な基準を設けました。
具体的には「目標への達成度」や「戦略理解・説明力の程度」「計画の策定や推進力の程度」などといった評価項目からなり、転勤や残業、休日出勤ができるかどうかは関係ありません。

基準の導入により、取り組みをはじめた部署では、管理職候補の女性社員の数がおよそ2倍に増えたといいます。こうした取り組みを含め、リクルートはグループ全体で、管理職と、取締役に占める女性の比率を2030年度までにおよそ50%に高める目標を掲げています。
江藤 DEI推進部長
「新しい基準を考える過程で、リーダーにはどんな人材が必要かを改めて社内で議論できたことがまず有意義なことでした。社会の動きがめまぐるしく変わる中、より強い組織を作っていくためには、多様な人材によるリーダーシップが必要で、女性の能力をいかに発揮できるかが、組織にとって重要だと考えています」
江藤さんは取材の中で、今の時代に企業が直面する課題をキーワードで示しました。それが『VUCA』(=ブーカ)です。

Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=あいまい性の頭文字をとった造語で、ビジネスにとって先行きの予測が困難な状況を表します。この「VUCA」の時代だからこそ、企業にとって人材の多様性がより重要になっているというのです。

厳しさ増す投資家の目線

人材の多様性が企業の成長にとって重要だという視点は、企業に資金を提供する投資家の間でも、年々、重視されてきています。

こうした流れを受けて、東京証券取引所は、企業統治の指針「コーポレートガバナンス・コード」を去年6月に改訂しました。この中で上場企業に対し「管理職における多様性の確保についての考え方と、測定可能な自主目標の設定と実施状況」を公表するよう求めました。
女性の登用に対する投資家の目が厳しさを増す中、企業の間では、女性幹部の育成に力を入れる動きが広がってきています。

人材サービス大手のパソナグループが去年から始めた女性幹部の育成サービスには、金融機関や建設会社など大手企業を中心に参加が相次ぎ、需要の高さを感じているといいます。

「ロールモデルがいない、ならば作る」

実際の業務を通じ女性幹部を育てる動きも。

損害保険大手の三井住友海上は、昨年度から女性管理職だけが就ける新たなポストを設けました。本社の「副部長」と、全国の支店の「副支店長」です。

もともと総合職の女性の採用が少なく、2011年度までは、地域採用の女性は課長までしか昇進できないという制度が残っていました。今は制度が撤廃され、誰でも管理職になれますが、まだ実績が限られ、女性社員にとって目指すべき「ロールモデル」がいないことが課題です。

そこで、女性管理職を配置し、責任と権限を与えることを「制度化」することで、経営幹部を担える女性の人材を育てるとともに、若手の女性社員に管理職を目指す意識を高めてもらうねらいです。

女性の比率を高めるための”荒療治”ともいえる大胆な取り組み。2025年度までの限定で実施し、成果や課題を検証するとしています。

女性管理職をマッチング

さらに、管理職としての能力がある女性の人材を、外部から採用する動きも広がっています。

人材サービスを手掛けるベンチャー企業のWaris(ワリス)は去年から、女性の管理職や役員を増やしたい企業に対し、その能力を持つ人材をマッチングさせるサービスを始めました。東証の「コーポレートガバナンス・コード」改訂を受け、大手企業のほか上場を目指すベンチャー企業などから、すでに100件以上の依頼が来ています。
前述の小田さんも、このサービスに登録した結果、去年12月から都内のヘルスケア関連企業で社外取締役に就任しました。現在は、上場に向けたサポートや、女性の視点を生かしたブランド価値向上のための戦略作りなどのアドバイスを行っています。
小田尚江さん
「子育てをしながらですが、自分のキャリアを築いていきたいという思いがあり、その思いに合致した企業と出会えて良かったです。能力の高い女性は多く、彼女たちが自由に活躍できる場がもっとあればいいと思います」
田中代表
「株主や海外投資家からのプレッシャーを感じている企業も多く、企業側も多様な役員構成をアピールする必要性を感じているんだと思います。また、自分の能力を発揮したいという女性も多く、毎月多くの女性が新たにサービスに登録しています」

企業のホンネ?「早期達成は困難」が半数

ただ、こうした企業の取り組みの一方で、気になるデータがあります。指導的地位に占める女性の割合を高める政府目標について、NHKが国内の主な企業100社を対象にアンケート調査を行ったところ…

「すでに達成」4社、「早期に達成できる」9社、「早期の達成は難しい」53社で半数以上の企業が、達成は難しいと考えていることが分かったのです。

「すべての人によい職場づくりで、次の成長を」

日本総合研究所創発戦略センターの小島明子スペシャリストは、価値観が多様化し、ITの発展など社会が急速に変化する時代に企業が成長を追い求めるためにも、より踏み込んだ対応が必要だと指摘します。
小島スペシャリスト
「企業に今、求められているのはイノベーションを生み出すことですが、それには多様な経験やバックグラウンドを持つ人材の登用が重要です。結婚、出産しても、変わらずに自己の成長を望みやりがいを持って社会で活躍したいという女性は少なくありません。そういった女性の思いや能力を企業が見極め、きちんと引き上げていく必要があります。遠慮して仕事の量や機会を絞るのではなく、経験を積ませ、付加価値のある仕事にチャレンジさせることを意図的に取り組んで育てることが重要です。また、女性の活躍を進めることは、男性や、セカンドキャリアに悩む人など、あらゆる人にとってよりよい働き方を考えていくことにもつながります」
女性が当たり前に活躍できる企業や組織が、市場や消費者から前向きに評価される時代。求められているのは制度の改革だけでなく、男女の役割という根深い固定観念と向き合い変えていく、心構えではないでしょうか。

あなたの会社は、女性が働きやすい会社ですか?
経済部記者
茂木 里美
さいたま放送局
盛岡放送局を経て
5年前から現所属
デパートやコンビニなど
流通業界を担当